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非物流業界から物流業界のルート最適化に挑む「株式会社オプティマインド」松下さんの苦労とやりがいとは

「世界のラストワンマイルを最適化する」をミッションに掲げて、物流業界のルート最適化に挑む「株式会社オプティマインド」。

代表取締役社長の松下 健さんは非物流業界出身ですが、「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」をきっかけに物流業界こそがマーケットの課題と自社の技術が見事にマッチしていることに気づいたそうです。

そして現在は、物流業界に携わるやりがいをひしひしと感じていると語ります。非物流業界から物流業界を変えていく松下さんの苦労や努力、そして醍醐味を伺いました。

「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」のおかげで物流のルート最適化という軸ができた

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株式会社サムライインキュベート Partner 長野 英章(以下、長野):まずは松下さんの会社概要のご紹介をお願いします。

株式会社オプティマインド 代表取締役社長 松下 健さん(以下、松下):株式会社オプティマインドは「世界のラストワンマイルを最適化する」をミッションとして、物流業界の配送ルート最適化のスタートアップをしています。

物流のサプライチェーン全体のなかで、宅配や店舗配送、飲食店への食品酒類卸など生活に密着した配送事業者を対象としてます。

現在は6期目で社員数35名、累計で11億1,300万円の資金調達を達成しています。東海地方では3社しかない経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム「J-Startup」にも選ばれています。
創業は2015年ですが、登記前から私一人で事業をしていました。組合せ最適化の研究者だったのでそれを活かしたいと思い、合同会社を設立したところからスタートしています。

長野:初めからルート最適化や組合せ最適化に関わる事業をされていたんですか?

松下:一番初めは、組合せ最適化を活かして様々な業界に対してコンサルティング事業を行うというところから始まっています。「組合せ最適化のコンサルティングをします」というようなビラを作成し、私ともう一人の2人で始めました。しかし、まだ世間はAIブームではない頃だったこともあり、どの会社も反応が今一つでした。それでも1年間は会社訪問を継続したのですが、最終的に組合せ最適化は使えないと一旦失望した、というのが本当のところです。

その後、2年ほどは今の事業とは関係ない分野でアプリを作成していたのですが、ベンチャーコンテストで準優勝できたり、メーカーの3次下請けが受託でき売上を少し立てられるようになったのです。

しかし、受託開発を行なうなかで、これからも受託を続けるのではなく、原点に戻り、組合せ最適化がやりたいと思うようになりました。この頃から再度最適化事業に戻り、業界問わず会社訪問を始めています。

長野:その後、転機となったのはいつでしたか?

松下:これは、お世辞抜きで日本郵便株式会社と株式会社サムライインキュベートが共同で行った日本郵便初のオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」です。

当時は対象市場の軸が定まっていない状態でした。そのため、卵の産卵予測や営業マンのルート最適化なども行っていました。

しかし、いろいろな業界を回ったことで、マーケットの課題性と私たちの技術面が物流業界に見事にマッチしていると感じるようになりました。そのタイミングでプログラムがあると聞き、応募しました。

「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」での優勝を通じて長野さん(本記事 インタビュアー)と運命の出会いを果たしてから、スケールを大きくしていくことができました。

非物流業界出身だからこそ苦労した3つのこと

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長野:松下さんは物流業界出身ではないですが、非物流業界出身だからこそ苦労したことはありますか?

松下:1つ目は、プロダクト設計において油断するとモダンな製品になってしまうことです。自社プロダクトを作りそれを自社メンバーで実際に配送しながら使用し試すことができないのが理由です。

現場の解像度や肌感はとても大切で、物流業界でのITに対する見え方や捉え方にとてもギャップを感じました。

例えば、私たちIT業界にいる人間からすると当たり前の機能でも、現場では使い方が分からないことがあります。現場の方々に寄り添うように最適化することは欠かせないという点で、プロダクト設計はとても難しかったです。

2つ目は、物流業界での信頼を得るために、誰に会うべきか判断できなかったことです。初めは様々な業界の方々にお会いしたり、東京のイベントに顔を出したりしていましたが、事業成長にはつながりませんでした。そのため、物流業界の方々やコミュニティを見つけて入り込むまでに時間がかかりました。最初からどのようなコミュニティや協会があるのか把握しておくべきだったと感じています。

3つ目は些細なことかもしれませんが、物流業界の共通言語を知らなかったことです。物流業界に身を置いていれば当たり前に身につくことかもしれません。しかし私は非物流業界出身なので本には載っていない業界用語を知り、理解するまでに時間がかかりました。例えば、配送アセット(車両とドライバー)のことを足回り、ルート最適化のことを配車組みと呼ぶということなどが初めは知りませんでした。業界用語を知っているかどうかで先方の受け止め方が変わることがあるので、苦労した部分ではあります。私がもう1回起業することがあるなら、まず半年物流会社で働きたいです。

長野:やはり、非物流業界ならではの苦労があるのですね。実際に物流業界に携わってみて、自分が思っていたことと合っていた点や違ったと感じた点はありますか?

松下:物流業界に携わってみて思っていたことと合っていたと感じたのは、検証をしなくても明らかなほどの、強烈な課題は存在していたということです。実際に、物流現場に行くと人手不足や多忙などの理由から、ルート最適化にすぐ興味や関心を持って頂けました。そこまで時間をかけなくても、物流業界にマーケットがあることが検証できたので、思っていたことと間違っていなかったと感じます。逆にギャップを感じたのは、思っていたよりもITへの抵抗が大きかったところです。紙や電話での運用が中心である現場には、配車に必要なデータが電子データとして無いという前提を持ってはじめからチャレンジすることが大切でした。

物流業界を知るためには現場に足を運ぶ

長野:非物流業界出身だからこそ、物流業界を知るために努力していることはありますか?

松下:物流業界を知るために、意識的に行っていることは3つあります。

1つ目は、定期的に物流の現場に足を運ぶことです。去年の12月に1週間ほど物流会社で働きました。なかなかそこまではできなくても会社を訪問することが大事なので、定期的に事業所へ伺うよう心がけています。

長野:派遣社員として働いていた1週間は、どのようなことをしていましたか?

松下:配車マン兼ドライバーとして、物流会社の作業着を着用して業務をしていました。家具の組み立てやゴミの回収など、さまざまな実務を体験しました。そこでどのような労働環境下で業務をしているのか、身をもって体感できました。

長野:現場に出向くからこそ分かることがあるんですね。他の2つも教えていただけますか?

松下:2つ目は一般的ですが、物流業界の業界人と言われる人が発信していることや内容をチェックすることです。どのような概念を提唱しているのかや、どのような予測をしているのかはキャッチするようにしています。

そして3つ目は、物流業界を変えようとされている業界の方々と会食をすることです。物流業界の人と、月に2回くらいのペースで会食をして情報交換や情報収集をするように心がけています。

非物流業界出身だからこそ期待してもらえる

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長野:物流業界の変革という大きなチャレンジをされていますが、非物流業界出身だからこそ見えてくる可能性について伺いたいです。

松下:良い意味でも悪い意味でも物流業界に囚われず客観視できるので、物流業界だけでクローズしないビジネスモデルを描けるのはメリットだと思います。

例えば、コンシューマーとどのように結びつけられるか、物流の車両ではないタクシーとの連携はできないのかなど広い視点で考えられます。

醍醐味という点で言えば、新参者の私たちに対し、業界の方々が温かい目で期待いただいていることです。過去に配車システムの改善を頑張ったけれど大変だった、難しかったという経営者の人たちから、夢を託したという思いがひしひしと伝わってきます。

私たちが何とかしなければならないという使命感が生まれますね。

長野:具体的なエピソードはありますか?

松下:一番初めにお会いした名古屋の物流会社さんに言われた言葉があります。「物流業界の常識に囚われずに、ただ覚悟だけは決めて来るように」と言われました。

そのときに「大きくなって戻って来なさい」と言われたので、未だに戻れていないのですがいつかその方に会食をご馳走するのが私の一つの目標となっています。

長野:それは何年目のエピソードですか?

松下:創業した年のエピソードです。意図しないで物流業界に戻ったので、今でも背負っている言葉ではありますね。

長野:他にもエピソードはありますか?

松下:初めて契約をいただいた物流会社さんの話なのですが、「物流業界にはさまざまなしがらみがある。だからこそ非物流業界の人がフラットに戦っていかなければならない」と言っていただきました。

「変化を望んでいる人と付き合いをしていくといい」とアドバイスもしてくださり、温かい言葉に安心しました。

物流業界は何よりも大切なライフラインに携われる

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長野:最後に、これから物流業界で起業を目指している人へのメッセージををお願いします。

松下:物流は私たちの暮らしに欠かせないライフラインとなっています。
これからのテクノロジーの醍醐味は、ITだけで完結せずにそこからどうリアルの意思決定に入り込んでいくかというところだと思います。そのためのAIやIoTだと思います。

ドライバーさんがいる現場はどれくらい改善されたのか、配送効率はどれだけ上がったのかというROIが明確に示せるのは、物流ならではの面白さだと思います。

人々の生活を支えるライフラインとしてやりがいがある業界なので、ぜひチャレンジしてみて欲しいと感じます。

ライフラインに直結する物流業界でスタートアップを目指す

今回は「株式会社オプティマインド」代表取締役社長の松下さんに、非物流業界から物流業界を目指す醍醐味や苦労、そしてやりがいなどを伺いました。
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