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侵入者

向かいのベッドのおばあちゃんの転院が決まった。明後日転院だからね。と言う声が聞こえてきた。どこの病院に行くのかはわからなかったけど、本人も多分転院ということ自体理解してないと思われた。

Kaoさんも多分もう少しかな?

ちなっちゃんがふっとそんな事を言う。
私も転院するの?
転院するくらいってお家帰れんの?
すぐおうち帰れるって思ってたのに…

ちなっちゃん、私おうち帰れんの?

次は回復期って言ってもっと体が動くようになるためにリハビリをする病院に行くんやよ。

リハビリせんなんの?

今もリハビリしとるやろ?

してないよ?

………

ちなっちゃんはそれ以上突っ込んでくることはなかった。私の理解力というか、今の現状認識力が足りてないことは私の行動を見てると一目瞭然だったのだと思う。

Kaoさん、リハさん好きでしょ?
いっつも仲良く話しとるもんね。

うん。
好きぃ❤️
ちなっちゃんも好きぃ❤️

この頃の感情表現は3歳児と変わらなかった。
思ったことを思ったままに発言していた。
看護師さんの好き嫌いも子供と変わらない判断基準だった。

好きだったのは、OTさん、PTさん、STさん、ちなっちゃん、四千頭身の後藤ぽい看護師さん、似てないけど雰囲気福くんな看護師さん、ちょっと年配の看護師さん。
嫌いだった人もいたけど、今だったらわかるんだ。その人たちも仕事に忠実だったんだ。
どんなに私に怒っても、私が騒ぐと私のベッド横にパソコンを持ってきて落ち着くまで作業をしながら様子を見てくれていた。

その日の夕食後、いつものようにウトウトしかかってた頃、隣の多分認知が入っているだろう思われる事あるたびにトイレに行く彼女が間にひいてあるカーテンをそっと開けて私の荷物をゴソゴソと漁りはじめた。私の中でカーテンの内側は私のテリトリーで勝手に触って欲しくない場所になってた。

だれ!?
なんで触るの
触らんで!!

やんわりと対処するなんてことはできなかった。
そこは私の場所だから触んな!
と最大限の威嚇をしていた。
侵入してきた彼女も突然のことにあたふたして私の反応にパニクっていた。

この騒ぎはもちろんナースステーションまで聞こえていたのだろう。看護師さんが飛んできた。

なになに、どうしたん?
今度はなんの騒ぎけ?

言葉にならない私の言葉。
パニクって「探しとる」しか言えない彼女。

それ私の!
触らんで!!

やっと出た言葉がコレだった。
逆毛たてた猫みたいになって叫んでた。
なんとなく現状を理解した看護師さんは私と彼女の間に入ってまず彼女を自分のベッドへと移動させる。

ここ、Kaoさんの荷物しかないからなんか探しとるなら自分の荷物探され。
Kaoさんも一旦落ち着いて。もう触られんから。

私はカーテン内から彼女が出て行ったことで少し落ち着いていた。

もう来ん?

もう来んよ。

寝ても来ん?

夜は私ら見張っとくから大丈夫やよ

なら寝る

私はそのまま横になるとあっという間に眠った。

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