指す将順位戦9th自戦記 B級1組 11回戦 (vs 島ノ葉尚1級[1468])
遂にこの時がやってきた。
【対局前】
◇対局相手の印象
ヤンデレ
前期B級2組の一位通過者で、相手が居飛車ならノーマル三間飛車、振り飛車なら左美濃が主な作戦。
定跡に明るく、特に古い(江戸時代レベル)将棋とそれに類する歴史に関する造詣の深さは本棋戦参加者随一だろう。
いよいよこれを貼るのも最後になるチャート図。
それによれば定跡派の受け将棋ということだが、前期指した私としては少し異なる印象を抱いている。
◆定跡派…?
例えば前期の対局の島ノ葉尚6級(当時)視点だが、3手目▲9六歩を“気分で”突くというのは定跡派なら(少なくとも、同じく定跡派に分類されている私なら)あり得ない行為だということがご理解いただけるだろうか。
あるいは17手目▲7八銀も同様である。
島ノ葉尚1級が数々の定跡に精通されているのは疑いようもないが、本人の将棋が定跡レベルで固まっているわけではないように思う。
(じゃあ力戦派なのかと言われるとそうではない気がするので、どちらかといえば定跡派ではあるがここまで偏ってはいないというイメージ)
なので対策するときは決め打ちはせず、ある程度網羅的に検討する必要がありそうだ。
◆受け将棋…?
まあこれは実際に指したときの感覚と周りからの評価を見るに間違いないと思うのだが、前期の対局ではこちらが攻めの継続に失敗した結果メチャクチャ上手に攻められ続けたということもあり、「攻めも上手い人」という印象がずっとついてまわっている。
このイメージを幻想にできるか。
◇対戦成績
最速キメ 0 - 1 島ノ葉尚
ようやく指す順自戦記でこの項目が機能するときがきた。
第8期指す将順位戦B級2組1回戦で対戦。
こちらが後手ノーマル三間飛車を採用して対抗形の将棋となり 待ちの姿勢から上手くカウンターが決まったかというところでうっかりで好手を逃してしまい一度不利になってからはボロボロにやられてしまった。
本局はリベンジマッチとなる。
◇事前準備
まずはこちらの動画をご覧いただきたい。
(要点は下記参照)
(13:12~ 「僕は、ここでずほさんが僕の棋譜をどれくらい見てくるかで対応を考えようと思ってたんですよ。要するにずほさんが対策練ってくる人だなって印象を持ってたから、『僕の棋譜を見てくるんだったらこういう指し方を選んでくるだろうから、じゃあこういう指し方しようかな』とかそんなことを考えていたんです。」)
これ、私もあてはまってるよな……。
(17:24~ 「キメさんねぇ~。もうほんとキメさんなんか凄いマークしてくるから……。」)
島ノ葉さんだけを狙っていたわけではないけど、今までずっと初手合いの相手が続いててようやく対戦経験のある相手に巡りあったら それが前期負けて1位昇級を許したプレイヤーって……流石に意識はしますよね。
で、むこうもこっちを意識しているとなったら私からも動かないとな。
ということで相手に戦法を固定させるための番外戦術を仕掛けてみることにした。
名付けて「三間飛車メタってますアピール戦法」!
こんなことしたら三間指してくれなくなるんじゃ?と感じる方もいるかもしれないが、
島ノ葉1級は自分の指す戦法に信念を持っていて、こうやって刺激するほど「じゃあ三間飛車で倒したるわ!」と滾る、タックルを研究してきた相手をタックルで倒す吉田沙保里選手のようなタイプだと感じていたので今回やってみた。
これで外してきた場合は 今度また再戦するときの判断材料になるのでそれはそれで良いと思っていた。
また定跡クイズは序盤を整理しつつ指す順界隈以外の定跡研究家(と普通にクイズを解いてくれる人)たちに向けてのものでもあったし、
後者(と本局に向けた意気込みポストの数々)は格闘技の煽りみたいな感じで指す順が盛り上がる一要素になれば良いなと思ってのものだった。
(ただ格闘技の舌戦といってもトラッシュトークは指す順概要の「運営チームは、昇級や好成績はもちろんのこと、参加者同士が最後まで諦めず、励ましあいながら楽しむ事が大切だと考えます。」の理念に反するし、私個人としてもそれほど面白いとも思わないので健全ながら闘志が見えるような振る舞いを心掛けました。)
(↓これくらいがちょうど良いですよね。)
長くなったが 以上が対局前に表に出した〈準備〉で、ここからが水面下の事前準備だ。
[▲先手番]
こちらが先手番の場合は3手目▲2五歩で形を決める。
狙いは
①:三間飛車により強く誘導する
②:①に通じるが、角交換振り飛車やゴキ中などの変化球をやりにくくする
つまり、「『僕の棋譜を見てくるんだったらこういう指し方を選んでくるだろうから、じゃあこういう指し方しようかな』とかそんなことを考えていたんです。」的な思惑があるなら外しにいく。
③:島ノ葉尚1級を取り巻く3手目▲2五歩という手順を本局採用する遊び心
[関連]
島ノ葉尚「居飛車党への転向を目指して考えていたこと」
にっしー「3手目25歩に論理はあるか」 など
④:1秒でも思考が乱れてくれれば儲けもの
▲7六歩がくるもんだと思って△4四歩をカチカチやってくれていたらそれだけで差がつくね。なんて。
といった具合だ。
その上で三間飛車対策を考えて、本局用意した作戦は一直線銀冠だ。
一直線銀冠を採用するのは久しぶりで、当時は池永本を参考に検討を進めていたが、今回は新たにマリンブルーさんの研究も参考にしながら自分なりに改良した手順を加えて臨もうと考えていた。
①対石田流
石田流を目指す指し方に対しては▲4六歩→▲4七銀→▲3八飛から反発を狙う。
後手△4二角型や△5四歩▲7八金の交換が入った状態などでも併用可能。
②対真部流
本命
島ノ葉尚1級は特に真部流の採用が多い傾向にあるので出現確率の高い局面。
真部流は銀冠穴熊で終わり派閥と銀冠穴熊は真部流で終わり派閥がいて なかなか面白い情勢だが、私は前者の立場で真部流を攻略していきたいと思う。
島ノ葉尚1級も得意形ということで互いの研究と経験値とがぶつかる将棋になるだろう。
③対後手バランス型
銀冠穴熊には三間飛車藤井システム(地下鉄飛車)の方が厄介で、基本的に穴熊には組まずに仕掛けることを考えることになる。
島ノ葉尚1級は△7二玉から美濃囲いに組む手順を指すので地下鉄飛車の進行にはならないと思うが、無理やり右玉調に組もうとするならこんな感じだろうか。
へな急ではないけれど▲4五歩から仕掛ける対策を用意した が、出現率は低めなので局面を覚えるというより大まかな方針を知っておくという方向で。
④対三間飛車藤井システム
“気分”で今回は△7二銀でした、からの銀冠穴熊警戒の布陣ということも考えられなくはないというか、そうなったときにノープランというのは嫌なので想定はしておく。
マリンブルーさんの研究を流用した端玉銀冠+腰掛け銀。基本的には上記研究がベースだが細かい手順は自己流に変えている(△8三銀→△7二金の変化に本家▲3七桂に代えて▲3五歩など)。
⑤角換わり
“気分”でいうなら、もっと最序盤に戻って3手目▲2五歩にこれのしっかり解答はもっているんですかという相居飛車も考えられる。
△8四歩型の角換わりで打開困難というのが3手目▲2五歩の悩みだが、本局は角換わり左美濃を用意。
今期指す順開始直前によく試していた作戦だ(だからチャートがあんなに攻撃寄りになったと思われる)。
これも厳密には 後手に工夫されると千日手になるのではないかと考えているが、マイナー戦法でありその場で対策を考えるのはなかなか大変ではないかと考えている。
仕掛けの見た目のわりに局面が落ち着く変化もそれなりにあるが、そこで経験値が活きてくるはずだ。
[△後手番]
後手番のときも対三間飛車を想定。
こちらが再びNTR流三間飛車でリベンジを狙うことも考えたが、前回採用するか迷った雁木を本局は選んで、前期のifの世界線を体験したい。
⑥対▲6七銀型
雁木穴熊に対して四間飛車に振りかえてくる指し方だがこちらは徹底待機。
千日手を狙って先手番に繋げたい。
⑦対▲5七銀型
本命
前々期9回戦の想定局面と同一。
▲5七銀型は角頭が弱いので急戦を狙いつつ、攻めあぐねてもそれで先手も動けなくなるならそれで良いという考え方。
~対局前まとめ~
先手番でも後手番でも主に対三間飛車を想定。
前期も 受け将棋の相手に対し攻めてきてもらって切り返すという狙い自体は上手くいっていた。
今回こそ成功させられるか。
A級3組に進むために島ノ葉尚1級に勝つというより、
島ノ葉尚1級に勝たないとA級3組には進めないと思っているので その気概で対局に臨む。
【対局開始ッ!】
先手:SaisokuAmanogawa(1733)
後手:ryuswallows(1468)
【1】
本局は指す順放送局の注目局の枠で対局相手の島ノ葉尚1級と共に二次感想戦を含んだ振り返りを行いました。(〈今週の注目局〉チャプターより開始)
そちらもあわせてご覧いただけると嬉しいです。
↓
https://m.youtube.com/watch?v=fUtPCZIf1bE
(指す順放送局につきましては別途記事を書こうと思っています。)
【2】
(↓対局棋譜と振り返りは下記リンクからどうぞ!)
https://shogi.io/kifus/260715
※放送局での振り返りの内容も踏まえて書いています。
◇急所の局面(92手目△2九飛成まで)
本譜▲4三角は秒に追われた一手で、対局中も感触は良くなかった。
代えて▲8四銀と玉頭戦を仕掛けるのが好手だった。
直接の狙いは▲7三銀成△同玉(△同銀なら▲6三桂成)▲6四角打など。
△8四同金だと▲同歩で歩が伸びて、▲8三金や▲6三金などを見せられ後手忙しい。
この一手を詳しく見ていく。
対局中は▲8四銀に△7四金と躱されたときの継続がわからず見送ってしまったが、ここでは▲6三角があった。これは見えない手ではないはずなので対局中に発見したかった。
以下△7五金と角をとってくる手に対しては手順に歩を伸ばして、△2二飛と逃げる手にはさらに▲7四歩と伸ばす。6三の角は桂馬の紐がついているのでむしろ取ってほしいくらいだ。
[a図]から後手はコビンを受けるくらいだが、それでも▲7三金や▲7二角成→▲7三金(銀打)と攻め続けて先手勝勢だ。
玉頭を受ける△7一桂には、壁ができたとみて▲9五歩が上手い攻め。代えて△6二金打に対しても同様の端攻めが有効だ。
後手が素直に応じると上記の進行で後手玉は詰んでいる。
画像の局面以下は△8三玉▲9三角成△7四玉▲7五馬△8三玉▲9三香成が一例で詰みとなる。
なお、[b図]以下△8一玉と逃げるのは▲8二香と捨てるのが好手で△同玉▲9三角成△8一玉▲9二馬まで。
△7一桂や△6二金打が壁になって悪いのなら、壁を作らず受ける△6二金はどうだろうか?
後手は常に▲6三金と打たれる手を警戒した応手が必要。
途中▲8四金に△6二金と打ち直し、千日手もみえる局面では▲4四角が強い手で、▲6二角成から無理やり金を千切り取ってしまう。
さらに▲6四金と清算してしまうのが思い切りの良い一手で、[c図]は先手勝勢。
以下△5一桂という受けには▲6三銀成△同桂▲5五銀△7三玉▲5二飛成で一手一手。玉形に差がありすぎる。
これが穴熊の勝ち方か。
【対局後】
◇本局の振り返り
リベンジ達成!!
序盤でリードを掴み、途中崩れかけたが何とか踏ん張ることができた。穴熊は守備的な構えにみえて攻撃のための防御なので、磐石流とは相性が良くないのかもしれない。私が穴熊が不得意なのはそういうことか。
戦法に自分の将棋を合わせるか自分の将棋に戦法を合わせるかは今後の課題になりそうだ。
本局の1時間後に始まった他局の結果により、結果論としては本局の勝敗に関係なくプレーオフ進出という状況となったが、ここで勝つと負けるとではモチベーションが圧倒的に違う。
「対島ノ葉尚」という観点からみても、前回の負け方がとにかく酷すぎて 存在が大きくなりすぎていたところはあったので 実際に「勝てる相手なんだ」と思えることは今後の再戦を見据えたとき精神的な部分でかなりプラスに作用するはずだ。
ここで勝利できたのは本当に良かった。
対局が終わった瞬間、言葉を選ばずに言えば“敵”だった島ノ葉尚1級は 2日後に迫った指す順放送局を共に成立させるための同士、島ノ葉尚さんになった。
が、それはまた別のお話。
◇最後に
対局前の番外戦術に関連して、ずほさんとのトーク内容の真意について指す順放送局アフタートークで語ってくれた。
(〈指す順における再戦について〉チャプター中盤から)
対局に臨むにあたって「僕が用意しなくても向こうが用意するだろうからそれに対応しようかな」という思考は私にはない考え方だったので今後の参考にしたい。
私の場合はリンク先の対局のように、相手が何をするかわからない場合は自分から形を作って自分の想定局面に誘導することが多い。
あるいは時間に余裕があればリンク先の対局のように全てに対策を用意することもある。
ただ、もっと局面を狭めて考えると先手番における角換わりや相掛かり辺りはこの考え方に近いのかな、と思う。
自分なりの定跡が戦法レベルではなく1手1手のレベルで厳密に定まっているものに関しては相手の棋風や対策に左右されず、日々積み重ねてきた研究結果をそのまま出力すれば勝てると信じているからだ。
その域に達するためには棋理的に対策が存在しない(かつその中で実戦的にも最も有効)という確信めいたものがないと掘り進める覚悟を決めるのがなかなか難しい。
(逆に島ノ葉さんの場合は「棋理的には明らかに悪いけど実戦的には勝ちやすい」という吹っ切れによってこの領域にジャンプアップしているのではなかろうか)
これが対抗形にまで及んでいないのが私の現状だ。
これを徐々に研ぎ澄ましていくのが当面の目標で、対局回数の多い対先手中飛車は少しずつ近づいていると思う。対後手四間飛車は4つにまで絞ったし、本局の三間飛車対策もそれ一本で行っても良いと思えるような内容ではあった(ただし本譜47手目▲1六歩など細かいところはまだまだで、対石田流に対しても事前準備で記した形よりもっと良い指し方があるのではないかと思いはじめている)。
色々な戦法を試すうちにこんな感じで少しずつ戦型の幅を狭めていって、「どんなにメタられても通用しない、あとは深さだけ」というところまでいくのが第一のゴールということになるだろう(ただし後手番の場合は幅広さの方が重要とも思っている)。
来期はその行動原理に従ってやっていくことになるだろうが、実際のところどうなるかはまだわからない。
私は対局を重ねるごとに、時が経つごとに進化(あるいは変化)している。
第7期が始まったときと終わったときとでは、私の将棋の性質はまるで異なっている(例えば 大きな部分でいうと、相居飛車先手番における角換わりと相掛かりの選択比重が逆転している)。
第8期のときも初めと終わりとでは変わっていた。
今期も 始まる前は現状が最適な状態だと考えていたし「これでもやっぱり今回も変わるもんかね」と思っていたが、変わった。
来期はまたどんな進化(変化)を遂げるか、と今からワクワクしている。
が!その前に今期は昇級プレーオフ戦がある。
勝てば3連続昇級となりいよいよA級の舞台へ。
まずは目の前の一局に集中し、オフ期間に自分の将棋の精度を高めるため 力を蓄えておきたい。
私の第9期指す将順位戦はもう少しだけ続きます。それじゃあ。
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