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泣くことが恥ずかしくなくなってきた

上司がバンドをやっている。

平均年齢60オーバー、ギター・ベース・ドラム・ボーカル・ピアノの五人組、演奏する曲も私からするともはや古典と言いたくなるような、3-40年は前の曲。最初聞いた時は卒倒しそうになったが、先日そのバンドのライブに行くことができた。

誘われた時最初に浮かんだのは、「盛り上がれるだろうか」という不安。これはまずいと思ってセットリストを事前にもらい、アップルミュージックでプレイリストを作成。本番までの1週間、毎朝毎晩聞き込んで、歌えるくらい念入りに予習した。ホンモノの大人の集まりで私だけポカンとしているわけにはいかない。

最近の曲と伴奏のつき方が全然違うので、耳覚えが実は悪かったのだが、ちょっと前のバブリーダンスに馴染んでいたおかげで何度も聞いているうちになんとかメロディーがつかめるようになってきた。なんだ、いい曲じゃないか、昔の曲。今のも良いけど前のは前で時代をうつしてるなぁ。男とか女とか、ジェンダーバイアスすごいけど。

いざ会場についてみると、ポップスのライブに一度も行ったことのない私には新鮮な場所だった。キョロキョロしてはカッコいいステージライトに照らされた楽器やフロアを次々写真に収めていく。

失礼なことに、その日私はなぜか朝から緊張していた。普段聴くことのほとんどない上司の奏でる音楽…まるで発表会に出る我が子を見つめる親の気分。(上司なのだから全くおかしな話なのだが)しかし心配はあっさり拭い去られた。メンバー全員、暦が長くて経験豊富。想像の何倍も上手だった。複数人で音楽を合わせながら、間違えようと何があろうとノンストップで弾き続ける難しさを私は知っている。サビに差し掛かると高血圧で倒れたって構わないくらいの発声でボーカルが盛り上げてくれた。
すごい!楽しい!これは盛り上がるわー!と、すっかりみんなと一緒に頭を左右にふりふり。
あまりのエネルギッシュさに、60歳は、別に老いてなどいない、ということを見せつけられた。

それにしてもライブとは音量が大きくて、音楽が頭にズドンと入ってくる。これが世にいうライブの良さなのなぁ、としみじみしているうちに、玉置浩二の「君がいないから」が始まった。
私はこの歌を知らなかったし、別に惜しむような別れを経験したこともない。
ところが会場の音がよい。それに予習してただけあって歌の流れは頭に入ってノリノリだ。予習の時は歌詞なんてたいして気にしてなかったのだがこれがよく聞くとなかなか切ない気分にさせてくれるじゃないか。
もともと30秒の家族もののcmでも泣けるほど涙腺が弱いこともあって、曲中に意図せずポロポロと泣き始めてしまった。

自分でも驚いた。きっと20年前の自分だったら絶対に泣いていなかっただろう。こんなところで、人前で、こんなことで泣いちゃうなんて恥ずかしい。その一心で意地でも堪えただろう。
ところが今回は、そんなエゴはおいておいて、感情の赴くままに人生を楽しもうという欲が出てきてしまった。人前でもいいや、せっかく感動できてるんだからここは泣いてみよう、と。

会場にはおそらく、本当に別れを惜しんだ誰かを思い出していた方だっていただろう。私は本当に何もない。なのに、一緒になってメソメソした。いやぁ、楽しい。音楽聴きながらメソメソしちゃうの、楽しい。感情が動く自分の心の機能が、ちゃんと機能していることが実感できて、よかった。

…泣くことにした自分の選択に、年齢を感じた。
いや、もしかしたら会場に居る大人の姿に感化されたのかもしれない。

きっと私も今から20年後に若者と音楽を聴く機会があったなら、いろんな要素を比べて、世代間ギャップに「卒倒しそう」って思われるんだろうなぁ。でもその時その時で、全部楽しんで良いんだよと、言おう。そう思った。

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