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「りんぷるさん」

「りんぷるさんって知ってます?」
天神橋筋商店街で、知り合いとどうでもいいことを話していた時に、急にこんなことを聞かれた。
「りんぷるちゃん? 聞いたことないですね。なんですか、それ?」
「あ、なら田辺さんはまだ会った事がないってことですよね。最近よく自分はりんぷるさんに会うんですよ。で、りんぷるさんってね、会ったことない人に話すると、出会いやすくなるって言われてるんです」りんぷるさんの話はそこで終わり、すぐに別の話題に移った。でも、頭の中にその奇妙な響きを持つ名前だけが、残っていた。

知り合いと話してから、二ヶ月くらい過ぎた頃、商店街の人通りの中で、私はりんぷるさんに出会った。
時間は昼の二時過ぎくらいだったように覚えている。
ピンク色のふわふわのレースの付いたチュチュのような服を着ていて、襷がけをしていた。
黄色い籠を背負っていて、頭は黄緑色に染められて小さな三つ編みを地肌に張り付けるような髪型の、コーンロウスタイルだった。
あたしりんぷる「名刺を取って」
りんぷるさんはくるっと後ろを向くと、スカートを捲ってお尻を突き出し、その間に「りんぷる」と書かれたラメ粉を塗した名刺が挟まっていた。
取ろうかどうか迷っていると、りんぷるさんはスカートを下ろして、スキップで商店街の雑踏の中に消えてしまった。

未だに、昼下がりに見た夢なのではないだろうかと、あの光景を疑っている。

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