-低身長、高プライド-
自分のプライドの高さは重々わかっているつもりだが、この私を凌ぐ男がいた。
彼からの最後の一言は、
「抱かなくて良かった」
ん?私が拒んだんですけど?
友人が東京に遊びに来たとき、興味本位で出会い系バーなるものに潜入した。
店側にあてがわれた男性客とコミニュケーションを取って、女性側は飲食代無料だ。
私たちが入ったそのお店はその日、男女ともに全然お客さんがおらず、唯一相手をしたのが彼一人だった。
年が近かったこともあり、とりあえず3人でカラオケに移動。
既に酔っ払っていた彼は、私の膝枕で寝ながら、手だけは執拗に動かしていた。
しっかりしている友人は、彼の素性を知るために名刺をもらい、思いの外、身元がしっかりしていたことで連絡先を交換。
後日、ちゃんとデートに誘われた。
彼は、アメリカを行き来する忙しいビジネスマンだった。
自分の仕事と、何より自分自身にとても自信がある男で、物事の決断が早く、何事に対してもシロクロはっきり判断するタイプだった。
私は身長が170cmあり、お付き合いをしてきた半数以上は私より低かったが、彼はその中でも群を抜いて低かった。
ある程度、地位や年収などのステータスを手にしている男性は、自分よりも身長の高い女性を好む傾向があると、私は思う。
長身の華やかな女性を連れて歩くという世間に対する自慢もあるかもしれないが(私が自慢になる女であるかどうかはさておき)、自分が努力して手に入れたステータス性で、自分よりも大きな女を屈したい、そういう歪んだ性癖を持った人の方が多い気がする。
いわゆるモラハラ体質であろう彼からも、その傾向は十分見て取れた。
彼らは、自分の非を認めない。
そして、それを指摘されることを非常に嫌う。
「見下しているのか?」と喧嘩を売られることも多々あるけれど、いいえ、ただ見下ろしてはいます、と言うだけなのだが(癪に障るだろう)。
いくら投資しても中々上達しない英語力しか持たない私にとって、世界を股にかける彼は憧れの対象だった。
海外と繋ぐ初めてのSkypeも、お土産にもらったシアトル限定のスタバのマグも、ノートパソコンでいつでもどこでもサクサク作業する姿も、当時の私には何もかもが新鮮でときめいた。
一度は別れるも、忘れる頃にメールをくれた彼に会おうと思えたのは、当時のときめきが嘘ではなかったからだ。
彼と初めてのデートで行った恵比寿のダイニングバー。
当時と同じ会話。
だけど、彼と別れた後に経験を積んだ私に、再会した彼から受ける刺激は何もなかった。
彼の誘いを拒んで帰った私に彼からメールが来る。
「抱かなくて良かった」
いやいや、抱かせなかったんだわ!
最後まで、私の上に立とうとするその根性、褒めてあげる(上から目線)。
私に幸あれ。