9.魂のカタルシス〜美沙編〜④
「名前教えてくれる?」
【美沙】
私は子供の頃の彼女に言った。
「美沙ちゃん、よかったね。」
女の子は笑顔で、うん!と嬉しそうに言った。
美沙の過去の映像の中で
もう一度、やりたかった人生を体験してもらった。
子供の頃と大人になった美沙の笑顔を見届けて、
ハッと元の式場に意識を戻す。
もう1人誰かいる。
「え?誰?」思わず声が出た。
美沙の隣に、男性の霊が立っていた。
すると男性の霊は美沙を見つめて言った。
【やっと一緒になれた。】
「え?誰?」
私はつい、また言ってしまった。
【僕たち、実際に会った事はないんだ。】
「え?どうゆうこと?」
男性は優しい目で美沙に微笑んだ。
【僕たちは、本当は今世で出会って結婚するはずだった。
だけど、俺が先に死んでしまった。
俺は事故にあったんだけど、
死ぬ間際に、次に生まれ変わっても一緒になろうって前世で彼女と約束したことを思い出した。
あの日、取引先の会社で俺たちは出会う予定だった。
お互い目があった瞬間にわかるようになってた。
だけど、その日、結局俺は仕事に行けなかった。
元カノから「死ぬ」って連絡がきて、
いつものメンヘラってわかってたけど、
結局、突き放す事が出来なくて。
とりあえず仕事前に落ち着かせに行こうとおもって、元カノのマンションへ向かった。
そしたら、そのまま事故に遭って、、、。
無念の想いが残って俺は浄仏できなかった。
元カノとの縁を切らないといけないって事も本当はわかってた。
なのに、ズルズル断ち切れなくて。
決断してたら、ちゃんと君と会えてたのに。
本当にごめん。
そしたらその後すぐ、彼女が亡くなったみたいで。】
「私、その話、前にも聞いた。
本来の自分の生きたい道を選ばずに、我慢して生活してたら、亡くなってしまって。
そしたらその後すぐに出会うはずだった運命の人も亡くなるの。
また生まれ変わって一緒になるために。」
以前にも同じような霊達がいた。
【だから、今度はちゃんと自分の気持ちに従って生きるから。】
美沙の目から涙が溢れていた。
彼の優しい目と言葉に包まれていく。
【これで、一緒に浄仏できる。
そして、また一緒に生まれ変わろう。
今度はちゃんと出会って人生を共に歩もう。】
美沙は涙をいっぱい流しながら、うなずいた。
まるで、本当の結婚式みたいにとても素敵な光景。
男性は私を見た。
【君にこの事が伝わらなければ
2人で浄仏できなかったから
ちゃんとこの流れにしてくれて感謝してる。
ありがとう。】
2人で頭を下げてくれたので、私も頭を下げた。
「美沙さん、よかっね。憧れの結婚式できたね。」
今世で出会う事なくお互い亡くなってしまった。
しかし運命で結ばれた2人は、死後だけどちゃんと出会った。
そしてまた一緒に同じ時代に生まれ変わるために2人で浄仏したかったんだ。
「お幸せに。」
私は新郎新婦に笑顔で言った。
2人は嬉しそうに手を重ねて、
見つめ合いゆっくりと消えた。
とても素敵な結婚式場のチャペルの前で。
浄霊終了
『魂の絆は、時空を超えて紡がれる。』
その後、2人の幽霊のエピソードの噂が広まり、
逆手にとったキャッチコピーが大当たりして、
式場は数年先まで予約でいっぱいとなった。
もちろん、支店長さんの話は知られていない。
支店長さんは浄霊の後、内容を説明すると、
「え!!そんなことまでわかるんですか!?
いや、あの、責任はちゃんととります。
けじめもちゃんとつけます。
本当にありがとうございました。」
そう言って、複雑そうな顔をしていた。
魂のカタルシス〜美沙編〜完
つづく
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