危機管理で重要なCSCA
このような緊急事態では、事実の誤認や歪曲はとても危険で、そこから不安や懸念が広がり、デマやフェイクが拡散し、社会不安、社会的・経済的損失につながることが多いものです。
こんな時にこそ、感情的になったり、逆上したり、個人や組織を批判したりすることは避けるべき。そこに時間や労力をかけている場合ではなく、それによってまたオペレーションが阻害されることがあるからです。
緊急時には多くの人々が興奮して、また周りが見えなくなるものです。感情的に切れやすくなり、理性的に考えられなくなる人もいます。これまでそんな人々を多くみてきましたし、自分もそのひとりになったこともあります。
前線にいる人はみな善意でやっており、目的(死亡、感染、経済的社会的損失を最小限に抑える)を共有していながら(と信じている)、全体像が見えず、目先しか見えなくなることがあります。そうなるととても不安になり、怒りに変わっていったりするものです。
だからこそ、全体のオペレーションが見えるように、できるだけ透明性を高めること、事実誤認があればそれを早めに矯正すること、失敗や間違いがあればそれを修正し、不足があればできるだけ早めに満たすような努力が必要です。
緊急時のオペレーションは完璧・パーフェクトにはできないものです。だらこそ、平時に緊急時の計画をし、シミュレーションを行い、Perfect、BestとはいわずともBetterな実施ができるように努力すべきです。また、緊急時にも、問題が生じた場合、そこで責任を追及したり、その口実を考えたりするよりも、よりよいオペレーションにするために今、何をすべきか、いかに矯正・修正して前進するかを考えて実行することが重要です。
大規模災害時の医療対策の原則としてCSCATTTがありますが、特に初めのCSCA、C: Command & Control(指揮、統制)、S: Safety(安全)、C: Communication(情報伝達)、 A: Assessment(評価)が重要です。
各機関・組織内でのタテの指揮命令系統(Command)と関係各機関・組織の各レベルでのヨコの連携(Control)。ここで問題は指揮命令を行う決定者が適切な判断ができるか、各レベルでの指揮命令が明確・適切・迅速かどうか、調整・修正が必要な場合、現場のフィードバックがすぐに意思決定者に伝わるシステムになっているか、が重要だ。政治的判断と専門的(技術的)判断とが異なる場合がある。そこで、専門的判断を十分に把握・理解した上での政治的判断となっているかどうか、はとても重要である。
もうひとつ、専門的判断とは「真の専門家」であり、その分野ではこれ以上のアドバイスは得られない「最高のレベルの専門的知見」である。医師であるから、救急医であるから、感染症の専門家であるから、というだけでは「真の専門」とは言えない。健康危機には様々な問題があり、それぞれに参考にすべき、実施を任せるべき「専門家」「専門的知見」は異なる。
今回、初動で、感染症、それも新興感染症への対策の経験や知識を持っている人材を中心に置いて議論、計画をしたのか、それがわかっている人材がオペレーションをしたのか、ということは検討すべきであり、次回、「最悪の事態に最善の資源・人材を迅速に動員」するにはどうしたらいいかを真剣に考える必要がある。
また、ヨコの連携、コーディネーションも言うは易く行うが難い。この調整能力がある人とない人がいる。個性や個人の能力によるところが大きいが、その能力を育成することができないわけではない。このような人材を育て、メカニズムを作り、いざという時に配置できるかが今後の勝負である。
さらに重要なのがCommunicationである。リスクおよびクライシス・コミュニケーションについては、後日時間があるときに説明したい。これは日本の危機管理で最も不足している分野のひとつだと思っている。
アセスメント(Assessment)については、できるだけリアルタイムにモニタリングし、オペレーションの効率と効果を測り、不十分であれば迅速に矯正・修正することが必要だ。これも様々な方法論があるので、時間があるときに書いてみたい。
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