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涙のROCK断捨離 48.KLAUS_NOMI「KLAUS NOMI」

クラウス・ノミ「オペラ・ロック」/KLAUS NOMI「KLAUS NOMI」
1981年

先日のテレビで見た「塩の魔人」には腰を抜かしました。
なぜ、この時代に、お笑いの番組で、クラウス・ノミ 
50代のロック・オヤジは大いに混乱したわけです。

クラウス・ノミを知ったのは、1980年代、美術大学で現代美術を学んでいた時でした。
その頃は、20世紀以降の芸術表現を学ぶ中で、様々な芸術運動、既成概念の変化、表現方法の進化、テクノロジーや経済との関係などについて興味を持ち、情報を吸収していました。当時はファッションとアートの関係も密接で、コンテンポラリー・アートについて詳しいと、女の子との話題にも使え、学ぶことが楽しかったという背景もありました。

音楽については、トーキング・ヘッズが大ヒットし、その他にもウルトラ・ヴォックスディーヴォジョイ・ディビジョンなど様々なタイプ、一般受けはしなさそうなアーティストまで、メジャー・シーンで人気を獲得をするような時代でした。

大学では、未来派という「・・・咆哮する自動車は、サモトラケのニケよりも美しい(ナイキの名称とスィッシュの原案になったと言われる羽のある女神像)」と謳った芸術運動を深堀りしてゆくのですが、その周辺で、ダダイズムやバウハウスなどにも触れることになります。
そんな時に現れたクラウス・ノミは、現代に蘇ったオスカー・シュレンマー「トリアディック・バレエ」やフェルナン・レジェ「バレエ・メカニック」のようで、一瞬にして私を虜にしてしまいました。
同時期に私が魅かれた、セルジュ・ルタンスのような、ゴシックでありつつ先端の技術を駆使して作り上げられた完成度の高い芸術に比べると、クラウス・ノミのパフォーマンスは、奇怪ではあったものの、安っぽく素人臭いものでした。それでも、誰からも認められない異質さと孤独感は、充分に魅力的だったのです。

彼が、ゲイであったことは有名でした。
そんなことから、後にはカルチャー・クラブボーイ・ジョージソフト・セルマーク・アーモンドと重ねて見られることもありました。(ワムジョージ・マイケルはこの頃はカミング・アウトしていなかったと思います。)
彼らは、ショー・ビジネスの世界で成功していましたが、クラウス・ノミはそうした世界にも馴染めない居心地悪さのような空気を纏っていました。
孤高の芸術性と同時に漏れてくる、チープさ、真面目さ、気恥ずかしさなど、ダメな感じも含めて、自意識過剰な大学時代の私は魅了されたのでした。

彼という存在自体がアートだったので、あまり音楽についてはしっかり聴いていませんでした。
ただ、当時流行していたテクノやニュー・ロマンティックっぽいサウンドに合わせて歌われるオペラ調のボーカルは、彼の奇妙なスタイルにマッチしていました。本格的なオペラの教育を受けていたという話しもありましたが、私の方にオペラを聴き分ける素養がありませんので、歌のクオリティは求めませんでした。

ここまでくれば、曲が良いかどうかは関係がありません。そんな既存のモノサシで評価することが間違っているのです。
キワモノであると言われれば、それも否定できません。ただ、彼もまたシュールレアリズムの作家ダリのような、特異な芸術家であるのだと言えば、それも正しいと思えます。さらに彼は芸術家であると同時に、自分自身が芸術作品なのですから。世界で最初にエイズで亡くなった著名人というこの世の去り方も、まるで彼の創作の一環であったかのようです。

改めて彼のデビュー・アルバムを聴き直し、さらに彼のライブやテレビ出演の映像をYoutubeで観て、なんだか痛々しい気持ちにさえなってしまいました。特にバンドはひどいです。
彼の名前を有名にしたデヴィッド・ボウイとの共演(バック・ボーカル)にしても、今の感覚では目を覆いたくなるレベルのものでした。
(ひょっとしたら、醤油の魔人は、ここで共演しているジョーイ・アリアスでしょうか。)
この状況で最後までやり切っているというところには、敬意を表したいと思います。(Youtubeには、これまで知らなかったドキュメンタリーなど、非常に興味深い映像がいくつかありました。後で観てみようと思います。)
同時に、この映像を観て、ルー・リードのライブ「ベルリン」にバック・ボーカルで参加して異彩を放っていたアントニー&ザ・ジョンソンズアノーニを思い出しました。(こちらは、感涙ものです。)

孤高とまで表現しながら、衣装やメイク、オペラ唱法、電子楽器とロックのサウンドまで、全てがどこかからの借り物のようなフェイク感があります。また、誰にも真似ができないかと言うと、部分的には類似性を感じさせるアーティストは現れていると思えます。日本でも、ヒカシューの歌い方などにクラウス・ノミを感じてしまうのは私だけでしょうか。
冷静になってみると、こんなだったというのに、当時、無視することができなかったのは、なぜだったのでしょう。

改めてCDに戻ると、「ライトニング・ストライクス」「ノミ・ソング」「コールド・ソング」「サムソン・アンド・デリラ」などは、いや、他の曲もすべて、重要な気がしてきました。
芸術の価値は、モノの側にでも自分の側にでもなくその間にあるのだとしたら、このアルバムは私にとって間違いなく芸術作品なのだと言えます。たとえそれが、現代の若い人たちにとって、同等の価値を持つものでは無いとしても。

お笑いの番組がきっかけで引っ張り出したCDでしたが、なんだか昔を思い出して懐かしい気分になれました。
貴重盤です。


残念ながら、Spotifyにはシングルのみで、フル・アルバムはありませんでした。

*お笑い番組は、TBS系「ザ・ドリームマッチ2020」で、塩の魔人に扮したのは、ハライチの岩井さんでした。


写真の使用許諾に感謝します。
Photo by Alvin Mahmudov on Unsplash