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『超獣殲記マツロマンシー』 第三章 街を破壊する甲獣(もの)

 鉤爪の超獣の事件からは超獣に関する事件は無く、数日が過ぎた。
 建人の通う小学校ではスカルヘッドの活躍がすっかり話題となっていた。
 朝礼が始まるのを机に突っ伏して待つ建人。そんな建人に隣の席の男子が話しかける。
「ねえ、タックン。今日の放課後マツロマンシー見に行かない?」
彼は同級生の『白池耕太郎』(しらいけこうたろう)。
 建人は耕太郎の方に顔の向きを変え、
「あのなぁ、コウタロー。見に行くって簡単に言ってるけどな、どこにいるかわからないし、第一近づいたら危ないだろ。」
と面倒臭そうにそう返し、顔の向きを戻す。
「え?マツロマンシーは人には手を出さないよ。」
「そういう問題じゃない!」
「付き合い悪いなぁ…。」
「付き合い良い悪いの話じゃ…。」
建人はそう言いながら身体をまた耕太郎の方に向ける。
 だが、耕太郎の視線は建人ではなく隣の席の方に向いていた。
「あっ!ねぇ、マリちゃん!」
耕太郎は隣の席に座った女子生徒『三入麻里(みいれまり)』に話しかける。
「…っておい、人の話聞けよ!」
建人の注意を無視して耕太郎は続ける。
「マツロマンシー見に行かない?」
「塾あるから無理。」
「ヘイ彼女、俺とマツロマンシー見に行かない。」
「言い方変えても無理。昭和かよ。」
「…。」
「…なによ。」
じとっとした、もの言いたげな目で耕太郎は麻里を見つめる。
「…本当は塾なんか言ってないくせに。」
「うっ…。」
 動揺する麻里をよそに、耕太郎から漂う不穏な空気が徐々に大きくなる。建人と麻里には彼の背後からカミナリの音とともに虎のエフェクトが姿を現しているように見えた。
「お母さんに言ったほうが良いかな?非行に走る友達を知らんぷりできないしなぁ。」
何かマリの秘密を知っているかのように耕太郎は囁く。
「わ、わかったわよ。一緒に行くわよ。行けば良いんでしょ!」
「…で。」
 耕太郎の鋭い視線はゆっくりと標的を変え、建人の方へと向けられる。
「タックンはどうするの?」
「…は?危ないってさっきから言ってるだろ!」
建人はどうにか断る理由を探すため、少し間を空けて答えた。
「はあ…。君には失望したよ、タケル君。なんか付き合い悪いからもう絶交しちゃおうかな?あー、もしそうなっちゃったらあの時の事言わないって誓った友の約束も守らなくて良いって事になるなー。」
耕太郎の負のオーラがさらに大きくなっていく。
「……あのオレンジの件。」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああわかったよ!ついていきゃいいんだろ!ついていきゃ!」
耕太郎に握られている謎の秘密に建人は激しく動揺し大声を上げる。
 すると耕太郎の纏っていた瘴気は消え、後光のエフェクトへと変化した。
「やっぱり持つべきものは友達だよな!おー心の友よ!」
耕太郎はこっそり持っていたゲイリー・ムーアのポスターを広げ自分の顔に当てながら、某国民的アニメの体格と態度の大きな男の子の真似をして答えた。
「どこの独裁者のセリフだよ。それにそのポスターは何なんだよ。一体どういう趣味してんだよ。…いや、まあ似てるっちゃあ似てるけどな。」
二人のボケとツッコミに麻里は
「オレンジって何?」
と問いかける。
「…。」
「…。」
沈黙する二人。
 少し間を空け
「…ま、まあ、あれだよ、オレンジのように甘酸っぱい男同士の約束よ!」
と建人は適当に答えた。
「きも。」
「はーい、みんな席についてくださーい!」
麻里の地味に強烈な一言を遮るようにクラスの担任が声を上げたので三人は姿勢を正した。

 一方その数時間後、とある雑木林に何かを探しているかのように一体の超獣が彷徨っていた。超獣の名は『ηー207 ハードシェル』。
 暫く辺りを歩いているとハードシェルは足元に落ちている捨てられた乾電池に目を止める。
「ハカイタイショウ、カクニン。」
超獣は電子音声のような声を発し、電池を拾い上げるとそれを強く握りしめ粉々に破壊し民家のある方へ向かっていった。

ある男性が幼い女の子と手を繋いで散歩をしている。
「今日の晩御飯何にしようか。」
男性は女の子に優しく話しかける。
「パパの作ったのなら何でも良いよ。」
女の子はにっこりと笑いながら男性の方を向いて答える。
「こら、『何でも良い』はナシ!」
男性が繋いでいない方の手で握り拳を作り腕を上げ笑いながら答えていると
「ハカイタイショウカクニン。」
背後から電子音声のような声が聞こえる。振り向くとそこにはハードシェルの姿があった。
「うあっ!」
男性は咄嗟に娘を抱き抱え、走って超獣との距離をとろうとするが
「あっ!」
躓き電柱の前に娘を抱き抱えたまま倒れる。
「パパ、大丈夫?」
「…。」
心配する娘をよそに無言でゆっくり近づくハードシェル。
「あ…。あ…。」
親子は立ち上がることができず抱き合ったまま言葉にならない声を出す。
男性は娘を庇うように抱いて電柱に寄りかかり蹲る。
 そんな彼の前に拳を引いたハードシェルが佇む。父は自分たちに降りかかるであろう不幸を覚悟し、強く目をつぶり娘を更に強く抱きしめた。
すると、男性の頭上で大きな音がした。
「えっ?」
男性が見上げると、ハードシェルの拳は電柱に向けられていた。
彼はその隙に娘と共にその場から逃げ出した。
ハードシェルはその後電柱を殴り続け破壊するとその場を去っていった。

「…また超獣がいつどこで現れるかもわからないので、おうちにまっすぐ帰るようにしてください。」
 建人たちのクラスは放課後を迎えた。
「帰りの会が終わったどー!」
耕太郎は嬉々として声を上げた。
「ちょっとだけだからな。心の友をまっすぐ帰らない非行少年にしたくなかったらな。」
建人が耕太郎にそう言った次の瞬間、突然教室の灯りが消えた。予期せぬ停電でクラスは静まり返る。
「ん?停電かな?」
耕太郎が教室を見渡しながら独り言のように呟くと
「おい!外に超獣がいるぞ!」
窓際の一人の男子生徒が声を上げる。窓からは破壊された電柱とハードシェルの姿があった。
クラス中から悲鳴が上がる。
「みんな落ち着いて!校内で待機していてください!」
担任の教師が声を上げる。
 その一声で教室が静まり返ったが、程なくしてひそひそ声が教室中のあちこちで出始める。
「タックン、あの超獣なんかヘンじゃない?何で電柱なんか倒してるんだろう?」
「さあな、でも確かに気にはなる。」
建人と耕太郎が話をしていると教室の明かりが非常電源に切り替わり灯りはじめると校内放送のスピーカーから
「先程いた超獣は居なくなりましたが、別の超獣が現れました。テレビとかで『マツロマンシー』と呼ばれている超獣で皆さんに危害を加えることはないとは思いますが、万一の事を考え生徒の皆さんは引き続き校内で待機してください。」
と校内放送が流れた。
「先生たちは職員室で今から会議があるので絶対に教室から出ないようにしてください。」
担任はそう言うと教室を出ていった。
 その直後、麻里の携帯電話が鳴り始め、彼女はそれに出た。
「もしもし、お母さん?…うん。…うん。大丈夫だよ。…うん。…うん。え?超獣が玄海町方面に向かっているらしいって?うん、わかった。今は教室に待機するよう言われてるから帰れるようになったらまっすぐ帰るから。じゃあね。」
「マリ、玄海町方面に向かっているってどういうことだよ。」
建人は身を乗り出すような姿勢で麻里に尋ねる。
「あの電柱壊してた超獣、色んなとこの電柱倒しながら進んでいるらしいって。で、これまでの経路から考えて玄海町方面に向かってるらしいよ。」
「電柱…。玄海町…。あっ!…悪いコウタロー、チャリ借りるわ!」
「ちょ、ちょっと待ってよタックン!」
耕太郎は建人を止めようとするが彼は耳を貸さず教室を飛び出していった。 
 

自転車を全速力で漕ぐ建人。暫くするとハードシェルを見失った様子のマツロマンシーが辺りを見渡し立ち止まっているのが見えた。建人はマツロマンシーの前方に自転車をとめ、
「おい、マツロマンシー!今街を滅茶苦茶にしている超獣は原発に向かってるぞ!」
「…。」
「俺について来い!」
マツロマンシーは理解できたのか静かに頷き、先導する建人に付いていった。
 

「いたぞ!」
建人たちの目線の先にはハードシェルがいた。超獣は既に原発付近の公園まで来ていた。
スカルヘッドはハードシェルを捉えるとその背後から飛び掛かり羽交い締めにする。
しかし、ハードシェルは圧倒的な筋力差でマツロマンシーの腕を振り払う。
マツロマンシーは間合いを取り、『七宝丸』のカードを取り出しそれを使用する。すると自在細胞が銃のような形に変化した。その銃で数発ハードシェルに発砲するが、全身を覆う硬い装甲に傷一つ入れることができない。
 今度は『青獅子』のカードを使用し腕力を強化し硬質化させる。間合いを詰めその両腕でハードシェルに殴りかかるが全く効いていない。
 ハードシェルの装甲は分子結合合金溶射による加工が施されている。これは分子レベルで結合する特殊合金を吹き付けることで、素材をダイアモンドの約3倍の硬度に変えるものである。これによりハードシェルはマツロマンシーからの攻撃を一切受け付けなかった。
「メイレイノスイコウヲボウガイスルモノハ、ハイジョスル。」
それまで一切攻撃を仕掛けず原発へ向かっていたハードシェルはマツロマンシーの方へ身体を向け、彼の腹部を殴った。その一撃でマツロマンシーはその場に倒れた。
 ハードシェルは身体を再び原発の方へ向け進んでいく。
しかしその直後、砂埃が風で舞いそれがハードシェルの目の中に入る。超獣は目を擦った。
 その瞬間を建人は見逃さなかった。
「立て!マツロマンシー!ヤツの目を狙え!」
タケルの声が響き渡る。
 マツロマンシーは力を振り絞り立ち上がり『酒呑童子』のカードを取り出し使用する。
すると腕から紐状になった自在細胞がハードシェルに向かって飛び出しその身体に巻き付いた。ハードシェルは身動きが取れなくなった。
 マツロマンシーはさらに『赤獅子』のカードを使用する。すると、両腕から鋭い鉤爪が伸び始める。
 巻き付いている紐状の自在細胞はそうしている間にもハードシェルの力により音を立てて徐々に切れていく。
間も無く自在細胞は完全に千切れてしまう。
だがその次の瞬間、鉤爪がハードシェルの目を貫いた。
 ハードシェルはその場に崩れ落ちるように倒れ、動かなくなった。
 マツロマンシーはうつ伏せのハードシェルを仰向けにし、白紙のカードをハードシェルのバックルに当てると、カードには『金獅子』の紋章が浮かび上がった。
「終わった…。」
 緊張が解れ呆然と立ち尽くし呟く建人。気がつけばいつの間にかマツロマンシーはその場から姿を消していた。
 彼の脳裏に焼き付くマツロマンシーの勇姿。この出会いは建人の何かを変えようとしていた。

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