4.魂のカタルシス〜薩之綉編〜④
しかし、カリスマは若くして白血病という病に倒れ亡くなる。
私は聞いた。
「本当はどう生きたかったの?」
【オレに本気でそれをきいてるのか?】
「はい、本当はどう生きたかったの?」
私がもう一度声をかけた時、
彼の母親らしき人が暗闇から現れた。
ゆっくり近づいてきて彼を抱きしめる。
泣きながら謝る。
「きよはる、ごめんね」
強く縛り付けていた両腕がゆるみ私をほどいた。
そして、彼の過去の映像が脳裏に入ってきた。
酒に溺れていた父親がいつも暴力を振るっていた。
金玉も父親に踏み潰されたことがある。
母親はいつも止めに入っていた。
しかしある日、背中に赤ちゃんをおんぶしていた。
いつものように止めに入って、
突き飛ばされて、おぶっていた赤ちゃんが頭を打って、そのまま亡くなった。
それから母は父親の暴力を止める事もなくなった。
その後、母は精神疲労と栄養失調で亡くなった。
「きよはる、ごめんね、、、ごめんね、、、」
薩之綉を抱きしめて何度も謝る。
私は2人を見守っていた。
ふっと場所が変わる。
川だ。
薩之綉が母をおぶって川の中へ入っていく。
母親は背中に赤ちゃんをおぶっていた。
川に足をつけて、母親をゆっくり川の中におろした。
そして、背中の赤ちゃんを彼が抱いてお経をあげた。
お経が終わると、赤ちゃんを川にそっと流した。
2人は川で体を洗いはじめた。
禊ぎだ。
そして薩之綉が言った。
【母さん、幸せな場所に生まれ変わろう。】
そうか、母親も赤ちゃんも成仏できていなかったんだ。
彼が一番お経をあげたかったのは
お母さんと赤ちゃんだったんだと思った。
気配をかんじた。
川の向こうから、誰かがこっちへくる。
白広い講堂に集まっていた僧侶達が白い服を着て現れた。
ふと見ると、薩之綉と母親も白い服を着ていた。
【みんなも連れて行きます】
薩之綉はそう言うと全員の僧侶を連れて一緒に空へ登っていこうとした。
【自信を持ちなさい。この私を浄仏させたのだから。】
彼の優しい口調が脳裏に入ってきた。
私は微笑んで頭を下げた。
しかし、ハッと思い出した。
「あっ!待って!
憑いていた、彼氏さんへのメッセージとかありますか?」
振り返った薩之綉の顔は穏やかになっていた。
【私は彼の前世であり、守護でもある。夢にも何度も出ている。彼には私の技術を渡している。
そう言うとわかる】
そう言うと、空にスッと消えた。
まだ川の中には母親がいた。
そしてもう1人、男の子がいた。
子供の頃の薩之綉だ。
いや、きよはるくんだ。
母と手を繋いで、川の中を歩いていく。
「よかったね。きよはるくん、お母さん。」
ゆっくりと消えていく2人を見送って
浄霊終了。
目を開く。
また、薩之綉の言葉が聴こえてきた。
【自信持ちなさい。この私を浄仏させたのだから。】
つづく
#創作大賞2024 #ホラー小説部門
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