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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
記憶力の良さと言いますのは、
なかなか自慢できるものです。
しかし、年と共に弱まっていくのも事実ですね。
若くても、忘れっぽい人もいますが。
誰かに何かを伝えようとする時、
確実に、正確に伝えるには、
明晰な記憶が必要です。
そのために、こういうお薬もいいかと。
では、今日もお薬箱を開けてみましょう。

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「人の記憶を自分のものに出来る薬」


自分以外の誰かの記憶。
この薬を服用すれば、他人の記憶を
自分の者にすることが可能です。
自分以外の誰かの人生のすべてを
我が物のように知ることができるのです。
プロイセンの王、「猫背のフリッツ」こと、
フリードリヒ3世は、
王妃の影響あって、学芸の振興に力を入れていました。
学者と学徒が集う大学では、入学のための試験があり、
かなりの難しさであったようです。
合格すれば、末は王宮で働くことも夢ではありません。
芸術と学問の都として花咲くためには、
優秀な才覚と頭脳の持ち主が必要とされたわけです。
しかし、試験の難しさは如何ともしがたく、
現代で言うところの、カンニングも流行ったようです。
もちろん、見つかれば資格の剝脱だけではなく、
下手をすれば厳刑に処せられました。
老マロッツ・カジミールは、
著名な学者でしたが、一人息子を難関に向かわせるだけではなく、
なんとか、試験に合格させるために、
厳しい教育を施していたのですが、
いま一つの成果しか出せずにいたのです。
老マロッツは、是が非でも王宮へ、
学者として息子を送り込みたいと願い、
「ニハ・ツァツラキ」、
「奇跡の書」を手に入れました。
「ニハ・ツァツラキ」には、古代の叡智が記されているとか。
特に、あらゆる薬の調剤法が載っていると伝えられています。
書物の中から、選び出したのが、
「人の記憶を我が物とする」薬でした。
苦心惨憺の末、調剤料を揃えて、
製薬し、記載されてある通りの、
特殊な服用法を行いました。
さて、成功したのでしょうか?
記録には、老マロッツ・カジミールの長子、
シュヴェリーン・カジミール博士の名が残されています。
しかし、薬の服用が知られてしまったのか、
老マロッツは、辺境の地へ流されたとされています。
果たして記録を見る限りでは、成功した?と言えるでしょうか。
それとも、実力で合格したのでしょうか?
実は、この薬の効力は、
その後、50年以上経ってから、明らかにされたのです。

「まったく経験していないこと、
見たことのない風景、愛や悲しみ、苦しみ、
そして、喜びを感じる」

この記録には、薬の服用者の言葉が残されていました。
薬は、後世に「マロッツの記憶薬」と呼ばれていたようです。
では、調剤料をご紹介しましょう。

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「人の記憶を自分のものに出来る薬」処方

ドルステニアの塊根・・・・・・・・1個
プセウドリトス・・・・・・・・・・1個
デンドロセネキオ・・・・・・・・・1個
セージ・・・・・・・・・・・・・・大匙1杯
シナモン末・・・・・・・・・・・・大匙1杯
ヤドリギの実・・・・・・・・・・・10個
コカ末・・・・・・・・・・・・・・大匙2杯
トリカブト根末・・・・・・・・・・小匙2杯
タランチュラ毒・・・・・・・・・・小匙2杯
アンテロープ角末・・・・・・・・・大匙1杯
ドロミテ末・・・・・・・・・・・・小匙1杯
ミドリゲンセイ末・・・・・・・・・小匙1杯

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諸注意
この調剤料は、微妙なバランスの上に立っています。
わずかでも量配分を間違えると、死の危険があります。
猛毒と毒消しが、際どいバランスを持って、
揃えられているからです。
一つ一つの調剤料を丁寧に挽いたり、
粉末にしたりすること。
製剤途中で、匙を変えたりしないようにしてください。

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備考欄
老マロッツ・カジミールは、
カンニングがバレて、辺境の地へ流されたのですから、
息子のシュヴェリーン・カジミールは、
実力で合格したということでしょう。
つまり、この薬の効果は、
その後に明確になったというわけです。
老マロッツが所有していた奇跡の書、
「ニハ・ツァツラキ」は、行方知れずですが、
必要な処方だけを抜き出した記録が残されていたのです。
53年後に、調剤法を発見した者たちは、
ドイツの学者たちであり、
開発と実験を繰り返したらしい記録があります。
こればかりは、動物実験では効果のほどがわかりませんから、
囚人に服用させて試したとあります。
服用した5人のうち、3人は精神に異常をきたしたようです。
残った二人は、別人のようになり、
元の人格に戻ることはなかったようです。
お察しの通り、この薬の服用は特殊です。
まず、欲しい記憶の持ち主に薬を服用させ、
1日と半分経った後、
服用者の髄液を採集し、記憶をもらいたい者に、
薬と一緒に服用させます。

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