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下駄箱で他人のジュース温めたことある?
わたしはあるよ。
2024年のM-1令和ロマン優勝すごかったね、画面の前でめちゃくちゃ笑って楽しかった。くるくる回るケムリさんが可愛くて萌えた。
ところでファーストラウンドの苗字ネタ見て思い出したことがある。
高校生の時、わたしも含めてやたら「高」で始まる苗字が多かった。だから漫才中の髙比良くるまさんと同じように、青木や渡邉のコミュニティに入る機会を逃し、教室の真ん中で前の‘高⚪︎’から後ろの‘高△’にプリントを回す毎日だった。下駄箱も高なんとかの列の真ん中だった。
高校2年か3年の夏、帰ろうと思って下駄箱を開けたら、外靴の手前に立っていた500mlの小岩井ぶどうと目が合った。
とりあえず手に持ってみると、夕陽を浴びた靴箱の中で生暖かくなっていた。3分の2だか1だか覚えていないが、とにかくそのままゴミ箱に捨てるには忍びない量が残っていた。誰かが口つけて飲んだあとだ。ふつうにきもい。
頭の中を駆け巡る言葉は「え?どういうこと?」で、エンドレスリピートしていた。
まずはこの状況を見て楽しんでいる人がいないか、一応まわりを見た。
用事を済ませてから出てきたので、玄関にはわたしだけ。がらんとしていて静かだ。陽が少し傾いて斜めに差し込み、廊下の自販機にある新品の飲み物たちを照らしていた。
嫌がらせなのかミスなのかもわからん。
嫌がらせだとして、何かの報復をするにはわたしはおとなしすぎた。あと普段から別にいじめられてもいない。今日からだろうかと思った。
だとしたら、下駄箱は全て出席番号なのでわたしの番号を知らないとわたし宛の嫌がらせはできない。だとしたら嫌がらせする割にはわたしのこと大好きじゃない?
もしわたしのこと大好きな人がやったとしたらそれはそれでキモすぎる……あとそんなやつこの学校にいない。
下駄箱ミスしたとして、開けたら外靴が違うから気づくだろうし。そもそも下駄箱にジュースなんて入れないよね?美人はそんなことしないという偏見。ここは高ナントカさんの女子エリア。そういえばあの学校の高がつく女子はみんな美人だった。苗字が高でなくても美人だらけだった。
なんかもう要らないから適当なところに捨てとこ、みたいなモラルないやつが居たとは思いたくない、そんなに頭弱い高校に行ったつもりはない。でもまあこれが1番有力ではある。
周りに見ている人がいないのを確認して、陽の当たる廊下を歩き、手洗い場に紫色の液体を流し、ペットボトルを洗い、きちんとゴミ箱に捨てた。
騒ぐほどのことでもないけど衝撃的なだったので、文芸部員だったわたしは後日、リレー小説の冒頭に使わせてもらった。
かれこれ12年以上前のことだ。
そんなにも前のことなのに、何故いまこんなに鮮明に思い出せるのか、語りたくなってしまうのか。
楽しかったんだと思う。
他に衝撃的な思い出がないから。
一般的には、高校生といえば、部活に恋愛に勉強に、毎日やることだらけで、親とも喧嘩して、感情が大忙しなはず。
でもわたしにはなかったから。それなりに忙しい心ではあったが、好きな人と話せたとか、告白したとか、毎日ヘトヘトになるまで走ったとか、校舎裏に呼び出されたとか、水をかけられたとか、ないから。
だから高校3年間で1番衝撃的で1番ワクワクしたのが、この「下駄箱でだれかの小岩井を温めてしまった事件」なのだ。
こんなことで面白く思うなんて我ながら気持ち悪いと思う。
靴箱に飲み物入れたやつ誰だよ。許してやるから友達になってくれよ。
何か知ってる人いたら連絡欲しいけど怖いからやっぱりやめて欲しいかも、でも真相が気になるからやっぱり連絡欲しいかも。
当時の同級生どうしで「キモ子、またネタにしてるよ相変わらずキモいね」とか言われるんだろうか。覚えていてくれるなんてありがてえ。
まあまあ臭くてキモい女だったので、思い出したとしても連絡くれる人は居ないと思います。南無三。