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『超獣殲記マツロマンシー』 第二章 『マツロマンシー』と呼ばれる存在(もの)

 ある一家の朝、日の出とともに玄関の表札の『利根山(とねやま)』という文字が照らされ輝き出す。この一家のリビングでは忙しく食器の音や足音がしていた。
「ご飯できてるから早く食べて学校行く準備しなさい。」
「…。」
言われなくたってわかってるよ、と言わんばかりのぶすっとした表情で母親の『琴美』に一瞥をくれる息子。彼の名は『建人(たける)』。彼は眠い目を擦ってテーブルの椅子にかけると、テレビのある方に目線を向けた。
「…昨日また例の超獣が現れ、住民を有害超獣から守ってくれました。」
現場の様子と『人々を救う謎の超獣』というテロップが画面に映し出される。
 その後中継が終わると、スタジオの映像に切り替わった。
「…この超獣の名前を今ネット上で話題となっているウェブサイト『優良超獣を応援する会』は投票結果をもとに候補の中から最終決定し明日発表するとしています。では次のニュース…。」
「…。」
「早く食べないと間に合わないわよ。」
テレビに見入っている彼に琴美は急かした。
「あっ!ああ。」
彼はハッとなり、急いで食事を始めた。

 その数時間後、とある人気のない森林を一人の年老いた男性が歩いていた。彼はしかめた顔をしていた。鼻をつく異臭。彼はその臭いが気になり誘われるようにゆっくりと異臭の強くなっていく方に警戒しながら歩いていく。
 気分が悪くなるような臭いと緊張にしだいに眉間の皺も深くなっていく。
「…っ!」
異臭の先に広がる明らかに異様な光景に彼は息を呑んだ。そこには幾多の獣の死骸が列を為し、不快な臭いを放っていた。その死臭を纏い、
「ウゥー・・・。」
と低く唸りながら人の形をした影が雑木林の奥からゆっくり現れた。それは超獣『β‐201 ハンター』の姿であった。この超獣は “ケモノを狩れ ”という《命令》に基づき、多くの野生生物を手にかけていた。
「はあ…、はあ…。…」
激しい動悸に息を切らす男性。本能的に身の危険を感じ思わず後退りする。
 ハンターと目が合った瞬間、男は全力で逃げなければならないと思い背を向け走り出そうとしたが、
「ああっ!」
その背中にはハンターの鉤爪が突き立てられていた。
 

 翌朝、昨日と同じ日常が繰り返されるように『利根山』という文字が照らされ輝き出す。この家の一日がまた始まる。
 眠そうな顔をした息子。急かす母親。リビングではいつものように忙しく食器の音や足音がしている。
「…。」
 建人が椅子に腰掛け無言で朝食をとっていると、
「…山中から一人の男性の遺体が発見されました。」
とニュースが流れていた。ティスプレイには現場周辺の映像が映し出され、状況説明がされていた。
「物騒ね…。」
 母親はそう呟きながら息子の向かいの椅子に座った。
すると、
「速報が今入りました。有害超獣が住民の方々を襲っているとの情報が入りました。近隣にお住まいの方は外出を控えてください。」
アナウンサーの声が緊張したものになった。
「…。」
「…。」
 モニター越しのその声に食卓は凍りつく。
「今日は学校行くのやめときなさい。」
強張った表情で母親がそういうと、
「…うん。わかった。」
と息子は母親の目を見てゆっくり頷いた。

 一方その現場では《ヒト》を《ケモノ》と認識したハンターが人々に襲いかかっていた。
 逃げ惑う人々。その中に一人、腰を抜かしその場から動けなくなっている女性がいた。
「いやあ!」
叫び声を上げる女性にハンターが右腕をゆっくり上げ鉤爪を振り下ろそうとする。
 だがその瞬間、ハンターの左側から一体の超獣が現れ殴り飛ばした。スカルヘッドである。
 ハンターが倒れ込んでいる間、スカルヘッドは腰部のホルダーから一枚のカードを取り出す。取り出したカードには源義経の家紋が浮かび上がっていた。カードをリーダーに通した瞬間、そこから
「ヨシツネ。」
と電子音声が出力される。
 するとスカルヘッドの右手の掌が隆起し始め、その瘤は刀のような形に変化していく。
「ウッ、ウゥー。」
起き上がり反撃しようと体勢を整えるハンター。
その隙にスカルヘッドは自在細胞でできた刀を握りしめ構え、振り下ろす。
「ウァアアアアア!」
ハンターは体液を吹き出しながらその場に倒れ動かなくなった。
 スカルヘッドは真っさらなカードを取り出し倒れたハンターのバックルに当てる。その瞬間、カードに赤獅子の紋章が浮かぶ。
「…。」
 スカルヘッドは身体の向きを襲われた女性の方へ向け、彼女にゆっくり近づく。
「えっ?」
困惑する女性にスカルヘッドはゆっくり手を差し伸べた。
 その状態で静止している姿を見て状況を察したのか彼女は
「あっ、ありがとう。」
と言い、スカルヘッドの手を取り立ち上がった。

「たった今、鉤爪の超獣が例の人間を守る超獣によって駆除されました。」
テレビのスピーカーからの音声で建人と琴美は胸を撫で下ろした。
 少し間をおいて、
「…ちょっと部屋に戻る。」
建人は琴美にそう言い、自分の部屋に入っていった。
「…。」
部屋に入ると建人はテレビに映っていた人を救う超獣の事が妙に気になり、自分の机の上に置いていたタブレットを手に取った。『優良超獣を応援する会』のページに飛ぶとそこには『マツロマンシー』の文字がトップに並んでいた。
 彼はしばらくそのサイトに釘付けになっていた。

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