やっぱり空母だった「いずも型護衛艦」の問題点
この「こらむ紗水式」では、読者の皆様からもお題を募っている。但し私はあなたの思考代弁者ではないので、あなたの欲しい結論にならないどころか真逆の結果が出ることも心に留めおいていただきたい。あと必ず採用するとも限らないので、その点はご承知いただきたく。お題はこのお題箱にて募集している。
さて、今回はその募集したお題から。
結局いずも型を空母改造したら何が問題なのか。
初手から不穏なお題ぶつけてきやがって。
2日続けてウォーゲームの話をしてだ、そうでなくとも若干きな臭いコラム状態のところに来てだ、いずも型の空母化の話をしろと。やるじゃないか我らが読者、いいニュースセンスだ。で、だ。この「いずも型護衛艦」の空母化の件について問題になるとすれば、実際のところ2点に集約される。1つは「憲法9条問題」、1つは「外交上の問題」である。そしてどちらかと言うと、後者のほうが問題である。
「いずも型」の軽空母化については年明け早々からマスコミ各媒体で取り上げられ、3月2日に小野寺五典防衛相が参院予算委で答弁した内容から、確定の赤ランプが点灯した。これにより右派は念願の戦力だと沸き立ち、左派は憲法違反でいたずらな軍拡であると喚き立てたわけだが、まず憲法違反かどうかについては、改装された「いずも型」が攻撃的空母足り得るか否かに拠るのだけれども、誰だって自陣営が不利になる発言はしないものだ。
従って防衛省サイドとしては「護衛艦の一種」であり、かなり紆余曲折の末に通しにしたことで、未だに左派勢力が戦争反対のシュプレヒコールを上げ続けるきっかけとなった集団的自衛権の問題にも絡み、その程度の戦力は保持しても9条には抵触しませんよ、と言うちょっとノンセクトの私から見ると苦しいエクスキューズに見えるが、恐らくそういうことなのである。9条の今後に於ける個人的見解はどこかで話さなきゃいけないんだろうけど、気が重いんだよなぁ……カルトは相手にしたくないんだよ……。
そもそも憲法9条と言うのは、このノンジャンル・ノンタブー・ノンフィクションをモットーとする「こらむ紗水式」の中でも一番扱いたくなかった部類の話題であり、なんとすれば現在でも多くの方々がこの憲法9条を金科玉条の如く崇め奉られておられるので、正直「じゃあ紗水あうらは9条に照らしてどう考えているんだ!」と詰め寄られると困る。なぜなら「僕がどうこう言う話じゃないです、それは国会審議で決めてください」、乃至は「憲法学者さんに訊いてください」としか言えないのだ。
しかし、「いずも型」は当初から空母運用を想定に入れていたと言う記事が出たとき、皆さんはどう思っただろうか? 私は「だろうな」の一言でしかなかった。いずれなんだかの形で、投入されてくるものだろうと考えるのが2000年代の安全保障スキームを考えた上ではごく自然ではないだろうか。そうじゃない、と言うのはさすがに安全保障と言う問題に対して、少し牧歌的に過ぎる。そして、もう1つの問題である「外交上の問題」がここに絡み付いてくるのである。
今現在、日本は事実上3ヶ国と領土争いをしている。まだそこにおいて具体的に武力行使が行われるまでの緊張度ではないが(その程度まて成熟した緊張度は完全に戦争前夜である)国民サイドとして認めたくなくとも、そこには外交や通商によって持ちつ持たれつの間柄にすることによって決定的な場面を回避する必要が存在する。なぜなら回避できなくなった外側はもう戦争だからであり、その時点に於いて日本の安全保障スキームがどうなっている必要があるかについて、冷静に検討しなければならないのだ。
その外側に近い相手国が、中国である。
今の自衛隊の戦力の状態で、中国人民解放軍を敵に回すのは自殺行為に等しい。いくら「遼寧」がソ連のお下がりだとしても、そもそも尖閣から南西諸島くらいであれば沿海州から飛び立つだけで航続距離に支障はない。地理的かつ量的なメリットはむしろ中国にこそあり、日本には寧ろ空母の一隻でもいなければ制空権を危うくする。
え、自衛隊の練度は世界一だから人民解放軍など敵ではない? あなた方は大東亜戦争で何を学んだんですか? それを覆す根拠が有るとしたら、我が国の諜報機関が人民解放軍の保有する戦力を正確に知り得ていて、かつ量的に上回ってる場合だけです。練度が高いのは確かですが、スズメバチだってミツバチに囲まれたら死ぬんですよ。そうやって徒や疎かに自衛隊の人的リソースを食い潰す発想は、現代戦においては確実に破綻しますよ。せめてハープーンくらいプレイしてからヨタはこいてください。
でー、だ。現代戦において制空権を取れないと言うことは、必然的に海上戦力のコントロールを失うことに等しい。米軍が7Fに空母打撃群3つくらいおまけにつけて来たらどうとでもなるだろうが、結局日米安保と憲法9条によって平和国家・日本を演出してきた結果、アメリカがいないと自国さえ守れないと言う地獄のパワーバランスの中で、我々にとっての平和は維持されている。
「いずも型」の空母化は、その現状最も仮想敵国たる中国を刺激しかねない、と言う言い方は本来適切ではない。与えてしまうのは国防意識への刺激ではなく、日本の軍拡路線に対する抗議「と言うポーズ」から始まる、尖閣侵攻のcasus belliである。もっともそれもすぐに発動するカードではないのだけれども、確実に彼らの手札に忍ばせてあるのは確実なのである。
まぁ、もっともおっかないシナリオは、トランプ大統領が習近平国家主席に丸め込まれて日米安保を反故にするとか言い出した時だが、その時は大人しくフィリピンにでも亡命しようと思う。「私は戻ってくる」と言い捨てて。
二度と帰って来るなと言われるのがオチですね。