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滞在日誌 2023年12月20日-21日(1-2日目)

今年度の滞在アーティストによる、1回目の滞在がいよいよスタートしました。
藤原佳奈さんの滞在は、12月20日(水)から24日(日)までの5日間と、2024年1月から2月にかけての10日間の2回に分けて行われます。

12月の滞在では「世田谷美術館を戯曲だと捉え、それをいま、上演するとしたら?」という問いを元に、世田谷美術館のこれまでのあゆみを知るために、その歴史に関わってきた方々にインタビューを行います。

12月20日(1日目)

美術鑑賞教室を見学

初日の滞在は、美術鑑賞教室(以下、鑑賞教室)の見学からスタートしました。藤原さんは「クラス単位でただ展覧会を回っていく様子を想像していたが、それとは全く異なる内容だった」とのこと。世田谷美術館のボランティアである鑑賞リーダーが、それぞれがオリジナルのルートや内容で、少人数の子どもたちとおしゃべりをしながら展覧会のみならず美術館の建築そのものや屋外彫刻もめぐっていくのが、世田谷美術館の鑑賞教室です。この後行われた東谷千恵子学芸員へのインタビューでも度々話題に上がり、世田谷美術館のあゆみとは切っても切り離せない活動であることが分かりました。


屋外彫刻を鑑賞する小学生と鑑賞リーダー

インタビュー:東谷千恵子学芸員

午後は、世田谷美術館の活動のうち大きな特徴のひとつである、普及事業を担当する東谷学芸員にインタビューを行いました。1980年代後半に盛り上がった第二次公立美術館の開館ブームが起こるなか地域密着型を目指した世田谷美術館は、全国の美術館に先駆けてボランティアと協働した活動を展開し、どのような普及事業に取り組んできたかを具体的にお話いただきました。

午前中に見学した鑑賞教室はまさにこの普及事業の根幹であり、現在までどのような困難や成果があったか、また、開館翌年(1987年)から続いている年間講座「美術大学」と合わせてどのような思いでこの事業を30年以上続けてきたかなど、実際に現場を見てきた東谷学芸員の目線から、ざっくばらんにお話を伺った時間となりました。インタビューの最後には、「世田谷美術館をひとつの戯曲として捉えると、どのように上演されてきたと思いますか?」という問いも藤原さんから投げかけられ、今回の滞在にあたり藤原さんが立てた問いに一緒に向き合う時間にもなりました。

インタビューを終えて、藤原さんは「やはり美術館の事業や運営にかかわった当事者の方から話を聞くことでそれが自分の体に入ってくる感覚がある」と感じたそうで、これから控えているインタビューがさらに楽しみになりました。

右から東谷千恵子学芸員、藤原佳奈さん

12月21日(2日目)

インタビュー:関義朗さん

世田谷区役所の元文化事業担当として世田谷美術館の開館に向けて奔走し、現在の世田谷美術館の在り方に大きく関わった関義朗さんにインタビューを行いました。1970-80年代という時代のなかで、熱い情熱を持って美術館の誕生に向けて尽力した方のエネルギーを直に感じ、藤原さんは「自分も関さんのように何か新しいことを起こすパワーを持ち合わせているんだということに勇気をもらったような気がする」と言っていました。

右から関義朗さん、藤原佳奈さん

鑑賞リーダー勉強会

午後は、鑑賞リーダーの方々へ向けて藤原さんのこれまでの10年の活動について、過去の活動の写真や映像を見せながらお話いただきました。演劇において俳優の身体に起きている現象への興味が根底にあることや、いくつかの段階を経て、今は創作を通じて場を「ひらく」というはたらきに可能性を感じていることなどが語られました。そして、今回の滞在のテーマとしている「世田谷美術館を戯曲だと捉え、それをいま、上演するとしたら?」という問いに至るまでの考えも聞くことができました。

鑑賞リーダー勉強会の様子


鑑賞リーダー懇親会

この日が年内最後の鑑賞教室だった鑑賞リーダー達の懇親会にお邪魔しました。藤原さんの元には鑑賞リーダーの方が何人も訪れ、懇親会の前に行われた勉強会についての感想や、戯曲や演劇、俳優の身体についてなど、率直なコミュニケーションを交わした時間になりました。

世田谷美術館の大きな特徴でありそのエネルギーの基盤とも言える鑑賞リーダーのみなさんに、藤原さんの活動や興味関心について知ってもらい、藤原さんもインタビューを通して世谷美術館のあゆみを少しずつ知ることで、両者の距離がどんどんと縮まっているのが分かります。この先にどんな対話が待っているのか楽しみです。

次回の更新もお楽しみに!

テキスト:武田侑子(NPO法人アートネットワーク・ジャパン)

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