「不思議な薬箱を開く時」
こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
近年、薬が効かない疫病が登場し始めました。
薬に対する抵抗力を持つのは、
ウィルスや、菌も同じですね。
薬を盛られて、具合が悪くなり、
死んでしまうのが嫌なのは、
人間だけではないわけです。
では、今日もお薬箱を開けてみましょうか。
「卵を産める薬」
人間の赤ん坊が、卵の殻を破って出て来る?
いいえ、そうではございません。
人間の卵を産むのではなく、
特別な卵を産めるのです。
サイズは、鶏の卵を一回りほど大きくした程度。
色は、白、斑、珍しいものですと、
美しい青色であったりするとか。
実は、この卵なのですが、
この卵自体が、とても貴重な薬なのです。
つまり、薬となる卵を産める薬というわけですね。
この薬の開発を願ったのは、
ムハマンド・イブン・サウードという、
ディルーヤのスルタン、皇帝です。
スルタンの世継ぎの王子は、
先天性の難病を抱えていました。
背も高くならず、言葉もたどたどしいままで、
とても、玉座を継ぐことはできそうにありません。
しかし、スルタンは、たった一人の王子を
誰がなんと言おうと、自分の跡目としたかったのです。
アラビアだけではなく、
ローマや、インド、中国にまで、
薬を探しに使者を派遣しました。
そして、ようやく探し当てた薬の手掛かりは、
インドにあったのです。
シュリーヴィジャヤ王国の薬師、
ウカリカットが、奇跡の良薬を
人間の女性に産ませることができるという、
薬の調剤法を知っていました。
かなりの高額を積み、
調剤法と調剤料を持ち帰ったのはいいのですが、
何が問題なのか、失敗に次ぐ失敗を重ね、
11年という長い時間をかけて、
ようやく、成功したのです。
世継ぎの王子の難病は、たちどころに治癒し、
スルタンの跡目を継いで、
賢王と呼ばれるまでになったということです。
調剤法を記した巻物は、
今は無き王国の遺跡から発掘され、
現在は、サウジアラビア国立博物館に、
極秘裏に保管されていますとか。
では、調剤料をご紹介しましょう。
「卵を産める薬」処方
アムスの果泥・・・・・・・・・・・・・大匙5杯
トゥムウ・ラウの根茎・・・・・・・・・3本
ダウン・ヌナス・ムダの果実・・・・・・1個
メソイ・・・・・・・・・・・・・・・・2本
ジェニトゥリの根茎・・・・・・・・・・2本
デリマ・プティの果汁・・・・・・・・・2個分
ジュワシンドラの果肉・・・・・・・・・1個分
白胡椒・・・・・・・・・・・・・・・・小匙1杯
アダスの果実・・・・・・・・・・・・・5個
アリキシヤの幹皮・・・・・・・・・・・1枚
ジュン・パンダン・・・・・・・・・・・一握り
マジャカンの虫瘤・・・・・・・・・・・4個
シリカ・・・・・・・・・・・・・・・・親指大3個
真珠・・・・・・・・・・・・・・・・・7粒
孔雀の胎卵・・・・・・・・・・・・・・3個
諸注意
シリカと真珠は、微粉末になるまで砕きましょう。
その他の調剤料は、生のまま使用します。
すべてを混ぜ合わせ、丁寧に磨り潰し、
滑らかになるまで練り合わせます。
備考欄
この薬を服用するのは、
卵を産んでもらう女性です。
しかも、産み月の女性に限ります。
成功すれば、赤ん坊と一緒に、卵が産まれてきます。
まずは、卵が産道を通って産まれ、
その後に赤ん坊が産まれます。
子宮の中で、赤ん坊と共に育った卵は、
それはつややかな殻に守られています。
しかし、絶対に守らなければならないことがあります。
この卵は、産まれて間もないうちに、
すぐに殻を割って、服用させること。
この卵は、そのままにしておくと、
とんでもなく醜怪な生物を誕生させてしまうという、
恐ろしい副作用付きです。
この怪生物については、
記録は、少なく明快な記事は見当たりませんが、
保管しておこうとしたが、
想像を絶するような生物が、
卵から生まれた、
身の毛もよだつような、見たこともない形態で、
目にした動く物を何でも捕食するという、
真偽不明な記述しか残されていません。
まるで、空想科学小説の世界ですね。
始末に負えない事態を招くような好奇心は、
持たないほうが無難です。