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断髪小説『行き交う 後編』
あらすじ
ダイレクトメールで知った理容室『Cross』に通い続ける円佳
そこにあるのは喜びか、あるいは・・・
小説情報
文字数 :13,000文字程度
断髪レベル:★★★★★
キーワード:上京、女子大生、SNS、裏垢
項目の詳細はこちらをご覧下さい。
本文
入学式を終え、大学の講義が始まりアルバイトも決まった。友人も少しずつ増えてきた。初めて知り合う人達ばかりで髪型について聞かれることはなかった。最初はつい襟足を触ったりして落ち着かなかったけど、慣れない日々の忙しさで気にする余裕はなくなっていた。そんな中、髪を短くして乾かすのも整えるのも楽になったのは幸運だったかもしれない。ただ襟足や首筋にチクチクと毛が生えてきて、度々T字カミソリで手入れしなければならないのは、事のほか難しく手間でしかなかった。
そんな今の生活に少し慣れてきたころだった。
「そういや関川さんって襟足剃ってるよな?」
語学の教室へ向かう途中、同じ講義を受けている瀬田くんから話しかけられた。
「えっ!?」
思わず襟足を手で押さえた。
「その反応、やっぱりそうなんだ」
「なんで分かったの?」
「見れば分かるよ」
誰からも聞かれたことはなかったから、学校内に気付いた人はいないと思っていた。
「いつから――」
「割と初めから」
「このことは誰にも言わないでっ」
「わざわざそんな話もしないけどさ。そんな慌てるなんてちょっと意外だな」
「バレると思ってなかったから」
「似合ってると思うよ」
そう言い残して瀬田くんは教室へと入っていった。
(まさかバレるなんて……)
お互い上京組で地元も割と近かったので、たまに話す男の子だった。誰にもバレないなんて思っていた自分は甘かったらしい。
『同じ学校の人に襟足剃ってるのバレてたの、恥ずっ///』
SNSで呟いてみたものの、そのあとの授業は全く集中できなかった。
✳︎✳︎◇◆◇✳︎✳︎
四月が終わりを迎えるころ、再び『Cross』へやってきた。ゴールデンウィークは九日間の大型連休だけど、バイトにかこつけてを帰省しないつもりだ。
「剃ったところ伸びてきたね」
髪色が一段と明るくなったシズルさんが私の髪を捲りながら言っていた。
「これ処理大変だし、学校の友達にバレてたので、もう剃りたくないです……」
「あはは、この前の投稿見たよ。災難だったね」
「もう、笑い事じゃないです!」
「そういうのもいい経験じゃない? 見られる快感というかさ」
「そんなの感じませんっ!」
笑いを噛み殺しながら、カットクロスを巻いてくる。今日は小さい花柄がプリントされた黄色のクロスだ。
「ごめんごめん。今日はどうしよっか。襟足剃らないならボブじゃない方がいいのかな。いっそすっきりと耳を出すとか、いっそ刈り上げてみる?」
「いやいや、それはちょっと……」
いきなりそんなに短くしたくないと、反射的にぶんぶんと首を横に振った。
「でも雰囲気は変えてみたいのでショートにしてみたいなって。後ろの長さは変えずに」
「つまりサイドを軽くする感じ?」
サイドの髪を後ろに流して耳に掛けられた。
「後ろを少しキュッと削って、耳に掛けるか……」
今度はサイドの髪を摘んで浮かしている。
「あるいはこの辺まで切っちゃおうか」
浮いたサイドの髪からは耳たぶが出ている。耳を出すのはと躊躇もあったけど、一度くらいやってみてもいいかもしれない。
「切っちゃってください」
「じゃあ、今日はまず……」
髪に櫛が通る。後ろもサイドも前髪も。シズルさんが櫛をハサミに持ち替えた。
「目を閉じてね」
言い終わると同時に眉の上をハサミが通り抜けていった。
(えっ)
眼前をはらはらと舞うように髪が落ちた。
(なんで前髪からっ!?)
「どう? もう少し切る?」
「こ、これで大丈夫ですっ!!」
「そう? 切りたくなったらいつでも言って」
眉の上でパツンと揃った前髪はどうにも落ち着かない。シズルさんは髪を湿らせ手際よく髪を削いでいく。そんなことよりも、いつもより短い前髪が気になってどうにも目で追ってしまう。耳にハサミが触れてようやく正気に戻った。そのあともザクザク髪が切られ、耳掛けのショートスタイルへと変わっていった。
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