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ゆきえさん

*2020/2/21初出。
先日、30年来の友人が歌集を上梓しました。とても素敵な歌集で、そんな歌集を出した友人もとても素敵な女性。さらに、その友人を紹介してくださった方、ゆきえさんがまた、ほんとうに素晴らしい方なのです。

ゆきえさんにお会いしたのは、高校教員をしていた時。二校目の勤務先でした。ゆきえさんは数学教師。私は国語と、担当教科は違っていましたが、同じ学年の担任同士として仲良くしていただきました。

今でこそ、不登校児童・生徒及びその家族の支援活動をしている私ですが、実を言うと、教員時代、私自身が不登校(行きしぶり?)だったような気がします。私が教員になったのはもう30年以上前。今そんなことしたら懲戒処分だよね、という指導が横行していました。そんな時代だったのです。

締め付けが厳しい生徒指導。生徒と教員が反目するような環境で、ほんとはどうでもいいと思っているようなことをしつこく指導しなければならない日々は私にとってかなりストレスフルでした。髪が赤くても、スカートが長すぎても、ほんとのところ、どうでもいい。いや、むしろ面白い。そんな本心を偽りながら勤めた教員の日々に、いつか私の心身はダメージを受けていました。

朝、どうしても起きられない日がありました。扁桃腺炎を頻繁に起こすようになり、抗生剤もなかなか効かなくなりました。怠業。自分でもそう思いました。この仕事に全く向いてない。そんな風に考えては、動けなくなる私を気遣い、励ましてくださったのがゆきえさん。

ゆきえさんが声を荒げたところを見たことがありません。かなりの傑物(!)と思われる生徒もいつの間にか、ゆきえさんに心を開き、信頼していました。「どうしたら、そんなに生徒と付き合えるんですか?」ゆきえさんに聞いたことがあります。

「自分が楽な方法で生徒に関わればいいんじゃないかな。」

目から鱗!

教員一丸となって…という生徒指導方針をさらっとスルーしていたゆきえさん。全体主義的圧によって失われるものに、とても敏感な方でした。今ようやく取り上げられるようになった「子どもの権利条約」について、最初に教えてくださったのはゆきえさんでした。この一事をもってしても、この人の教師として、いや人間としての志の貴さがわかります。
 
職員室の隣りの席で、ゆきえさんを訪ねてくる生徒たちを見るのは楽しかった。ゆきえさんの笑顔が、その子たちを笑顔にしていました。生徒を変えるのは怒声ではない。それを実感しました。

私は、と言えば、相変わらずの熱発、行きしぶりの日々。でも、ゆきえさんのおかげで、自分が楽でいられないと、周囲も楽でいられないことがわかり、キャラに合わないことはやめようと思えたことで、ずいぶんストレスが軽減されました。

とにかく行きさえすれば、ゆきえさんがいてくれる…。私でさえそんな風に思っていたのだから、生徒がそう考えたのは当たり前でしょう。そんな先生がひとり、ほんとにひとりでもいてくだされば、救われる子はたくさんいます。

私自身は結局、そんな教員になれないまま退職してしまいました。決断が早くて良かったと思っています。でも、辛いことがあると、今でもゆきえさんの笑顔を思い出して、励まされます。人生の要所要所で支えになってくださる方と出会えたことをとてもありがたく思っているのです。

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