【トークノミクス研究】「Sparkadia」に見るゲームファーストの経済圏設計
まえがき
昨今のGameFi界隈では「キャプテン翼 Rivals」が話題をさらいました。
ローンチ前から運営がトークンを売り続けたことで大きく価格を下げ、ローンチ後にも入金金額以上に出金できてしまうというバグが見つかり、「出金貫通」という言葉も生まれました。
トークンの運営売りについては価格調整を行う旨はホワイトペーパーに明記されており、その是非についてはここでは論じません。
この件で改めて浮上したのは、独自トークンを発行するブロックチェーンゲームは否応なしに投機勢(もしくは運営)による価格変動に(多くはネガティブな形で)翻弄されてしまう、という問題点ではないでしょうか。
ブロックチェーンゲーム全体として「稼げる」よりも「楽しい」を重視するトレンドが拡大する中で、この問題はより先鋭化してきていると思います。
今回、上記の問題への1つの回答として、「Sparkadia」(スパークディア)というプロジェクトの経済圏設計を取り上げてみたいと思います。
Sparkadiaとは?
「Sparkadia」はWorldspark Studiosというゲームスタジオが開発するNFTゲームプラットフォームです。プロジェクトメンバーはRiot、EA、Blizzardなど、著名なゲーム企業の出身者20名ほどで構成されています。資金面では、2022年2月にAnimoca Brandsなどから300万ドルを集めています。
Sparkadiaの世界観
Sparkadiaは開発元のWorldspark Studiosの手による、同じ世界、物語、キャラクター、経済によってつながった一連のゲーム群を指す、とされています。
個々のゲームの上に「ハブワールド」と呼ばれるメタバースのような世界が存在し、そのメタバースが各ゲーム(スポーク)に繋がっている、というイメージです。ホワイトペーパー上では、Sparkadiaは「ゲームセンター」のようなもので、プレイヤーが最初に訪れ、他のプレイヤーと交流する場所がゲームセンターのロビー(ハブワールド)で、ロビーに並ぶ多種多様なゲーム機がスポーク、と表現されています。
この世界観のもと、Sparkadiaでは自社のエコシステム内では、NFTの相互運用性を確保する(ゲームAで使えるNFTがゲームBでも使える)という方針を打ち出しています。
第一弾ゲーム「EdenBrawl」(エデンブロール)
EdenbrawlはSparkadiaで最初に提供される、アクションバトルとMOBAを組み合わせたゲームタイトルです。5人のチームを組み、マップ上でボールを相手と取り合って、相手陣地のエンドゾーンまで運んで得点を競い合う、という内容になっています。
ゲーム内容については以下の記事でも解説されています。
なお、ゲーム自体はまだローンチはされておらず、ロードマップによると、2023年の6月にクローズドβ版を提供、本ローンチは2024年以降になるようです。
Sparkadia経済圏の設計思想
Sparkadiaプロジェクトは「Game First, Blockchain Second」というビジョンの基で運営されています。金銭的な価値ではなく、エンターテインメントの価値を重視し、「ゲーム自体の面白さにとって何がベストか?」を意思決定の基準としているとのこと。
ゲーム開発においても「ブロックチェーンは意味があるところだけ」(”ゲームプレイをWeb3の壁の後ろに置くことはない”)という方針をとっており、例えば、MOBAのような対戦形式のゲームではオンチェーン性がゲームプレイとってあまり意味がないため、基本的にオフチェーン、逆にRPGにおいてはオンチェーンであることがゲームプレイに好影響をもたらす要素がある(アセットの獲得など?)ため、部分的にオンチェーンにする、というように、オンチェーン要素とオフチェーン要素をユーザーのゲーム体験という軸で使い分けています。
この思想は経済圏設計にも貫かれており、ゲーム経済圏の発展に寄与しない投機勢(harmful value extractors)を極力排除し、トークンとNFTのインフレをできる限り抑えて、ゲーム好きなプレイヤーにとって価値のある経済圏を安定的に運営することに重きを置いています。
Sparkadia経済圏のコア
Sparkadiaの経済圏でコアとなる要素は「オンチェーンの独自トークン$SPARKS」「ゲーム内通貨Jingles」そして「オフチェーンの抽選チケットモデル」です。
それぞれの概要と役割を簡単に図解すると以下のような感じ。
Web2型ビジネスモデル×Web3型インセンティブ
Sparkadiaでは、運営のメインの収益源はゲーム内通貨Jinglesの売上になっています(フィアットか$SPARKSで売る)。
これはスマホゲームで魔法石に課金させるのと同じなので、ビジネスモデルとしてはWeb2型のスマホゲームと同じです。
このメリットとしては、運営が$SPARKSの価値上昇から収益を得る必要がなく、運営が巨大な売り圧となることを避けられる、ということが挙げられます。
$SPARKSはオンチェーン上で発行される暗号資産で、Sparkadiaでも通常のPlay to Earnゲームのようにゲームプレイの報酬として機能します。
しかし、抽選チケットモデル(後述)によりインフレを避ける仕組みが導入されている他、$SPARKSステーキングについても、一般的な暗号資産のステーキングと異なり、報酬はNFTなどがもらえる抽選チケットなのでインフレに繋がることはありません。
このような仕組みによりインフレを抑制しつつ、経済圏内に$SPARKSの消費ポイントを複数組み込むことによって、トークン価値を持続的に維持しようとしているようです。
なお、$SPARKSのユーティリティとして「報酬のブースト」がありますが、$SPARKSをたくさん消費しても、それが直接的によりたくさんの$SPARKSを稼げることにはならない(あくまで報酬の獲得方法は抽選で$SPARKSを得られるとは限らず、NFTを獲得したとしてもそれが$SPARKSの獲得効率に寄与しないNFTの可能性もある)という点がミソかと思います。
報酬配布はすべて抽選チケット方式
Sparkadiaでは、すべてのゲーム報酬($SPARK、NFT、オフチェーンのゲームアイテム)は報酬プールから抽選チケット方式で配布される形になっています。
プレイヤーは好きな報酬を獲得するために、できるだけ多くの抽選チケットを獲得すべくゲームをすることになります。このモデルだと、報酬プールの上限=NFT・トークンの供給上限、となるので、運営の意図に反して過度にインフレが進むということがありません。
運営は毎月の抽選への参加者数、マーケットプレイスでのNFTの取引価格、$SPARKSの価格推移を見た上で次月の報酬プールを決定するとしており、蛇口を捻ったり締めたりといった供給調整がかなり柔軟にできるモデルとなっています。
まとめ
Sparkadiaは「Game First、Blockchain Second」という言葉に象徴されるように、Web3発想というよりも、Web2ゲームに以下に自然かつ意味のある形でWeb3要素を組み込むか、というチャレンジに見えます。
ビジネスモデルをWeb2ベースにしつつ、抽選チケット方式を取り入れることにより、独自トークンのインフレの抑制は相当程度可能な一方で、いわゆるPlay to Earn的な魅力はかなり削がれています。
結局のところ、これのモデルがどれだけ成功するかは、金銭的なメリット以外の部分でのゲームの訴求力=ゲーム体験自体の面白さ×(独自トークン以外の)報酬の魅力度、がどれだけあるか?にかかってくるように思えます。
こういってしまうと、「稼ぎ」or「楽しさ」の二元論に回帰している気もしますが、Sparkadiaもおそらくはその中間地点、両立しうるポイントみたいなものを探っている気がしており、メタバース上で複層的に設計されたゲーム世界、いろんなタイプの報酬を闇鍋的に詰め込んだ抽選型報酬プールなどはプレイヤーの「合理」と「非合理」をうまい感じにごちゃ混ぜにする試みにも見えます。
なお、SparkadiaはゼロからIPを構築しようとしている事例ですが、下記のHashHubさんの記事(有料)では、このモデルと既存の人気IPを掛け合わせた方式が言及されています。確かに非合理なユーザー行動を生み出す意味では既存人気IPの掛け合わせは強そうですね(Web2ゲームの歴史が証明している通り)。