日本人と「テレワーク」の親和性の無さ
大阪北部地震から2日経ち、生活インフラの復旧も急ピッチで進んでいるようだが、今回の地震の際に改めて話題になった問題が有る。
通勤・通学・帰宅難民対策だ。
日本企業と言うのは度を越した勤勉さというか、勤勉の意味を明らかに履き違えて拡大解釈なさっているというか、とにかく台風が来ようが地震で電車が止まってようが「あらゆる手段を使って出社しろ」との号令一下の基に、うんざりしながら馳せ参じるという、他の国の人には到底理解し得ないであろうが残念なことに日本では当たり前なんですよと言う事態が起こる。
しかし、だ。そもそも出社しなければ、職務が成立しない業種は限られているし、そもそもそんな職種の人たちに不要不急の外出は避けさせるべきなのだ。なんとか電気は生きている、回線も確保できている、ならば別に頑張って出社しなくとも仕事できるじゃないか、そういう職種も有る。かくいう私も、そんな業種の人間の一人だ。いわゆる「テレワーク」である。だっさい名前だが、俺が付けたわけじゃねぇから。
「テレワーク」が普及することによって、日常的に多発する列車混雑、それに付随して発生する遅延、そういったトラブルは大きなストレッサーであるわけで、それを回避できるだけでも在宅勤務には意味が有る。そうした勤務体系が日常的に取られていれば、いわゆる激甚災害時の都市部における通勤難民・帰宅難民問題は解消するだろうに。だが、
日本人はそうじゃない。
あくまで一企業に於ける調べであって、これが現代のサラリーマンおよび企業を相手にする派遣社員やフリーランスも含め、必ずしもこの割合が当てはまるとは限らないことには注意を払うべきだが、この4%と言う数字は「何となく信憑性を感じる」し、それとともに深いため息に包まれざるを得ないだろう。見出しにも上がっている通り、日本人に「テレワーク」を普及させるために最も懸念すべき問題点が、図らずも(?)浮き彫りになっているではないか。まず「意思疎通」から見よう。上記記事より引用、強調筆者注。
「確認したいことが電話やメールだと伝わりづらい」「業務の難しさや時間のかかり具合を上司が把握しておらず、『短時間でできるはずだ』と正当に評価されなかった」など、コミュニケーション面を課題に挙げる人も多かった。
えーと、ですね。
後者は本当に「テレワーク」にまつわる問題ですかね?
違うだろ、多分。上司の無理解はテレワークだから発生する問題ではなく、つねにそこに存在し続けるタイプの無理解だ。要するに面と向かって話しても恐らく同じ結果になっているべきだ。「べきだ」と仮定的に言ったのは当然意味が有って、それが前者への掛かり言葉になる。つまり「メールや電話では意思が伝わりづらい」と言う側面の延長線上に上司の無理解が有ると仮定しているのだとしたら、対面と非対面で態度を変えている上司と言うことになり、これはテレワーク以前の問題だと考えなければならないのである。
それはさすがに意思疎通以前の問題だろう。要はメールや電話で何を不安に感じているのかと言えば、結局のところあなた方は感情が選択の最優先材料になっていると言うことと等価である。文字だけでは、音声だけでは、相手の真意を読み取れない。声音だけではダメで、相手の表情や身振り手振りまでひっくるめた情報がないと、正しい選択ができないと暴露しているのと大差がない。
確かに日々ブログやSNSが炎上案件を生むのは、文字だけによる意思伝達における送り手と受け手の価値観と国語力の違いが、その要因たるケースも多い。いや、まったくのフォロー不能な炎上案件も有るんだけど、それはもう自業自得と言うことで良い。だが、ことビジネスの現場において個人的な感情を持ち込むのは、いや、もっとはっきり言おうか、
情に訴えるのはビジネスとしてアンフェアだよね?
もちろん私個人の一感想だ。業種によって、あるいは職能によって感じ方は違うだろうが、メールや電話で伝わらないものが対面でなら伝わると感じているのは、単に表現力不足であったり感情の押し付けが罷り越していたからなのではないの? と言う、一応これでも20年近く社会人をやってきた人間の感覚だ。
だが、もう一方は深刻である。同様に引用。
「もう利用したくない」と答えた人からは、「好きな時間に起きて好きな時間に働く生活になり、生活リズムが崩れた」「仕事とプライベートの線引きが難しく、終業後もPCで作業してしまった」との体験談が出た。
うわ〜、わかりみ〜。
そうなのだ。オフィスに出勤すること、退勤することと言うのは「オンとオフの明確な境界」であるケースが圧倒的に多いが、テレワークに積極的な業界ほどテレワークによってオンオフが曖昧になる業界だとも言えるのだ。私もそういう業界の人間だし、仮に出勤をすることもなく自宅で作業をして、必要が有ればメールなりチャットアプリなりで連絡をすることで、仕事をすること自体は可能だが、ずっと自宅にいると言うことがずっと仕事をしていることと安易に繋がってしまう。これは大変危険だし、職務に対して真摯に向き合っている人ほど、つまり真面目な人ほどこのトラップにハマる。
これを「悪用」するならば、出勤なんかしてこなくて良いけど退勤時間も決めないから24時間365日をずっとオフィスデーにすることだって可能だし、高度プロフェッショナル人材のスキームに乗せて契約社員化して、最低賃金程度の支払いのみを残して適当な名目でピンハネすれば、文字通り死ぬまでそいつの自宅で飼い殺せるリモート奴隷の誕生と相成る。やだろぉ、そんなディストピア丸出しの社会。そんでもってそんなこと起こらねぇよ、極端なこと言って不安煽るとか夕刊ゲンダイかよ、と思っている方のほうが多いことを私は真剣に祈っている。だって、
ああ、そうなったら終わりだな……
と天を仰がれたら片道一時間の通勤に飽きた私が困るからである。