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指す将オープン戦自戦記 (vs にっし~四段[2146])


[まえがきより前に注意点]

この自戦記は書く予定ではありませんでしたが、オフシーズンの余興くらいと思っていたオープン戦が本戦レベルの観戦者数、盛り上がりを見せたために私もそれに応えようということで書くことにしました。

そのため、普段の自戦記では【対局前】の項目までは実際に対局前に書いているのですが、本局の自戦記に関しては以下全て対局後に書かれたものであることを申し添えておきます。
一応対局前に考えたことを思い出しながら書いていますが……。

もうひとつ
対局相手のにっし~さんも本局の自戦記を執筆されました!

全3本の大作で、これにより
「西村駿のnoteの半分(※2025/1/1時点)を最速キメが占める」という実績を達成しました。

とても勉強になる内容なので、未読の方がいらっしゃいましたらぜひお読みください!


まえがき


第9期指す将順位戦が閉幕し、再び穏やかな揺らぎのなかに還ろうとしていた そのとき!

なにやら「指す将オープン戦」なるものがオフシーズンに催されるらしい。
血に飢えた棋士たちには朗報だろう。

が、私は当初静観するつもりでいた。

理由はいくつかあるが、序盤党かつ対局相手に合わせて対策を練るタイプの私にとって 必要以上に指す順参加者と対局を重ねることはストックの消費に直結し、それ即ち戦力低下を意味するからというのが大きい。

対局するだけならもちろんノープランでもいけるけど、それは私が対局者であることによる独自性みたいなものが生まれないよね。

参戦するならよっぽど条件の良い相手でなければ。
例えば
・来期A級2組~B級3組の範囲に入っていない。
(このエリア内は昇級・降級の組み合わせで来々期同クラスになる可能性があるため)
・序盤に明るく、ストックを消費するマイナス以上にこちらも吸収できるプラスがある。
・オープン戦構想の2つ目のニーズも満たせる、つまり客観的にも観てみたいと思われるような対戦カード。
などなど

そんな都合の良い相手がいるわけ……

……



いたーーーーー!!!!!!!

ということで発見した対局当日の朝に申し込み、快諾していただいた。
準備期間は互いに半日程度。

元々あるストックからどう にっし~戦に繋げるか。
そもそもどのストックを選ぶか。

せっかくのオープン戦だから、双方学びのある対局にしたいな。


【対局前】

◇対局相手の印象

33金型早繰り銀の本家
様々な序盤戦術を開拓されているにっし~四段だが、その代名詞といえばやはり33金型早繰り銀だろう。

応用編が発売されたタイミングでまとめて買った記憶がある。
あんた、数年後その筆者と闘るってよ。

升田幸三賞受賞こそならなかったものの、個人的にはそれに匹敵する功績と感じている。
予言通りタイトル戦でも指される作戦にもなった。

やっぱりにっし~四段に勝つならこの「西村駿の33金型角換わり」に勝たないとね。

幸い私は先手番で専ら角換わりを志向するので互いに無理なくこの戦型で戦えそうだ。

指す順放送局#1 より

棋風は攻め将棋の定跡派。
このチャート図だとにっし~四段の自己評価ということになるが客観的にみてもまあそうでしょうというポジション。
定跡派って別に最新型(≒最善型)に限らないと思っているので右に振りきってもよかったのではという気もするが。

私が苦手としているタイプの棋風で、相手のペースに飲まれないようにこちらからも動いていける作戦を考える必要がある。

◇対戦成績

初手合い

私が指す順に参加したときからいる方なのでいつか本戦で当たれたらなぁと考えていたが、私は3連続昇級に失敗し、にっし~四段はS級昇級を成し遂げてしまった。
これは当分対局できないなと思っていたらこのタイミングで巡ってくるとは。
本戦での対局が可能になるのは最も私に都合良く進んだ場合でも第12期で、実際はもっと先になるだろう。
そこまで間があけばお互いの将棋の質はかなり変わっているはず(序盤党なら特に)で、そのときにはストックも補充できているだろうということで手合わせをお願いした。

オープン戦とはいえ真剣勝負。
特にレーティング対局を提案してもらったのは滾った。
私も最低限の緊張感を保つために、不戦勝からのエキシビションなどもレーティング対局を提案するようにしているのだが、今回の場合ここまでレート差があると上位者にとってはハイリスクローリターンになる。
そのため今回はこちらから頼むことなくにっし~四段に選択権を託したが レーティング対局を受けていただいた。

◇事前準備

本局はレーティング的にギリギリ振り駒の範囲内であったが、双方の合意によって手番は▲最速キメ-△にっし~で固定。
そのため本局は先手番のみの準備となる。

さて何をするかというところだが、オープン戦という機会なので最速キメ戦だからこそ実現するような盤面を作りたい。
最善手順で押し潰すだけならにっし~四段が一人で検討するかfloodgateにでも行ってソフトと対局してくれば良いわけで。本戦であたっていたらそういった指し方も考えるが、ことオープン戦に関しては「私が対局者であることによる独自性」などと宣ったからにはそういった面でも意義のある対局にしたいと考えていた。

また、こういったことから今回はいつもとは違う形式で共有する。

初めは棋譜ファイル+棋譜コメントの予定だったが、せっかくの機会なので将棋MAPを利用して作成した。


▼こちらがそのリンクです▼
https://shogimap.com/F1gEHQvjnyAuEwHS4dcA


[!注意!]
テーマは「学びある対局」で、可能な限りストックを(無理やり)合体させ、それぞれのポイントを経由するように仕上げました。
また対局を踏まえてさらに修正を加えることもできましたが あくまで「事前準備」ですので、対局前の半日ほどで用意した手順をそのまま載せています。
ライセンスに抵触するような将棋ソフトは用いていないためそういった面での心配は不要ですが、以上の点から実用性はなかなかに低いという点はご留意いただきたく存じます。
もし興味深い局面・変化がありましたら 各人がその部分を切り取って研究を深めていくというのが最も現実的な使い方になると思います。

~対局前まとめ~

我々アマチュア棋士ではめったに経験できない 本家との戦い。
教わる気持ちは持ちつつも、勝負なので当然勝つつもりで挑む。
S級vsB級1組と考えると大差に見えるけど、四段vs二段と考えると一発入りそうな気がしてきた。



【対局開始ッ!】

先手:tonnami(2146)
後手:SaisokuAmanogawa(1772)

※実際の対局は手番調整のため初手から玉の移動を挟んでいますが、振り返りでは省略しています。

つまり、以降はすべて

先手:SaisokuAmanogawa(1772)
後手:tonnami(2146)

であるものとして扱います。

(↓対局棋譜と振り返りは下記リンクからどうぞ!)
https://shogi.io/kifus/261083







[画像置き場]

局面A
局面B













◇急所の局面(68手目△9七歩まで)

[基本図]

ここで実戦は▲8八金と受けたが、ここは▲9七同香ととってこちらが有利だったという。
ではどのように有利にしていくのだろうか。

[基本図]以下 ▲9七同香 △8五桂 ▲8八銀 △9七桂成 ▲同銀 △9九角成 ▲7七桂 △9八馬 ▲8六銀 △8二香 ▲6四歩 △同銀 ▲6三歩 →[a図]

[a図]

当然△8五桂が気になるが、▲8八銀と引いて良い。
角を成らせる手順はなかなか本線では読めないが、冷静に▲7七桂→▲8六銀としてみると後手は攻めあぐねている。
銀を狙う△8二香の追撃が自然だが、それには▲6四歩→▲6三歩というカウンターがあった。

対して①△同玉は▲5六銀と出て攻めがうるさい。以下△3六歩には気にせず▲6五銀△同銀▲6四歩が厳しい。

②△同金は▲7二角がある。△7一飛と催促するくらいだが▲6三角成△同玉と切ってしまって▲5六桂△5五銀▲6五桂が強烈。次の▲5三金をみせ、下手に受けると▲5三桂成の開き王手がある。

というわけでこの歩は取れないがそれは先手好調だろう。
金の逃げ場も難しく、③△7二金には玉との位置関係をみて▲5六桂が好手。
④△6一金には▲4六角が良い手で、△5五銀には▲同角△同歩▲7三桂がある。今度は飛車との位置関係を咎める手だった。

とこのように攻撃速度が逆転し先手ペースになる。
角を成らせる手順を読めなかったのはそうだが、後手陣が意外と脆いというのはあまり考えなかった。
この後手の形は相掛かりの将棋でも出現しそうなので、こういった筋があることは覚えておきたい。


【対局後】

◇本局の振り返り

お互いの思惑が交錯し、捻れた序盤になったが結果的にはにっし~四段の土俵になってしまった。
準備期間が十分でなかったとはいえあそこで△9四歩が入っていないというのはちょっとお粗末だった。
こうなると一方的に蹂躙されるパターンになりかねないとも思ったが、しばらくは若干悪いなりに拮抗した将棋にできたのは自信になった。
しかし終盤勝負にならず中盤で崩れてしまったのは残念。本当に久しぶりにあの手の類いのミスをした。
多分前期1回戦ぶりくらいだが、今回はそのときより致命的。稀に決定的な手を失念するエラーが発生するのはなんとかしたいが、これは55秒指しのどこで無心状態を作るかという課題とセットで来期考えることになると思う。

◇最後に

対局前まとめでも 感想戦でも言ったことだが、ある戦法の本家本元と対局できる機会なんてめったにないことで、その時間を堪能できた。さらに勝てれば最高だったけどね。
にっし~四段の方にも新しい発見を贈れて有意義な対局になったようで本当によかった。
オープン戦に申し込んだ甲斐があった。
私の方も新しい発見があり、来期までの課題も見つかった。
今度こそオフ期間に入るので、今ある弱点を修正して、来期こそA級昇級を実現させたいと思います。それじゃあ。

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