「不思議な薬箱を開く時」
こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
お薬の本が、たくさん出版されています。
健康のためには、あまり飲まないほうがいい。
自然治癒が一番だと唱えています。
まあ、簡単には、いかないでしょうが。
では、今日もお薬箱を開けてみましょうか。
「火を吐けるようになる薬」
まるで、ドラゴンか、
見世物小屋の芸人ですね。
しかし、このお薬が使用されたのは、
第一次ケルティべリア戦争の最中です。
紀元前181年に、エブロ川沿いに広がっていた、
ケルティべリアの一族は、
農耕を営み、鉱山も所有していましたが、
ローマとの土地争いが戦争に発展しました。
一度は戦いに敗れて、
コンブレガに要塞都市を築きますが、
ローマの執政官フルウィウス・フラックスに対し、
戦いの償いとして、死者一人につき一着の服、
一頭の馬、一振りの剣を要求します。
フラックスは、大量に届けようといい、
服と馬と剣を携えた兵士を引き連れて行軍。
ケルティべリア人をまたもや追い詰めます。
ケルティべリア人は、幾度となく、
ローマに逆らいつづけていましたが、
三度目の戦いの時に、
ローマ軍は、なんとも不気味な敵を迎えたのです。
その兵士は、顔が真っ赤でした。
一列に並んだ赤い顔の兵士たちは、
ローマ人に、異様に接近し、
いきなり、血の色の炎を吐きつけて来たのです。
ローマの兵士たちは、驚いて怯みます。
炎を吐く兵士たちは、
じりじりとローマ兵を退いて行かせました。
まるで、ドラゴンか何かのように、
赤い炎を吐く兵士など、見たことがありません。
切りつけようとすると、熱い炎が襲ってきます。
とんでもない攻撃に、一時はローマ軍も混乱を期しましたが、
勇猛で知られるスパルタの傭兵を雇い入れて、
恐れを知らぬ攻撃に転じ、
次々と火を吐く兵士たちは、倒されていきました。
ローマ軍の執政官は、炎の謎を知りたがりましたが、
ケルティべリア人の族長は、大量の銀貨と、
広い土地を条件に出して来ました。
ローマ軍は、ケルティべリア人に、
貢納と戦争時の兵力供出を約束させ、
ケルティべリア人の医師、アッピアノスを連れてきました。
エブロのアッピアノスは、
山羊革の巻物に書かれた調剤法を
ローマ軍に教えましたが、
その後、秘密の漏洩を恐れたローマ人に処刑されます。
ローマの学者や医師たちが、こぞって研究し、
調剤に挑んだと記録には残されています。
この巻物は、1800年代の初頭、
ヴァチカン図書館の薬学の棚で発見され、
現在も保存されています。
では、調剤料をご紹介しましょう。
「火を吐けるようになる薬」処方
岩場のマンドレイク・・・・・・・・3本
乾燥させた山羊の胎盤・・・・・・・1頭分
羊毛脂・・・・・・・・・・・・・・大匙2杯
パイライト末・・・・・・・・・・・大匙2杯
オニキス末・・・・・・・・・・・・小匙1杯
ホルンフェルス末・・・・・・・・・大匙1杯
マーカサイト末・・・・・・・・・・大匙1杯
琥珀末・・・・・・・・・・・・・・大匙2杯
牡牛の皮脂・・・・・・・・・・・・大匙1杯
シメール蛇の毒・・・・・・・・・・3匹分
諸注意
岩場のマンドレイクは、全草を丁寧に磨り潰してください。
パイライト、オニキス、ホルンフェルス、
マーカサイト、琥珀は、微粉末にします。
シメール蛇は、滅多に見られない毒蛇ですが、
おそらく、世界最強の猛毒の持ち主です。
伝説によれば、シメール蛇が這った後は、
うっすらと焦げているといわれるほどの強毒だとか。
手指の傷は、針で突いた程度であっても、
命の危険がありますので、十分な注意を。
使用した器具は、すべて廃棄することをお勧めします。
備考欄
火を吐く兵士たちは、
一様に顔が赤かったそうですが、
それは、薬の作用でしょう。
血のように赤い炎であったと、
記録には残されています。
きっと、兵士たちの命の色なのでしょうね。
エブロのアッピアノスは、
実は、ローマに教えていないことがありました。
それは、クレタ島で発掘された遺跡から出土した物ですが、
エブロのアッピアノスの署名がある巻物です。
この巻物には、この薬に必要不可欠な薬の調剤法が、
記されていたのです。
それは、火傷を治す薬です。
火を吐く兵士たちは、
みな、体内にひどい火傷を負うので、
この薬を飲んで火傷を治していたのですね。
ローマ人は、その調剤法を知らされていなかったので、
製剤が成功しても、服用して火を吐いた後に、
被検体は死亡したでしょう。
参考までに、アッピアノスが開発した、
火傷の薬の調剤料を紹介しておきますね。
「アッピアノスの火傷の秘薬」処方
火蜥蜴の肝・・・・・・・・3匹分
クサリヘビの肝・・・・・・2匹分
アロエの果肉・・・・・・・拳大
ミント精油・・・・・・・・大匙4杯
リトスペルマム・オフィキナレ
・・・・・・・4本
鉱水・・・・・・・・・・・カップ一杯
これを用意しておけば、
火を吐く薬を服用し、
真っ赤な炎を吐いた後でも、
火傷で死なないですみます。
ただ、苦しみはそのままですが・・・。