話したいことはたくさんある。
散らばっていく。考えが、ことばが、行動が。
散漫。バラバラになって散っていくというよりは、あちこちに置かれている感じ。一つ拾ってはまた目について一つ拾う。片づけたくて、整理したくてそうしているのに、いつの間にか自分の引き出しがまた一杯になってしまっている。
心新たに立てた目標は、手にするものはなるべく少なく、そしてなるべく小さくて素朴なものから、だった。心の赴くままに一番近くにあるものから手をつけること。一つずつ。……だったのに。
限りなくシンプルにする目標なのに、それが早くもこんなに難しい。
* * *
書くことにしてから、また自分のなかに独り言が絶え間なく流れるようになった。それは、良いことだ。
バスに揺られながら、食器を洗いながら、てくてく歩きながら、さまざまな考えが浮かんではことばになって文章としてつながり、あっという間に後ろへと去ってゆく。ほとんどが、大して意味はない内容だ。
夜、パソコンを開いて文字にして貼りつけようとすると、それらはもう残像のようなものになっていて、走り去ってしまったものたちの影をなんとか思い出してスケッチするような感じになる。それでもいい。要は影だけでもたくさんあれば、なんらかの形になるから。
乗り物に乗って窓から流れていく風景を眺めていたとき、ふと、こんなにも話したいことがたくさんあるんだ、と思った。
君に会えたらこのことも話したい、あのことも話したい。そういうものを、日々心に溜めているような気がする。
とりとめもなく、展開もオチもなく、ささやかな出来事を延々と。
君が誰なのか、いつ会えるのかはわからないけれど。いつかのように、最後の一杯になかなかならないビールを傾けながら、果てしなくしゃべりたい。
君に会えたら話したいことがたくさんある。笑って聞いてくれるだろうか。それまではこんなにもたくさんの無駄なことばを、私のなかだけでじゃぶじゃぶと流していてもかまわないだろうか。