モロゾフのプリンとファンレター

神戸っ子や大阪人の家には、洋菓子店「モロゾフ」のプリンのガラス容器がだいたい数個あって、麦茶のコップにされていたりする――。
という話を知ったのは大人になってからのことだ。
モロゾフのプリンはガラス容器で作られていて、この容器を使うことで内部にじっくりと均一に熱が入り、絶妙なやわらかさの仕上がりになっているそうだ。

だいたい百貨店とかの、いわゆる『デパ地下』と呼ばれるエリアで洋菓子店が並んでいるところにあったりする、モロゾフ。
特に機会に恵まれなかったのでプリンを食したことはなかったが、ふと食べてみたく思い、大丸京都店の地下の店舗でカスタードプリンをひとつ買った。
閉店間際の時間だったため残っているかどきどきしたが、カスタードプリンはまだあった。
「カスタードプリンをひとつお願いします」
ガラス容器に入ったカスタードプリンは、二個入り用の箱に入れられ、保冷剤を添えられた。

バレンタインデーにチョコを贈る習慣を作ったのもモロゾフだというが、そういえば一度だけ、モロゾフのカフェに入ったことがあった。
もう五年以上前のことになる。


神戸のポートアイランドにある、ワールド記念ホールで開催されたとあるライブのチケットを、私は運よく当てることが出来た。
それまでライブやコンサートなど行ったことのなかった私だが、何日も前から準備をし、当日はまず朝早くから物販に並び、そして夕方の開場までに一度現地を見ておきたいと、物販後に合流した友人(こちらはライブビューイング参加)と共にホールの入口までやってきた。
入口近くには、出演者の名前の書かれた箱が並べて置かれている。

「あの箱は?」
「ファンレターを入れられるんだよ」

えっ、まさか、出演者にファンレターを渡せるというのか!?

そんなことを全く知らなかった私は驚愕した。
知っていたら手紙を書いてきたというのに!

時間を確認する。
開場まではまだ時間に余裕がある。
しかしホール近くには、レターセットを調達出来るような店が見当たらない。
友人に相談し、ポートライナーに飛び乗って三宮に戻り、地下街さんちかの文具店に駆け込んだ。
私がファンレターを書きたい出演者はイメージカラーがバーガンディであるのだが、そんなにぴったりと都合のいいものはなかったので、赤い花がデザインされた封筒と便箋のセットを買った。

「ライブまでに何か食べた方がいいよ。カフェに入ろう。手紙もそこで書けばいい」
友人に連れられて、文具店と同じさんちかのカフェに入る。
ファンレターとライブのことで頭がいっぱいになっていた私は、その当時のことをろくに記憶していなかったが、写真を見返すとサンドイッチを食べていたらしい。
サンドイッチとサラダを食べ、ファンレターを書く。
そのとき私に付き合ってくれていた友人が食べていたのが、カスタードプリンだった。
そこはモロゾフのカフェだった。


モロゾフのカスタードプリンは、皿に出すとより美味しくいただけるのだという。
五年も前の懐かしい話を思い出しつつ、紅茶を入れてプリンを食べようと思う。

良ければサポートお願いします。お茶代とか文房具代に使わせていただきます。