ストーリー・セラー(著:有川浩)
「何かおすすめの本はありませんか?」
誰ともなく投げかけた問いに、答えてくれた人がいた。
それがこの本と私の出会いである。
題名を聞いただけでは、どんな本なのか見当もつかない。しかし、著者の名前には覚えがあった。
有川浩…ありかわひろ…、記憶の糸を手繰っていけば学生の時分に目にした事のある名だ。
代表作と言って差し支えないだろう、映画化もされ話題になった『図書館戦争』シリーズの方だと言えば、読んだことがある人もいるだろう。
随分前にはなるが、嵐の二宮和也が主演したドラマ『フリーター、家を買う。』の原作としてその名を知った人も多いのではないだろうか。
前置きはさておき、物語について触れていこうと思う。
複雑な思考をすれば、その分だけ寿命が縮まる病。
そんな聞いたこともない病があったとして、
よりによってその病に侵されたのが「小説家」という思考や想像をいやでも伴う職業であったとして、
何よりも書くことが、想像することが、生み出すことが好きだというよりもむしろ
「書くことそのものが、生きること」
である『彼女』は書く事を諦めることができるのか。
そして、彼女の夫である『彼』は世界中の誰よりも彼女の書く物語のファンでもあった。
一組の夫婦でありながら、同時に『作家』と『ファン』という側面も持つ2人がどの様に病に、生に、愛に向き合い答えを出すのか。
作家である彼女が、文字通り命の限り書いた最期の言葉とは。
ざっとあらすじとして書けるのは、ここまでかと思います。物語はもっと長く深く、視点を変えて続きますがそれは実際に読んでみてのお楽しみという事で。
この本の読中、そして読後に私が強く思ったことは
「実際に、作家になってこそ書ける物語だ。」という事です。
文章を書くことは、正直誰にでも出来ます。
物語を考え、文字に起こす事も。
でも、この物語は『女流作家』有川浩という人だから書き上げられたものだと思います。
そう思わされるほどに、作中の『彼女』が自分の物語に傾ける情熱は時に生々しくまるでそれがひとりの人間というよりも物語を夢想せずにはいられない、書かずにはいられない『作家』という生き物の性のようなものを強く感じさせられました。
そして作中の『彼女』の創作への姿勢は、実際の有川浩さんご自身のものにも通ずるものがあるのではないかと。
そう思ってやまないほどに、この作品には小説というコンテンツそのものへの情熱や愛、さまざまな思い入れが溢れているように思えました。
もしも今、私の文章を読んでいるあなたがこの本を手に取り、読んでくれたとしてあなたは二人の結末を『ハッピーエンド』だと思うでしょうか。それとも、なんて悲しい物語なのだと唇を噛むかもしれません。
気が向いたら、興味が沸いたら是非とも書店で探してみてはいかがでしょうか。まだ見ぬあなたの感想は、あなたの中にしかありませんから。