16.魂のカタルシス〜白い女編〜①
※登場する人物や団体は架空のものであり、実際の個人や集団を指すものではありません。
目も髪も肌も白い。
口が溶けている。
腐っている。
【私は、、、両腕を折られて、マンホールの中にすてられた。】
「どうして憑いてきたの?」
【もう、浄仏したい。もう、浄仏したい。】
泣いてるようにも聞こえた。
その日、仕事から夫が帰ってくるなり体が重いと言った。
霊視すると背後に何かいた。
「たぶん、女の人ついてるよ。」
変な目でみる私に
「え!?知らないよー!塩風呂はいろ!」
とやな顔してお風呂に行った。
塩風呂で取れそうなレベルの霊じゃないと感じた。
やはり、寝る前まで何度も家の中に家族以外の誰かがいる気配がする。
ドアの向こうに人影。
お風呂に入っている時も脱衣所に誰かいるような気配。
これでは、落ち着かない。
就寝前に浄霊することにした。
浄霊開始
目を瞑り、あちらの世界へ入る。
目の前に先ほどの霊が現れる。
白い女だ。
姿は女の人だとわからないくらい腐って溶けていた。
髪も、肌も、口も。
浄仏したいと思って夫に憑いてきたとしたら、
どうして私の夫ってわかったんだろう。
「本当はどう生きたかったの?」
【あたしにも子供がいたの。】
その瞬間、場面が変わる。
10代くらいの若い可愛い子。
赤ちゃんを親に預けて遊びに行く。
男の運転する車に乗り、どこかへ向かう。
車は山道に入る。彼女は頭を殴られ、襲われた。
【遊びに行かなければよかった。
車に乗らなければよかった。
私はわかってなかった。
どこかに自分を満たしてくれる何かがあると思ってた。
此処じゃないどこかへいけば、
何かをすれば、自分が満たされる何かがある。
っていつも思ってた。
でも、わかってなかった。
どこにいっても
満たされるのは表面だけで、何をやっても本当に満たされることはなかった。
死んだ事を後悔してるんじゃない。
満たされない思いに気づけないまま死んでしまった自分に腹が立ってる。】
「もしも、戻れたらどう生きたい?」
【子供と2人で暮らす。子供のために働いて、
子供と一緒にご飯食べて、お風呂に一緒に入って
私を選んでくれた、この子を大きくなるまで
ちゃんと育てる。】
彼女の目から涙が溢れる。
【産んだ時、心があったかくなって涙が出た。
なのに、なんで産んだんだろうって
めんどくさくなることばっかりで。
遊んでる方が楽だし、親に預けてみてもらえるから
おしゃれして出かけるのが楽しかったから。】
「子供を産むと、自分のことだけじゃなくて、
色んな事がなかなか思うようにできなくなるし、
食べる、着替える、おむつ、全部やっても
それでも泣いたり、また服が汚れたりしてね。
毎日その繰り返しで、大変よね。」
【それをもう一度ちゃんとしたい。
あの子をちゃんと育てたい。
あたし、、、人生楽しんでたのかな?】
私は微笑んだ。
「だって、楽しむことをつねに選んでたんでしょ?
子供を産むことも、その後、預けて遊びに行くことも。」
【そう、いつも自分が楽しいと思う事を選んでた。
親は何も言わなかったから。
言われる事がなかったから。
親は仕事で忙しかったから。
私が何をやっても知られることはなかったから。】
その瞬間場面が変わる。
子供の頃の彼女が1人で部屋で絵を描いている。
【家で大人しくいい子にしてればそれだけでいい。
帰ってきた親と少し会話したら、寝て起きて次の日。
どうせ、本当の私には興味はない。】
彼女の満たされない原因はここにあった。
つづく
#創作大賞2024 #ホラー小説部門
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