#27 カーブドッチが表現するワイン×ビールのクロスオーバー
お酒のカテゴリの垣根を超えて、ワインとビールのそれぞれのニュアンスをこんなにも上手に表現するつくり手に出会えるなんて。
もちろん、それが世界的に見ても新しい潮流であるゆえに、まさか日本で出会えるなんて到底思ってもみなかった。しかし昨年、新潟ワインのシーンを牽引し続けるカーブドッチが、まるでワインを思わせるようなビールを発表したことを知り、いつもお世話になっている鯖寅酒販で購入していたから、その存在と味わいはヨーロッパに行く前から気になっていた。
しかも何の偶然か、ヨーロッパ滞在中に書いていたnoteやInstagramの投稿をきっかけに、カーブドッチブルワリー醸造長の草野さんとも繋がることが出来て、自分がヨーロッパで見ているど真ん中を、日本でもやっている人がいるという興奮を抑えきれずに、少しの勇気を出して、メッセージをお送りした。
そして、帰国してからも直接お会いすることができ、実際に新潟・カーブドッチを案内いただけることになった。
カーブドッチは、新潟を代表するワイナリーだが、2022年にカーブドッチブルワリーとして新たにブルワリーが立ち上がる前からビールの醸造設備があり、長らくビールも作っていたよう。
実際、ワインのテイストを強く感じられるクロワシリーズ以外のビール、例えばビターやサワーエールをいただいたが、その品質の高さと味わいに驚く。
特にビターはこれだけゆっくりとじっくりと飲んでいたいほど、柔らかなモルトの味わいと優しいホップの香りが感じられ、昔、ロンドンのパブで飲んだ紅茶のようなテイストも感じられる素晴らしいビールだった。
案内中、草野さんの言葉で印象的だったのは「いかにワインらしいビールをつくるか?」という言葉。その言葉の本質は、良いワインに感じられる「余韻」の再現。
なるほど、ビールで「余韻」という言葉を聞く機会はほとんどない。むしろ、どちらかといえば、ドリンカブルやドライという言葉に代表されるように、飲みやすさやさっぱりとしたフィニッシュ、あるいは、ポップを強く効かせたインパクト(それは「余韻」とはまた異なる)が好まれるビールのトレンドとは、考え方が異なるところに、新しい発見がある。
昨年のヨーロッパ研修以降も、ビールとワインのハイブリッドを飲む機会があるが、ビールのブルワーがつくるハイブリッドと、ワイン醸造家、カーブドッチがつくるハイブリッドの、テイストは異なるように思える。
具体的には、葡萄や樽のニュアンス、またビール自体の発泡の強弱。よりはっきり言えば、カーブドッチがつくるハイブリッドは、発泡は優しく、ワインのニュアンスを強く感じる。また例えば、今年、ブルワーと一緒にカナダのBURDOCKのハイブリッドを飲む機会があったが、彼らのハイブリッドは、ビール本来のカーボネーションやホップのニュアンスをより感じる。それは良しあしではなく、あくまでも違い。
カーブドッチのハイブリッドには、草野さん自身のワインをベースにしたビールに対する哲学が表現されているんだと思う。
カーブドッチの代表的な葡萄品種であるアルバリーニョのプレス後の果皮を使ったビール「Albarino(アルバリーニョ)」には葡萄のニュアンスを特に感じられる。しかし「La Mer(ラメール)」には、葡萄の果皮は使われていない。それにも関わらず、酸味や果実味は限りなくワインに近いように感じる。
スティルに近い柔らかな発泡。ゆっくりと残る葡萄と樽のニュアンス。考え方がちがうから、ビールのつくり手がつくってもこうはならない。
繰り返し書かせてもらうが、それは良しあしの話ではなく、起源や哲学、考え方のちがいが生む豊かな「表現」であり、「多様性」だ。
草野さん自身がきわめて実験的な醸造家なんだろう。実際に、ビールの発酵に関してもKveik酵母や、副原料にも凍頂烏龍やジャスミンを使ったりと実験的に取り組んでいる。今までもブルワリーにお邪魔させていただくことはあったが、Kveik酵母を使うブルワリーはあっても、Kveik ringなんて見たことはなかった。
さらに驚くことに、ワイン、ビールづくりとチャレンジしながら、今はグラッパの蒸留にも取り組んでいる。ワイン、ビール、そして蒸留酒と、その垣根を超えながら、お酒という液体の可能性を模索し続ける様は、どことなく研究者のようにも、あるいはジャンルを自由に超えていく旅人にさえ映る。
結局、あれこれと話をしているうちに3時間も過ぎていた。今回の訪問では、ワインのお話も伺いたかったのだが、これは次の機会の楽しみにしたいと思う。
余談だが、この訪問のあと、OMNIPOLLOS TOKYOで開催したLambic & Wild Ale Dayでもカーブドッチのクロワシリーズを提供させてもらった。
正直にいうとOMNIPOLLOというクラフトビールバーに特化した場所でカーブドッチの名を知る人はほとんどいなかった。しかし、実際に飲まれたお客様たちは、その新しさと味わいに驚き、まさしく多様性を楽しんでいた。
きっと草野さんはこれからも、その垣根や常識を超えて新しいチャレンジをし続けるんだと思う。
お忙しいところ、ご案内いただき、本当にありがとうございました。
salo Owner & Director
青山 弘幸
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