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「現代アートをつづけていたら、いつのまにかマタギの嫁になっていた」を読んで
数日かけてじっくりと読んだ本書は、現代アートを続けていた著者・大滝ジュンコさんが、友人の誘いで山熊田のマタギたちとの飲み会に参加したことから始まるユニークな物語。その後移住を決意し、結婚。そして巻き起こるドタバタ劇が、笑いと感動を交えて描かれています。
心に残ったエピソードの数々
「食えハラスメント」のリアル
「はー!ほんに!おめさん、食わねなあ。食え、食わねばねぞ」と、しかめっ面で押し切られる食文化のギャップ。この「食えハラスメント」に思わず吹き出してしまいました。都会で生きていると忘れがちな“食べ物の大切さ”を感じさせてくれるシーンです。
クマを裏切るカラスの知恵
マタギ文化の中で描かれる自然のドラマも秀逸。野生のカラスがクマの居場所を教えるエピソードには驚かされました。カラスが人間の巻き狩りを理解し、クマの頭上を旋回しながらカアカア鳴く姿は、自然界の連携とも言える驚きの光景です。
正月飾りと驚きの鏡餅
本書に掲載されている写真にも心が惹かれました。特に、鏡餅が大餅の上にさらに小餅を3つも積み重ねる独特なスタイルには驚き。文化や風習の違いを感じられる一枚でした。
考えさせられたポイント
命と向き合う姿勢
マタギの夫が語る「お金のために命を取ることはしたくない」という言葉が印象的でした。その一方で、いただいたものを返すためにはどんな山奥にも分け入る姿勢には、人間関係の本質や自然と共生する生活の在り方を感じます。
狩猟文化と支え合いの精神
猟師たちが互いに技術を教え合うエピソードや、金銭を介さない「恩恵」のやりとりは、現代のサステナブルな視点とも重なります。ただ、これは目新しい価値観ではなく、昔ながらの暮らしの中に自然に息づいているものだと気づかされました。
感情を揺さぶられる瞬間
本書を読み進める中で、何度も心を揺さぶられる場面がありました。例えば、伝統織物「しな布」を存続させるために懸命に取り組む姿には胸が締め付けられる思いがしました。また、「イノシシたちは侵略してくるはずだ」という普段耳にしない言葉に、自然と人間との関係性を考えさせられました。
ユーモアたっぷりに描かれたエピソードの裏には、命や文化、暮らしへの深い洞察が込められており、気づけばすっかり引き込まれていました。
さいごに
本書の冒頭に掲載されている山熊田の写真の数々も、この本の大きな魅力です。最初は「色々な生活があるんだな」といった程度で眺めていましたが、読み終えて改めて写真を見返すと、その印象が一変。「あの話に出てきた物って、これを作っていたのか!」「天然舞茸ってこんなに大きいのか!」と、ストーリーと写真が結びつき、一層楽しめました。写真を見返しては部分的に読み直す、そんな繰り返しをしながら、物語の余韻を存分に味わえた一冊です。
読後もさらに広がりを見せるこの本の魅力に、すっかり引き込まれてしまいました。
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