クックパッドのあたりまえ品質を支えるチームづくり
クックパッドデザイン戦略本部長の宇野です。
今日は「あたりまえ品質をどう保っていくか」という課題に、クックパッドのレシピサービスが組織としてどう取り組んでいるかという話。
皆さんの会社には塩漬けになってる施策一覧ってありませんか?GitHub IssueやBacklogの下の方にずっとたまっていませんか?期末や期初のに棚卸しして、そっ閉じしてるものありませんか?ありますよね!!??
・やった方が良いけどやる時間がとれない
・事業KPIに直結しないので優先度が上げられない
よくある話。UIデザインの話だけでもそんなの大量にあります。
・デザインガイドラインを変更したが、反映漏れのあるページがある
・リニューアル前のスタイルが一部残っている
・文言のルールがバラバラ
・Dynamic Type対応したい
・ちょっとしたマイクロインタラクションをつけたい
👆こういうガイドライン、実はあそこが漏れてるとか気づいていて放置していませんか?
クックパッド事業本部(レシピサービスのクックパッドを作っている本部)ではこれらを積極的に片付けるために、「当たり前品質改善プロジェクト 通称ATM(ATariMae)」という取り組みをしています。
この取り組みを始め半年ほどたちいろいろな知見が得られたので、今回はそれをご紹介します。
なぜやったの?🤨
クックパッドアプリは今年の2月にリニューアルを行いました。
リニューアルは開発に時間をかけるのではなく、その事前検証と開発後の改善に時間をかけるべき。
ただ、リニューアルオープンのタイミングですでに「工数の関係で見送り」としたものがたくさんあり、公開しないとわからない未知数な部分も多くありました。そのためリニューアルの目的に直結しない施策の優先度は、そのままいくと今後も上げられないことは明白でした。
そこでプロジェクトにデザインリードとして参加していた僕は、担当本部長と話し合い「毎リリース必ず一つ以上の改善を含めること 」と決めます。どんな小さな改善でもいい。フォントの色を揃えましたとかそんなレベルでも十分。
✅「改善を続けること」の継続する習慣づくり
✅「改善をしていい/できる」という意識づくり
これらを目的にまずは小さく始めてみることにしたのです。
※今は大きめなissueにも取り組めるよう「毎リリース」という制限は外していますが、平均で一つ以上のリリースがされています
どうやったの?🤔
端的に言うと、改善案を募りそれをやるための時間と人を捻出しました。
改善案を社内から募る
「クックパッドの改善案が集まる魔法のシート」というスプレッドシートを作り、社内ブログやSlackで告知をして改善案を集めます。塩漬けになってるissueも掘り出して転記。まだこの段階では施策粒度はバラバラです。この時点で過去の担当者から「自分がやらないと決めたけど、やった方が良いこと」のようなパンドラの箱も出てきます。
👆実際のシートの様子(現在はGitHub Issuesに移行)
優先度を決める
直接事業KPIにひも付きにくい施策では優先度をつけるのが難しいのですが、この取組みでは先に書いたように「改善をやりつづけること」を目的にしていますので、できるだけ小規模かつ体験が改善されるものを優先的に対応します。
👆この表の数字は優先度を表しています。縦に体験、横に工数としました。
体験向上は大きく2種類に分けています。
・悪い体験(👎Bad)を普通(normal)にする
→ 例)ボタンが小さくて操作ミスが起こっているので大きくする
・普通の体験(normal)をより良い体験(👍Good)にする
→ 例)メインアクションにHaptic Feedbackを追加してわかりやすくする
数を多くの改善を行うことを大方針としていますので、
① 工数😙Low × 👎Bad
② 工数😙Low × 👍Good
③ 工数😓Middle × 👎Bad
…
のようにしてざっくりとした優先度を決めました。
メンバーを集める
いきなり多くの人をかかえてしまうのは大変なので、社内のメンバーを巻き込めるエンジニアのマネージャー2名とデザイナー1名(僕)の合計3人をミニマムメンバーとして、ワイワイお祭りのような雰囲気でやることを決めます。
ここではできるだけ社内で影響力を持つ人を集めるのがポイント。初期パーティーほんとに大事。
オープンな場でやる
オープンなSlackチャンネルを作り誰でもそのチャンネルに入れるようにします。その上で場所も会議室ではなく社内のラウンジ(大きなキッチンなどがある共有スペース)でやり、誰でも途中参加途中抜けができるようにします。
そうすると、ひょこりエライ人が顔を出したり、全然ちがう事業部の人が混ざってきたりします。
きちっとした仕組みをつくりより「まずはやってから改善していこうぜ」という勢いのみでの対応は大事でしょう。
👆コロナ禍に入る前の様子。その後はZoomに移行しています。
裁量をもたせる
事業の方向性に反するものや、すでに他のところで動いているものは止めたほうがよい施策もあります。それらは基本的には一番はじめに事業責任者に「やる」「やらない」だけを判断してもらい、その後は基本担当者におまかせスタイルを取りました。もちろん心配な点があれば、随時確認を取ればOK。
先に優先度を決めましたが、ざっくりなもので細かな順番までは決まっていません。なので「これやりたい!」と言えばそれを担当することができますし、誰もやりたがらない改善は後回しにできるようにしました。あくまで改善を行うメンバーのモチベーションが大事!
できるだけ小さな単位で改善点を作っていき、脳みそを使う時間よりも改善の数を増やせるようにするのがポイント。
結果として事前考慮漏れで実装をしたのにリリースができないというゴメンなさい事例もありました🙇それでもなお、やはりスピードと改善をし続けることを大事にしたかったのです。これらを習慣にしていかないと、言われたことしかやっていけない組織になることが一番怖いと感じていたためです。
どんなことやったの?😎
これは記念すべき1日目に行った改善案。Google ChromeやAndroidなどが採用し最近はiOS 13からはSafariにも採用されている、「検索履歴のキーワードを検索窓に入力するボタン」です。
普通検索履歴は押すとそのキーワードで検索結果に飛びますが、そのキーワードに他のキーワードを追加して利用するときに便利な機能です。
その後どうなったの?😉
本部全員で取り組む
有志が集まって行っていたこの会では確実にリリースが増え積み重ねができてきたところでこの取組は次のフェーズに入ります。
アウトプットも増え社内での認知も深まった段階で、今までは「事業優先度を上げられなかった改善を行う」という取り組みだったのを、「目標に紐付かない改善も事業優先度を上げて取り組む」という方針を掲げ、全員週一時間はプロダクト改善に当てるという取り組みにシフトしました。
これにより更に多くの人に参加してもらうことができるようになるとともに、「きちんとやってくれたことは評価する」という安心感も生まれています。
他の取り組みに転換する
先に話したのはクックパッドのレシピサービスの取り組みでしたが、現在はさらに展開をして、僕が本部長を務めるデザイン戦略部でも行いはじめました。
デザイン戦略部はプロダクトを持たない中央組織ですが、その分手を広げることができる領域は広くあります。
・オフィスのデザイン
・社内ツールのデザイン
・社内のイベントのデザイン
・コーポレートミッションやビジョンの普及のためのデザイン
それこそまさに「やった方が良いけどやれていない」ことばかりです。社内の掲示物をもっとわかりやすくキレイなものにしたり、社内ツールを使いやすくしたり、やり始めるとキリがありません。
なのでデザイン戦略部は毎月テーマを決めて、週一時間×4回の中でできることを行うことにしました。さらに他部署へ「デザイン戦略部と一緒にやりたい改善はありませんか?」と声をかけたところいくつかお声がけをもらったため、他部署/他職種を交えて行っています。
まとめ
こういった取り組みは誰もが否定することはないですが、一方でなかなかやるためには重い腰を上げなければいけないのも確かでしょう。
Googleには有名な20%ルールというものがありますが、週一日を捻出するのは容易ではありませんし、場合によってはその決断に経営判断をあおぐ必要があるかもしれません。
でも、週一時間を捻出するのはそこまで難しくありませんよね?
いきなり大きなことをやるのは大変です。でも小さく積み重ねることはできるはず。なので、大きなことを成し遂げようと気合を入れるのではなく、小さなことを継続ができる仕組みを作ることが大切だと考えています。
それが成功すれば時間を増やしたり違う取り組みに移行することもなめらかになるでしょう。こういった取り組みを始めるための時間もプロダクト開発と同様コストなので、長く考えるよりも素早く始められるミニマムのことから考えてみるのがオススメです!
この「当たり前品質の基準を上げ続ける」ことが、プロダクトや会社の信頼性を上げファンを増やすことにつながると信じています。
一緒に当たり前品質を爆上げしてくれる仲間を探しています
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蛇足
この「ATM(ATariMae)」というプロジェクト名は、僕が前職のヤフーでYahoo!ニュースアプリのPM/デザイン部長をしていたときに行っていたものをそのまま拝借しています。担当者も変わりプロジェクト名は変わっていますが、今も似たような取り組みが継続して行われているそうです。ちょっとうれしいですね😁
ではまた。
頂いたサポートは次なるUIデザインやその記事に役立たせて頂ければと思います!