「不思議な薬箱を開く時」
こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
近年、治療法の不明な病気が、
ちらほらと姿を現していますね。
大昔からあったかもしれないのですが、
記録がない以上、明確ではありません。
隠れている奇病、難病に出くわさないことを祈りつつ、
では、今日もお薬箱を開けてみましょう。
「血液が青くなる薬」
はい、服用しますと、血液が青くなります。
記録によりますと、
それは美しい、青い色になるということです。
このお薬は、ロマノフ王朝の初頭、
密かに作られたもので、
秘密結社の仲間の証として血液を青くし、
血統の正しさ、崇高な由緒を表わしたのです。
青い血といいますのは、
生まれ正しく、高貴な人間であるという表現の一つで、
ロシア貴族の血は青いと言われていますが、
それはあながち、ただの例え話ではないようです。
ロシアの歴史上、最後の王朝であるロマノフ王朝が、
1613年に始まり、
ミハイル・ロマノフが、ロシアのツァーリ、
つまり、絶対的な支配者として君臨した時代のこと。
真の高貴な一族であるかどうかを明確に見分けるために、
宮廷に仕えていたいた医師、
マリノフ・ニヴェイツキに開発させた薬です。
反政府主義者や、罪人を何十人も死亡させた末に、
ようやく製剤に成功しました。
この薬を服用する権利を持つ者たちは、
戦場で戦う必要がない者たちであり、
暗殺されたり、怪我をしたりする場合以外では、
青くなった血液を見ることはありません。
しかし、王族でも貴族でもない金持ちが、
かなりの高値で薬を買って服用してしまったり、
村娘や召使の娘などを密かに相手にした貴族が、
青い血を受け継いだ隠し子を残してしまうという、
スキャンダルが多発しました。
大金持ちが、貴族を騙るために大枚を支払うのは、
有耶無耶にされがちですが、
ただ、気紛れで手を出した平民に、
青い血の者が生まれるなど、
許されないことでしたから、
真実を知らない平民たちには、
悪魔か何かの所業であると言い包めて、
生まれた子供の命を奪うしかありません。
モラルの問題で、青い血による確証は、
揺らいでしまったわけです。
しかし、真の高貴な青い血は、
サファイアが溶けだしたかのように美しく、
終いには、青い血の鑑定士まで登場しました。
混ざり物なしの、純粋な高貴さであるかどうかを
血を鑑定する仕事です。
ロマノフ王朝が幕を閉じるとともに、
この薬の服用もされなくなったとのことです。
調剤法を記した薬の書は、
エルミタージュの奥深くに保管されていました。
では、調剤料をご紹介しましょう。
「血液が青くなる薬」処方
ヘレボアの根汁・・・・・・・・・・5滴
アウインの粉・・・・・・・・・・・大匙5杯
ラズライトの粉・・・・・・・・・・小匙2杯
雄鶏の心臓・・・・・・・・・・・・一羽分
タマネギの液汁・・・・・・・・・・大匙2杯
シベリア人参のエキス・・・・・・・大匙3杯
ウラルカンゾウの根汁・・・・・・・大匙2杯
ラジオラ・ロゼアの花・・・・・・・5個
ビスマス塩・・・・・・・・・・・・小匙2杯
金粉・・・・・・・・・・・・・・・小匙1杯
諸注意
アウイン、ラズライトは、微細になるまで、
徹底的に粉砕しましょう。
ビスマス塩は、調剤時に熱を加えて、
乾燥させましょう。
シベリア人参のエキスは、純度が命ですから、
じっくりと蒸留してください。
雄鶏は、カラスと見紛う黒色が良いとされています。
備考欄
血が青いという表現は、
昔から、出自が高貴であることの例えです。
ロシア貴族の血は青いと言われていたのは、
そのせいですね。
一般市民とは、違うのだよと言いたいのでしょう。
しかし、冒頭にも書きましたが、
放蕩貴族が、村娘や召使に手を出して、
青い血の価値を貶めてしまった例は、
何件も挙げられています。
つまりは、高貴だから青いわけではなく、
青くしたから青いだけということですね。
人知れず、青い血を持つ子孫が、
ロシアに生き残っているようです。
青い血が流れる人を
たまたま、偶然見てしまった!という、
近代の記録もあります。
血液が変化した体液、
たとえば、母乳や精液などに、
色の影響はあるのでしょうか?
実は、青い血の成分に影響を与えています。
青い血は、猛毒であり、
飲めば、もだえ苦しんで死亡すると、
記されています。
吸血鬼のみなさんは、
ロシア貴族をディナーに選ぶのは、
止めておいた方がよさそうですね。