第一回授業研究セッション レポート
概要
SALASUSUが2021年よりJICA草の根技術協力事業の一環で行う「カンボジア職業訓練校のソフトスキル研修能力向上プロジェクト」では、カンボジアの若者が自分らしく人生を歩めるようなソフトスキルが育まれることを目指して、職業労働訓練省とパートナーシップを組み、ソフトスキル育成の担い手となる公的職業訓練校の現職教員養成を行なっています。その活動の柱の一つ、現職教員研修の一環として挑戦しているのが授業研究の導入です。教師がプロフェッショナルとしてreflective practionerとしての専門力量を鍛えるため、さらにまた学校の枠を超えたソフトスキルの先生たちが学びあえるコミュニティになっていくことを狙います。
実施内容
先月6月22日、タケオ州リージョナル職業訓練校(REGIONAL POLYTECHNIC INSTITUTE TECHO SEN TAKEO (RPITST))においてその第一回セッションを開催しました。 当訓練校のソフトスキル授業を、他の技術養成校のソフトスキル教師が参加、観察することを通じて、内省力を深め、自らの教授法の内発的改善やソフトスキル育成への深い理解を育むことを狙ったものです。
当日は、タケオ職業訓練校の校長先生を含む3名、プノペンの公的職業訓練校15名、カウンターパートである労働職業訓練省より1名、弊団体からは4名の、総勢19名が参加しました。
今回の公開授業は9.30から開始。プノンペンの先生たちは朝6:30に集合してバスで共にTakeo校に向かいました。team workをテーマにした1.5時間のクラスで受講生徒は44名ほど。他校の先生たちはクラスに実際に足を踏み入れ、熱心にクラスを観察していました。この授業研究において、観察と言った時に大切なことは、観察する先は決して先生やその教え方ではなく、生徒の学ぶ姿、このクラスの中の生徒に一人一人に起きている事実から学ぶ、ということです。
授業観察の後、タケオ訓練校の食堂でのお昼を挟んで、午後からは校長先生のコメントをスタートに、その振り返り研究会を行いました。先生たちは各々が観察した事実とそこからの自身の学びについて1分程度でコメントを順番に述べます。「クラスの後ろにいたこのKさんという生徒は、ずっと頬杖をついていてあまり集中できていないのかなと思ったのですが、先生の投げかけた問いについては、サラサラとペンを動かしていました。」「Sさんという生徒は、皆の前に立ってアクティビティをやるときはなんだかとても不安そうでしたが、一度席に戻るとその緊張はほぐれ、先生の問いについて積極的に取り組んでいました。」など一人では決して観察しきれない多様な視点が飛び交い、授業の中に起きていたさまざまな事実が共有されました。
それぞれの共有が終わった後、SALASUSUから投げかけられた更なる問い (例、「授業の中に盛り込まれたチームワークを学ぶためのゲームの時間に、学んでいなかった生徒は何人くらいいたか」など)をもとにグループに別れての協議を行いました。
この内省会の後は、ソフトスキルクラスの授業案の一つを紹介するワークを行いました。ソフトスキル教員たちの日々のチャンレジは授業をいかに実践的なものにしていくか、そのためにどんな活動をクラスに取り入れると良いかなど、授業案に乏しい点にもあります。ソフトスキルの良質なカリキュラムや教師教材が不十分なため、先生たちは日々インターネットから検索したり、他のトレーニングから自身で悩みながら活動を導入することがほとんどです。そのため、SALASUSUのソフトスキル授業案を紹介する目的で、コミュニケーションスキルの授業の一つ、相手の話の聞き方を体得するためのアクティビティを紹介しました。授業案の紹介ではありましたが、先生たちは非常に熱心で、各々が真剣にアクティビティに参加し学ぼうという意欲にあふれてました。
考察・学び
初回のセッションや授業研究会を始めて日が浅い場合は、観察を行う他の先生が授業者である先生に集中して他の先生が授業者にアドバイスをする場になりがちです。また、生徒が学んでいないと批判を受ける場になることも少なくなく、安心安全の場を作り上げること、不完全な授業や不完全な教師としてのお互いを認め合うということはなかなかすぐに行えるものではありません。しかし事前のワークショップも含めて練習や説明を重ねたこと、早朝から旅路を共にしたこと、校長先生の素晴らしいサポートなどのさまざまな要素が手伝って、そして何より先生たちの熱心さと温かさのおかげで終始和やかで楽しい雰囲気でおこなうことができました。
セッションが全て終わった時に次の公開授業を担当したいと数名の先生たちが手を上げてくれたことは大変嬉しい成果の一つです。最初の公開授業にトライしてくれたタケオ校の先生や校長先生がその一歩を踏み出してくれたこと、周りの先生の学ぶ意欲がこのプロジェクトの非常に大きな前進をもたらしてくれたように思います。
今後に向けて
この良いスタートを今後いかに活用していくかが、より重要になってくると捉えています。日本の研究では、回を重ねるごとに、よりその観察眼が非常に細やかになり、かつその観察からの学びを自身の授業に引きつけてより自分ごととして捉え、自身の授業に反映することができていくようになると言われています。
その力を養うには、この授業研究セッションを何度も何度も重ねること(先行研究ではその変容に大抵3年はかかると言われています)そのために、現職の先生たちの学びの機会を効果的にコーディネートし、ソフトスキルを育む土壌としての学びの共同体をソフトスキルの先生たちの中に育んでいくことができるか、挑戦を続けます。次回はシェムリアップのリージョナル職業訓練校Regional training center (REGIONAL POLYTECHNIC INSITUTE TECHO SEN SIEM REAP (RPITSSR))での授業研究会を予定しています。