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「蛇にピアス」 感想


 Sesameです。今回は、「蛇にピアス」についての話です。


1.作品紹介

 「蛇にピアス」は金原ひとみさんによる著書で、第130回芥川賞を受賞した作品です。映画化もされていますね。また、この作品が作者である金原ひとみさんのデビュー作となっています。

2.あらすじ

 この作品で主に登場するのは、主人公の『ルイ』、スプリットタンを持つ蛇男こと『アマ』、そして顔中がピアスで覆われた彫師の『シバ』です。
 ルイとアマが出会い、ルイがアマのスプリットタンに興味を持つところから物語が始まります。ルイは元々ピアスの拡張に嵌っており、アマのスプリットタンに強く惹かれます。その出会いから数日後に彫り師であるシバの元に行き、その場でシバに刺青を入れて貰う約束を取り付け、最初の施術である舌ピアスを開けて貰います。終了後に家に帰宅し、共に寝て夜を過ごします。その後、ルイとその友人とアマの三人で会う機会が訪れ、直ぐに打ち解けますが、街を歩く最中に柄の悪い男性二人に絡まれてしまいます。その片方がルイに触れアマがそれに激昂し暴力を振るってしまった事から、徐々に物語が傾いていくのです。

3.内容及び感想・考察※ネタバレ注意

 かなりがっつり内容を述べているのでご注意ください。

 簡潔に申し上げれば、このお話は「主人公がなんとなくで一緒にいた人が死んでしまってから、その大切さに気付く」というタイプの小説です。
 しかしながら、主人公の気付きの過程は、他の作品と一線を画していると思われます。
 
 主人公であるルイの価値観の転換に沿いながら、話の流れを追ってみましょう。
 
 彼女はシバや身体改造に対し「狂っている」「マッドなもの」と認識している女の子で、元々身体改造に興味を示していました。
 シバが「人の形を変えるのは、神だけに与えられた特権」と語ったのに対し、ルイは「私が神になってやる」と心情描写で語っているように、少しばかり野心を持っている事が伺えます。
 そして、アマに「アル中みたいなもんだろと」言われる程、お酒を良く飲んでいます。
 
 彼女の価値観の転換点は、主に三つ。
 刺青を入れ終えた時、アマが殺された時、そして死体に飾り立てられたお香と同じものをシバが持っていると判明した時です。
 
 シバとの刺青のデザインを相談した後に家に帰ったルイですが、『暴力団員が撲殺された』という新聞記事を見て、アマが殴った男性の事ではないかと勘付きます。
 アマの見た目をどうにかしようと、髪を染め直させ、服装等について注意を促します。
 その後は暫く安定した生活を送り、


 『素晴らしいデザイン画、楽しい宴、美味いビール。これだけあれば、ほとんどの事が上手くいくような気がした。』


 とまで語っています。
 また、死に対する恐怖をそこまで覚えていない描写が見られます。
 
 最初の転換点が訪れ、刺青が入れ終わると、ルイの生活は一気に変化し、活力が失せてしまいます。アマはルイを心配し続けますが、ルイの活力が戻る事なく、ある出来事を迎えます。
 
 それは、アマの失踪です。
 アマが黙って消えた事を心配したルイはシバと共に警察に行き捜索願を出し、それからルイは何かに追われる様に舌のピアスの拡張を推し進めます。
 
 そして、遂にアマが死んでしまった事が発覚します。
 これが二つ目の転換点です。
 
 見るも無残なアマの死体を見てからいうもの、食事もまともに取らなくなって、そうなって漸く、


 『こんなに思い悩むって事は、もしかしたら、私はアマの事を愛していたのかもしれない。』


 と気付きます。
 
 その後はシバと暮らし、スプリットタンになりかけの、拡張した舌ピアスの穴に意味を見いだせずに過ごしますが、此処で三つ目の転換点が訪れます。
 
 シバの部屋に、アマの死体に刺されていたお香と全く同じものが置いてあったのです。
 それを見たルイはそれを捨て、店を飛び出して新しいお香を買いに行き、帰宅の後、アマが愛の証として渡していた、アマが殴った暴力団員の歯を砕いて飲み込み、

 『アマの愛の証は、私の体に溶け込み、私になった。』


 という描写が入ります。
 
 そして、飛んで行ってしまっては嫌だからと目を入れていなかった龍と麒麟の刺青に目を入れ、スプリットタンは完成させずに、物語は終わります。

 
 私はこれを読んだ時、漠然と感動したことを覚えています。読み始めはただ毒々しいだけなのかと思いましたが、気が付けば読み終えていました。
 
 重視したいのは、アマが死んだ理由です。シバが、アマをルイに取られたから殺したのか、それとも単純にルイが好きだからアマを殺したのか。
 私は、読めば読む程前者だと感じてしまいました。
 アマもルイもシバも、何処か一つ欠如している。
 アマの欠如の原因を作ったのはシバであって、何か欠如したアマを気に入っていたんじゃないかと思います。
 ところが、ルイという異分子が出てきた。「確固たる愛情を持たないルイを健気に支えるアマ」という完全を作る事を恐れたことが、アマが死に、少しばかり壊れたルイがシバと共にいるという結末に繋がっていたのではないかと思います。
 そうすれば、シバがルイに結婚を持ち出して来た事にも納得がいきますし、アマが死んだ後にルイに優しくなったのにも頷けます。
 
 勿論、文面通り、シバがルイを気に入ったと見る事もできます。
 何度もアマが居ない隙を縫ってルイとシバの交流がなされていますし、シバはかなり寛容にルイの世話を焼いていましたからね。
 ルイがアマにきちんと気を置いていたと気付く描写や、アマが死んだ後、ルイが「シバはきっと私を大事にしてくれるから大丈夫」と思っていながらスプリットタンを完成させなかったのも、道理だと思えます。

4.まとめ

 見る人によって考察や感想が大きく分かれる作品であると思います。
 私の考察は妄想の域にある事に変わりなく、読んだ方それぞれが独自の考察を以ってくださればと思います。

 私は、自信を持って「蛇にピアス」をお勧めします。私の記事だけでは載せきれない魅力が沢山ある作品です。是非読んでみてください。


『』内 金原ひとみ著「蛇にピアス」より引用

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