最後の夏は、おもいきり
「夏期講習の申込用紙が出ていないぞ」
アルバイトの僕にも、塾講師のような振る舞いが板につき始めていた。小学校6年生になったリョウタという男の子は、尻の収まりが悪くて講師たちは誰も座らない小さなスツールにちょこんと腰を掛け、少し気まずそうに僕に言った。
「先生、今年の夏期講習、いけなくなりました」
リョウタは、2年前の入塾以来、常にトップの成績を維持している。
講習会はすべて皆勤。通常授業も病欠以外で欠席したことはない優秀な男の子だった。
当時、家庭の経済的な理由で退塾せざる