滞在日誌 2024年10月22日-23日(4-5日目)
10月22日(4日目)
この日は美術大学の授業日とのことで、その様子を見学しました。午前は鈴木学芸員による「かけ足 日本美術史」と、午後には神奈川県立近代美術館館長の長門佐季さんを迎え、「美術と文学ー神奈川ゆかりの作家を中心に」と題した講義が行われました。
「かけ足 日本美術史」は、わずか1時間半で縄文時代から江戸時代までの日本の美術を一気に概観するというチャレンジングな内容だったにも関わらず、それぞれの時代の美術がどのように繋がりながら展開してきたのか、駆け足だったからこそ、1つの大きなうねりのようなものとして日本美術の流れを考えることができる講義です。
午後の「美術と文学」は、近代日本において美術と文学がいかにインスピレーションを与え合いながら展開していたのかを知ることができる内容でした。涌田さんは、ジャンルや時代を横断するような内容のどちらの講座においても、ノートにたくさんのメモやイラストを描きながら聞いていました。
短歌を詠み、そして踊る彼女の創作スタイルは、1人の中でジャンルを超えた交感が起きているとすると、それは一体どのようなプロセスを経てなされるものなのだろう?と、私も改めて涌田さんの創作について興味が湧きました。
10月23日(5日目)
前日に引き続き、この日も美術大学に関連して行われている講座を見学しました。美術大学の修了生を対象としたステップアップ講座です。この日は、定方まことさん(オイリュトミスト・ダンサー)と鯨井謙太郒さん(振付家・ダンサー・オイリュトミスト)を講師とした身体表現(オイリュトミー)の講座が行われていたため、涌田さんも一緒に参加してみることに。
オイリュトミーとは、シュタイナー教育などで知られる思想家ルドルフ・シュタイナーによって考案された、言葉や音楽を呼吸と共に全身の動きで表現する身体芸術。涌田さんにとっては、普段のアプローチとは全く異なる方法で言葉と動きを繋げていく体験となったようで、とても新鮮な体験だったとのこと。
言葉と動き、音楽と動きなど、異なる表現を反応させ合うことで、あるエネルギーを空間全体に生み出すという試みは、舞台芸術全般で起きていることではありますが、そのアプローチは本当に様々で、多くの可能性があるのだと感じました。
ここまで、鑑賞リーダーや学芸員へのインタビュー、美術大学の講座体験など、さまざまな角度から世田谷美術館についての理解を深めた涌田さん。午後は、これまでのたくさんのインプットを経て、改めて世田谷美術館とその周辺を散策しました。今後のオープンデーのアイディアや、今回の滞在で深めていきたい問いについて考える時間となったようです。
今回の2日間の滞在と、これまでの滞在の振り返りとして、涌田さんから以下のような感想と短歌が届きました。
2日間、美術大学の受講生と間近に接するなかで、彼らの「学ぶこと」や「表現をすること」に対する純粋なエネルギーに触れられました。
講師と受講生のフラットな関係性のなかで、リラックスしながら楽しむ穏やかな雰囲気が印象的でした。
「表現をすること」は職業としてのアーティストのみならずすべての人々に開かれており、それが人々の日常に生き生きとした生命力をもたらすという芸術の根源的な力を改めて実感しました。
オイリュトミーのクラスでは、与謝野晶子の短歌をからだの動きで表現してゆくワークを行い、からだと言葉・踊りと短歌の関係性を探究している私にはとても興味深く、特に“音の響き”(音の発声をする器官の形)という側面に光を当ててからだの動きに落とし込んでゆく点に新たな発見がありました。
言葉の持つエネルギーや、質感、そして短歌がはらむ情景までもが空間に膨らむように広がり続けてゆき、とても美しい時間でした。
また、10月のリサーチを経て、“世田美”が包み込むふっくらとしたアートの在り方にからだで触れたことで、「“あわい”を繋ぐ営み」というテーマが徐々に発展し、「日常とアートは知らぬ間に“混在”しているのではないか?」という新たな問いも芽吹いてきました。
この問いを元に“日常とアートが混ざり合うところを探し・味わう”散策リサーチをしました。世田美を改めてゆったりと歩いていると、日常のからだとアートを享受するからだが自然と混ざり合ってゆく時間に身を置ける工夫が至るところで感じられました。日常とアートがひとつのからだの中で混ざり合い、“まだら模様”のからだになってゆくような身体感覚も生まれました。
次回からは、これらたくさんのインプットやアイディアを涌田さんの目線で展開させていく段階に入っていくことと思います。
次回の更新もお楽しみに!
テキスト:武田侑子(NPO法人アートネットワーク・ジャパン)
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