断髪小説『幼馴染』
あらすじ
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本文
紘斗 は気怠そうにベットに横たわっている 英里奈 を横目で見やる。
――英里奈に坊主にしてもらうといつもこうなる。
夏の県大会予選で敗れ甲子園のない夏、三年が引退し、秋の大会に向け部活の練習は二年と一年の新チームが作られつつあった。
部活が終わり、その足でマンションの隣に住んでいる幼馴染の英里奈の家に立ち寄った。バリカンを持って「やってくれ」といつものようにお願いして、いつものように五分刈りにしてもらう。終わるとどちらからともなく求め、英里奈のベットの上でコトに至る。最初はお互いの興味からシたが、今ではバリカンが合図のようなものだった。
◇
英里奈はベットからムクリと起きあがり、もそもそと服を着ている。ロングTシャツと短パンといったラフな格好だ。髪をバサッと服の外に勢いよくだす。黒い長いストレートの髪が一瞬広がりクセもなくサラリと背中を覆う。
――いつ見てもサラサラだな。どう手入れすればああなるんだろう。
ジッと英里奈の髪を見る。
「何?」
紘斗の視線が気になったのか、淡々と聞いてきた。
「いや、何でもない」
「そ。服、着てくれない?」
紘斗は下着姿のままだった。
「あぁ、わりぃ」
英里奈は特段気にした様子はなく飲み物をとってくると、部屋を出て行った。紘斗はジャージを身に着けた。
◇
――英里奈のお父さん、やっぱり帰ってないみたいだな。
英里奈の母は幼い頃に亡くなり、父と父方の祖母とこのマンションで三人で暮らしていた。英里奈はそのおばあちゃんに育てられたようなものだった。父親はあまりこのマンションに帰ってこないらしい。少なくともこの家にいる姿を紘斗は見たことがなかった。そのおばあちゃんも去年に亡くなった。気丈なおばあちゃんだったが、年には勝てなかったらしい。
ガチャと部屋のドアが空き、英里奈が戻ってきた。ペットボトルを一本渡された。
「サンキュ」
思いの外、喉が渇いていたのかゴクゴクと飲んだ。ミネラルウォーターだった。英里奈も部屋に適当に座り、ペットボトルの水を口に含んでいた。しばらくクーラーの効いた部屋で涼む。
「ねぇ、ヒロト」
「ん?」
「髪切ってくれない?」
「は?」
「これハサミ」
髪を切る用のハサミをずいっと渡される。
「いや、なんで?」
「切りたいから」
紘斗の求める説明になっていない。そう目で訴えると、面倒くさそうに髪をかきあげる。
「いつもヒロトの髪やってるでしょ。たまには私のもやって」
やっぱり説明になっていない。しかしこれ以上聞いても平行線な気がしてハサミを受け取る。
「どうすればいいんだ?」
「適当に切って。まかせる」
「適当にって、長さとか希望はないのかよ」
「ヒロトの好きにして」
英里奈はいつも言葉が少ない。今までの経験からどのように聞いても無駄だと悟る。紘斗は英里奈の背中に周り、髪を背中に持ってくる。大体五センチくらいの長さで英里奈の黒髪をシャキン、シャキンとハサミで切った。
「これでいいのか?」
「そんなちまちまとじゃなくて、もっと切って」
言われた通り十五センチくらい、髪を切る。そうすると肩甲骨あたりの長さになった。
英里奈は何も言わずに背中を向けているので、言外にまだ切れと言われてる気分だ。今度は肩のあたりでシャキンとハサミを閉じる。英里奈の肩がピクッと動いたが、気にせずそのまま真横に切り揃えた。
「こんなもんか?」
もうゆうに三十センチは切っているだろう。
「もっと」
「は?」
「も・っ・と」
強くゆっくりとした口調だった。
「わかったよ」
降参をばかりに両手を上にあげた。髪を右半分を首のあたりで掴み、顎のあたりでジョキ、ジョキとハサミで切る。髪の量が多いので中々ハサミが進まない。首に当たるハサミが冷たいのか英里奈は肩をすくめる。左半分も同じようにした。
不揃いにガタついていたので真っ直ぐになるように、ひたすら真横にハサミを動かした。部屋に二人きりで英里奈の髪を切る音だけが響く、何とも非現実的な空間だった。
◇
英里奈は顎ラインのボブになっていた。首筋がすっかり出ている。さすがにこれ以上は切らないだろうと思っていたのだが、予想に反して「もっと」と言われた。
「もっと、ってどれくらいだよ。かなり短いだろ?」
訳がわからず、ついイラッとした口調になった。
「髪がサラサラしなくなるまで。首にかかるのがやだ。耳にかかるのがやだ。おでこにかかるのがやだ。顔にかかるのがやだ。そもそもサラサラと揺れるのがもういやだ」
「どうなっても知らねぇぞ」
そこから紘斗は止まらなかった。
サイドの髪を掴み、耳の上でジョキンと勢いよく髪を切る。反対側も同じように耳に髪がかからないようにする。後ろのサラサラした髪も生え際から数センチといったところで、ザクザクと躊躇なくハサミで切る。
トップもこめかみも後頭部の髪もそれぞれ上に持ち上げ、サラサラしないように短く切った。前髪も生え際の長さにした。
すっかり額にも耳にも首筋にもかかる髪が無くなっていた。
◇
英里奈の綺麗に伸びていた黒髪は、今やもう床に散らばってるのみだ。もはや、ベリショどころか長めの虎刈りと言えるだろう。
「バリカンで全部刈って」
「はぁ?最初から坊主って言えよ」
思わず呆れた口調になる。
「最初から言ったらヒロトはやってくれないでしょ」
確かにそうかもしれない。あの長くて綺麗な髪を切るのに抵抗はあった。紘斗が英里奈の家に持ち込んだバリカンに電源を入れる。ヴィィィーンと音を鳴らして動き出す。額の真ん中からジジジとバリカンを近づける。英里奈はギュッと目を閉じているようだ。
――もうどうにでもなれ!
前髪にバリカンを入れる。ジョリジョリジョリと勢いよく髪が刈られて、パラパラと髪が床に落ちていく。そのまま一気につむじまでバリカンを入れた。間断なく、すぐ隣にもバリカンを滑らせて、刈り上げる範囲を広げていく。
――何かすげぇな。変な気分だ。
女の子の髪をバリカンで刈るのは、背徳感というか、何かいけない事をしている気分になる。
頭頂部をすっかり刈ってしまうと、こめかみや側頭部から何度もバリカンを入れた。耳周りもぐるりと刈る。最後に襟足からつむじまでをバリバリと繰り返しバリカンを頭に当てて、髪を刈り上げていく。
――逆にエロくないか?これ。
長いストレートの髪は、もともと整った顔している英里奈をより美人に引き立てていた。しかし坊主にすると、隠されていたうなじや額が剥き出しになり、それはそれで妙な艶かしさがあった。
刈り残しがないように何度も英里奈の頭にバリカンを当てると紘斗と同じ五分刈りになった。バリカンの電源を落とし、細かい髪を払おうと英里奈の頭を撫で回した。英里奈の耳は赤くなっていた。
「お揃いだな」
英里奈にニヤッと笑いかける。英里奈は振り返り紘斗の首に腕を回してくる。耳元で「シて」と囁いてきた。体の下へと手を伸ばすと、英里奈の隠されたソコはぐずぐずに濡れていた。
後書き
無気力で気怠い女の子の髪が少しずつ短くなっていく様子を書こうとしたものです。
二人が高校生になったのは、親があまり帰ってこない女の子の家に、どうしてバリカンがあるのかを悩んだ結果です💦
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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