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値上げが楽しくなる最高の伝え方と注意すべきポイント

私、高橋実たかはし みのるは、従業員30名ほどの中小企業「高橋電機」の二代目社長だ。父から会社を継いで5年、毎日が戦いの連続だった。その日も、取引先との厳しい交渉を終え、疲れ果てていた。

「もう少し楽に利益を上げる方法はないものか...」

そんな思いを抱えながら、ふと目に入ったのが、経営セミナーのチラシだった。「最も利益を改善するファクターについて」という触れ込みに、藁にもすがる思いで参加を決めた。

セミナー当日。会場に着くと、既に多くの経営者たちで溢れていた。皆、私と同じように答えを求めてここに来たのだろう。

「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

スーツをビシッと着こなした講師が、颯爽と登場した。

「では早速ですが、クイズです。次のうち、営業利益に最も影響を及ぼす要素は何でしょうか?」

スクリーンに映し出された4つの選択肢。

  1. 販売数量が1%増加

  2. 価格が1%増加

  3. 固定費が1%削減

  4. 変動費が1%削減

私は内心、少し呆れていた。「どれも1%の違いなら、たいした差はないだろう」

しかし、次の瞬間、その考えは完全に打ち砕かれた。

「正解は、2. 価格が1%増加、です」

「業界によって数値は上下しますが、この順位は全産業共通。つまり価格向上こそがもっとも利益を改善するドライバーということです」

講師が示したグラフには、驚くべき数字が並んでいた。価格を1%上げるだけで、利益が10%以上も改善するというのだ。

図1. 要素を1%改善したときの営業利益改善率(米国)

「まさか...」

私の隣で、誰かが小さく呟いた。その声に、会場全体の驚きが凝縮されているようだった。

講師は続ける。「しかも、この傾向は日本企業により顕著なのです」

そう言って、日本企業のデータを示した。そこには、さらに衝撃的な数字が並んでいた。

図2. 要素を1%改善したときの営業利益改善率(日本)

私の頭の中で、様々な思いが渦を巻いた。これまで必死に経費を削り、販売数を増やそうとしてきた。しかし、その努力が的外れだったとでもいうように、「価格」という要素が私たちを見下ろしている。

  • どうして価格向上が営業利益率に与えるインパクトが大きいのか

  • 価格向上の影響が大きくなる企業の特徴

  • 価格を下げると逆の効果が起きる

  • 現実でプライシングを改善するときに直面する課題

など様々な事例、実践的な手法へと話が進んでいった。私は必死にメモを取った。まるで、長年の謎を解く鍵を手に入れたかのような高揚感があった。

「よし、これだ!」

帰り際、私の胸の内には確固たる決意が芽生えていた。価格を見直し、会社の未来を変える。そう心に誓ったのだ。

しかし、現実は甘くなかった。

セミナーから一週間後、私は自分のオフィスで頭を抱えていた。「価格を上げれば利益が上がる」。理屈では分かっている。でも、実行に移せない。

「お客さんが離れていったらどうしよう...」

「競合に負けてしまうんじゃないか...」

不安が次々と湧き上がる。結局、私は何も変えられずにいた。

そんなある日、偶然にも大学時代の親友・鈴木利益すずき りえきと再会した。彼は今や小さいながらも自身のコンサルティング会社を経営していた。

「久しぶりだな。最近どうしてる?」鈴木が人好きのする笑顔で話しかけてくる。

「まあ、なんとかやってるよ。そっちは?独立したって話は噂で聞いたけど」と返すと、鈴木は笑顔で頷いた。

「ああ、そうなんだ。コンサルティングファームを作って、と言っても規模は全然小さいんだけど、クライアントにも喜んでもらえてやりがいがあって最高だよ。ちなみに山田は利益改善するってなったらどこから手を付ける?」

「この間参加したセミナーによるとプライシング改善が利益に対する最大のファクターらしいぞ。」と答えると、鈴木が少し驚いた顔をした。

「プライシング改善のセミナー?どんな内容の?」

「価格を1%上げるだけで利益率が大幅に改善するって話だったよ。具体的な事例や方法論も紹介されてたんだけど、実際にどうやればいいかは分からなくてさ」

「もしかして、そのセミナーTKP○○ってところでやらなかった?多分それ、うちの会社が開催したものだわ」

偶然に驚きながらも鈴木は続けてこういった。

「いやー凄い偶然だわ。昔のよしみだし、プライシング改善について俺が直接参画するよ。報酬は成果報酬でいいからさ」

そういって、鈴木はさらに具体的なプランを話し始めた。「まず、現状の価格設定と市場分析を一緒にやろう。それから顧客層を細分化して、どのセグメントにどのようなアプローチをするかを考えるんだ」

私は鈴木の熱心な提案に感謝し、彼と共にプライシング改善プロジェクトに取り組むことを決めた。翌日から、鈴木は早速オフィスに訪れ、私たちは現状のデータを徹底的に分析し始めた。

鈴木のアドバイスを元に、まずターゲット顧客層を明確にした。価格に敏感な層とそうでない層に分け、それぞれに適した価格戦略を立てることにした。

プレミアム顧客には付加価値サービスを提供し、価格に見合う価値を感じてもらう。一般顧客には、段階的な価格改定と丁寧な説明で理解を求める。

実行の日、私の手は震えていた。しかし、結果は予想を遥かに上回るものだった。

クレームは予想よりはるかに少なく、多くの顧客が新価格を受け入れてくれた。そして、利益率は確実に向上した。

「やった!我々にもできたんだ!」

社員たちと喜びを分かち合ったとき、私は胸が熱くなるのを感じた。

この経験を通じて、私は経営者として大きく成長した。数字の向こうにある価値を見る目、データと直感のバランス、そして何より、変化を恐れない勇気を学んだ。

今、私の机の上には新しい事業計画書が置かれている。かつての不安は、今や期待と興奮に変わっていた。

窓の外に広がる街並みを見つめながら、私は静かに微笑んだ。

小さな価格の変更が、大きな変化をもたらす。まるで、蝶の羽ばたきが遠く離れた場所に嵐を引き起こすように。

これからの「高橋電機」に、もう恐れるものは何もない。


とまぁいつも通り小噺からスタートしたわけですが、「プライシング」は本当に重要。冒頭に登場する数値はガチですからね。

しかし、プライシングの重要性があまりにも伝わっていない。そんな状況を憂いて、事業オーナーの皆様を啓蒙する意味も込めて「プライシング大全」をスモールビジネス大全の連載として書き始めたのが2021年の話。

アフィリエイト報酬が一切ないのにもかかわらず辛口評論家の沖ケイタさんには「2022年で1番買ってよかった有料コンテンツ」とまで評価される結果に(本当にありがとうございます)。

辛口くんのツイートより

今回は「プライシング大全を読んで、実践的なやり方も分かった。だけど、いざ実践しようと思うとなかなか一歩が踏み出せない」という人のために記事を書いてます。

現状、強気でプライシングをできているのは情報商材屋界隈くらいの印象です。

実業をやっている人ほど「安い=売れる」信仰があり、難しいんですよね。

コピーが無料でコンテンツを売っている情報商材と違って、原材料費などの原価がかかっているので値上げをして売れなかったときのリスクを大きく感じてしまうのも分かります。

なので、今回は

  • そもそも、値上げをする余地があるのか?

  • 値上げをするべきなのか?

  • 値上げをするとき、どうやって伝えればいいのか?

  • 値上げによる販売数低下などの悪影響を最小限にする方法【めちゃいい】

などについて解説していこうと思います。

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