8.魂のカタルシス〜美沙編〜③
【病院のベッドで、私を顔のそばに呼んでこう言ったの。
「私みたいになっちゃダメよ」って。
私は母のようになりたかったし、憧れていたから
なっちゃダメよって言われて、
どうしていいかわからなかった。
だから母のせいで独身ってわけじゃないんだけど
結局、結婚もできないまま死んじゃったしね。
フフフ】
最初にここで聞こえた笑い声だった。
私はもう一度聞いた。
「本当はどう生きたかったの?」
すると彼女は
口を大きく開き、怒るように叫んだ
【愛されたかった!!】
その瞬間、場面が変わった。
白いレースのカーテン、
ダイニングテーブルに座っている小学低学年くらいの女の子、
キッチンに母親が立っている。
女の子はずっと母親をみている。
母親が食事をテーブルに並べはじめる。
女の子も立って手伝う。
父親の分も並べるがラップをして、食事は2人で始めた。
あまり会話する様子もなく、食べ終わるとすぐに片付けて
女の子は1人で食べていた。
「食べたら食器を洗っておいてね、
じゃぁ、お母さん、ちょっと行ってくるね、
すぐ帰ってくるから、9時になったら歯磨きして寝るのよ。」
女の子は夕食の途中から自宅に1人になった。
この場面は、彼女の子供の頃だ。
すると、大人になった彼女が私の横にきて話し始めた。
【そうよ。母は父が残業だってわかったら、友人の家に少しだけ行ってくるからって、こうして時々出かけてたの。
子供の頃はわからなかったけど、
大人になって、母は父以外の人がいたんだなってわかった。
ひとりっ子だったから、母が帰ってくるのを待ってると、時間って本当に長いのよね。
母の料理は美味しいのよ。だけど、1人で食べると味がしなくなるの。
何のために食べてるんだろう、何をしてるんだろうって、いつも思ってた。
母は家のことは完璧にできるし、身なりも綺麗にしてたし
友達にも美沙のお母さんは綺麗だねって言われて自慢だったの。
会話もするし、育ててもらって感謝してるの。
だけど、私のことを見てくれることはなかった。
いつも、何か忙しそうで、何かに追われるように家事をこなしてた。
仕事もしてたから、大変だろうし私も迷惑かけないように、心配かけないように、ちゃんとしとかなきゃって思ってたから、
言われたことはちゃんとやってたの。
むしろ、褒められたかったからそれ以上にやってた。
女の子なんだからこのくらいできなきゃね、って言われてたし。
洗濯物を取り込むとか掃除機かけるとか
出来ることはやりなさいって言われてたから。
だけどね。
抱きしめてくれる事も、目を見てくれる事も
なかった。
もっと小さいころはあったのかもしれないけど、
私の記憶にはない。
自慢の憧れの母は、私以外の事でいつも忙しかったから。】
また、遠い目をしていた。
私は彼女を抱きしめた。
「寂しかったね。悲しかったね。辛かったね。
愛されたかったね。抱きしめて欲しかったね。
目を見て話してほしかったね。」
私のかけた言葉に、彼女は泣き出した。
抱きしめたまま言った。
「本当はどうしてほしかった?」
彼女は泣きながら言った。
【お母さんと一緒に話をしながら、
ゆっくりご飯を食べたかった。】
「そっか。じゃぁ、もう一度、テーブルに座って。
お母さんと一緒に話をしながらゆっくり
ご飯を食べよう。その体験をしよう。」
私がそう伝えると、
女の子と大人の彼女とお母さんを
テーブルに座らせて、
みんなで笑顔で話しをしながら
ゆっくり夕食を食べた。
つづく
#創作大賞2024 #ホラー小説部門
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