火花飛び散る「米中貿易摩擦」が新たな戦端を生む?
直に起こるだろうと思っていたことが起こることに、なんの不思議があろうものか。いよいよこの局面がやって来たようである。
出典は産経新聞。当然のことながら産経さんなので「中国を軽く見る論調」は相変わらずだが、基本的なところがわかりやすく押さえられており、米中による二国間に何が今起きているのか、と言うことを見て取るに持って来いである。まぁ要するにね、産経さんがこのくらいのトーンで言い始めたってことはそこそこなんかあるよ、って言うシグナルなんですよ奥さん。
さて、米国に於ける対中貿易赤字2,000億ドルは明確に巨額であり、この不均衡が是正できなければ確実に米国そのものが傾くレベル(ただし沈みゃあしない)の赤字であるのは間違いない。どうしてそうなってしまったのか、その答えは簡単には出ない。鄧小平から続く改革開放路線の「成功」ではあろうが、そればかりではない。現在の中国経済は明らかにかつての日本に於ける、バブル経済期を思わせるような高度成長曲線であるが、その実の部分で中国が本当にベースメントとして経済成長を果たしているか、と言うとそれもたぶん違う。いや、違わないけどすべてではない。
共産圏でありながら、と言うか共産主義と言う建前をかなぐり捨ててでも、中国の改革開放路線が成し遂げた経済成長には、様々なものが欠けている。その最たるものが成長の実体だ。要は現在の中国経済の成長と言うのは、ほぼ金融市場によって賄われている。つまり言い方が悪いがカネがカネを呼んでいるのである。おおよそ共産圏国家とは思えない話だが、それが改革開放路線なのだから別にそれはどうしようもない。こうした経済反映の多くは実体を伴わない経済成長であり、すなわちバブルである。
しかしながら、実体としての経済成長ももちろん存在するわけで、そうでなくとも世界最多の人口と言うのは中央集権国家であり、かつ中国共産党による一党独裁によって動いている国が、文化大革命の呪縛からようやく解き放たれ、学究実業の第一線に人材を送り込み始めたことが、それまで明らかに遅れを取っていた経済への波及効果として、プレゼンスを発揮し始めたのである。それが世界最大の貿易大国であるアメリカと摩擦を生じないなどと、誰が思っていようか。いや、いまい。この問題は、来るべきしてやって来た問題なのである。
ここからは妄想の話だ。
以前別のコラムで述べた通り、政治の結果は経済と言う形で結実する。また外交は政治の1セクションであり、戦争は外交における最終かつ最悪の手段である。もし、ドナルド・トランプが短気を起こせばたちまち米中間で武力衝突が発生――は、さすがにしない。したらそれは確実に第三次世界大戦であり、後にも先にも退けない全面核戦争となって人類滅亡と言う、悲惨もなにもその状況を慨嘆できる人間は一人もいない状況が生じるだけだ。
従って産経さんも、この一件を「米中貿易100年戦争」と号したのである。本当に米中戦争になるならあっと言う間にカタが付いてしまうが、それは双方ともにメリットのない話なので、外交上の貿易不均衡を是正したいアメリカと、別にそのつもりはないけど機嫌はとっておく必要のある中国のジメジメとした腹の探り合いが始まるのである。そして、その最中に有って何とか美味しい条件を引きずり出そうと舌舐めずりをしながら算盤を弾く北朝鮮、南北融和ムードを高めて行きたいけどアメリカがそれに乗ってくれなくて明らかに外交ゲームのコマにされている韓国、そしてもはやアメリカの忠犬でしかいられないし下手に動いたら背中からやられかねない日本。この5ヶ国の間で、経済と言う政治の結果を求める外交戦が繰り広げられることによって、実は日本は別の意味で得をするかもしれない。
今後アメリカは、もっと強硬な手段に出るだろう。なぜならドナルド・トランプは、そうしなければ政権を維持できないからだ。彼はあくまでアメリカ・ファーストを掲げ、世界に冠たるアメリカでなければならない、アメリカは強くあらねばならないと言うパブリッシュイメージを、自らが背負って立って大統領選を勝ったのである。それが結果的に中国の喉元を運良く絞め上げられれば、具体的には一帯一路構想やAIIBなどの失敗を明白な数字によって白日の下に晒し、その上で貿易赤字削減について中国側から強い是正を求めるよう働きかけるならば、新たな経済の戦端はそこに開くだろう。
キッシンジャーも言っていた。国家に真の友人はいないのである。