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「不思議な薬箱を開く時・薬種・薬剤編」

いらっしゃいませ。
歴史の片隅に息づく神秘の伝統薬をご紹介致します。

「不思議な薬箱を開く時・薬種・薬剤編」へ、ようこそ。
今回は、どの様なお薬が登場致しますか。
ささ、薬店内へ、どうぞ、お入りくださいませ。

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「人面瘡についての考察」

六十五年 飛騨國有一人 曰宿儺 其為人 壹體有兩面 面各相背 頂合無項 各有手足 其有膝而無膕踵 力多以輕捷 左右佩劒 四手並用弓矢 是以 不随皇命 掠略人民爲樂 於是 遣和珥臣祖難波根子武振熊而誅之
ー『日本書紀』仁徳天皇65年の条ー

六十五年、飛騨国にひとりの人ありき。
名を宿儺といふ。
一つの胴体に二つの顔があり、それぞれ反対側を向けり。
頭頂は合してうなじのなく、胴体のそれぞれに手足があり、
膝はあれどひかがみと踵がなかりき。
力強く軽捷に、左右に剣帯び、四つの手に二張りの弓矢を用ゐき。
さて皇命に従はず、人民より略奪することを楽しめり。
さて和珥臣の祖、難波根子武振熊遣はしてこれを誅しき。

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「両面宿儺」という、鬼神あり。

その鬼神の名を”宿儺”というのですが、
“両面”とは、この鬼神の異様な容姿からきています。

なんと、この鬼神、
前面の顔と、後頭部に、やはり顔があったのです。
前と後ろに顔があることから、”両面宿儺”なのです。
そのどちらの顔も、よく語り、うるさいほどであったとか。

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実は、西洋にも、”両面宿儺”と同じ、異形の容姿を持つ怪物がいます。
ブラタント・ビースト(Blatant Beast)

ブラタントとは、

「騒々しい、しつこくてやかましい、
けばけばしい、悪どい、見え透いた、
露骨な、はなはだしい、ずうずうしい・・・」
という意味合いがあります。

ブラタント・ビーストも、
正面と後頭部に、顔があったのです。
そして、常に悪態、罵詈雑言を叫んでいたとか。


両面宿儺とブラタント・ビースト
ただの異様な容姿の怪物、と、終わらせてしまうことも可能ですが、
このような説を唱える方もいらっしゃいます。

「症例としての人面瘡は、殆どの場合、
大きくとも大人の掌大であるが、
地中海沿岸地方、東欧辺境地方において、
頭部の前後、左右と、顔面様の巨大な腫れ物として、
症状が現れたという記録がある」

日本人の民俗学者、鎌谷 茂教授は、
古い事例や記録から、
現代において、”想像上のものではなく、病例から”きていると学説を唱えたのですが、
なかなかにデリケートな仮説となる可能性あり、とされ、
表舞台には、立てられない学説として、
研究室の奥深くに仕舞い込まれたようです。

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古代より、奇形症状を持つ者を
神聖化したり、逆に物忌とする事例は、確によくあります。

感染する恐怖、異形化した見た目から、
“病例”とされる前に、”鬼神””妖怪””悪魔”として、
記録に残されるのです。

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“両面宿儺”
“Blatant beast”

この事例は、「人面瘡」の症例である、と唱える学者は、
水面下ではありますが、少なくはありません。

“両面宿儺”は、わずかに現存する資料から、
人を供物として捧げさす、と、記されています。

“人の頭の骨の器に生き血を
石皿に裂きし肉を”盛って、奉納せしに

頭蓋骨を断ち割った物に人間の血液を入れ、
石製の皿に、食べ易く裂いた人肉を盛って捧げ物としたのだそうです。

ブラタント・ビーストも、
人間を豪華な料理の食材として使用する為、
近隣在郷から生贄を探させていたとあります。

日本での「人面瘡」の記録に、
「人肉」と「血液」を要求して、
患者に激しい痛みを与える、とされています。

片面は、通常の顔貌ですが、
もう片面は、まるで人身の闇を顕にしているかのような醜怪さであるのも、
「人面瘡」の患部の特徴と同じです。

予言をするなど、人知を超えた能力を持つなど、
いろいろと伝説はありますが、
その実、ただの不気味で異様な腫れ物で、
恐ろしげな云われが付き纏うのも致し方なしと言えるでしょう。

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