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月間5,400万人を支えるユーザー体験への想いとその現実
※11/25(月)当日の写真と後日談とオマケを追記しました
これはDesignship 2019で発表をした時の資料です。当日来られなかった方のためにこちらで資料を公開したいと思います。
-------👇ここから発表内容👇-------
こんにちは、クックパッド株式会社の宇野です。今日は「月間5,400万人を支えるユーザー体験への想いとその現実」というお話をさせていただきます。
みなさんクックパッドという会社ご存知でしょうか。色んなサービスを運営していますが、一番代表的なものは社名と同じクックパッドというサービス。国内だけで月間5,400万人もの方にご利用を頂いています。
しかしその分難しいこともたくさん。もっとサービスを良くしたい、もっと料理を楽しめるものにしたい、そんな思いと現実との葛藤の物語を本日はさせていただきます。
はじめに
まず、自己紹介。改めまして宇野 雄(ウノ ユウ)です。クックパッドでVP(Vice President)of Design及びデザイン戦略本部長を勤めています。
やっぱりクックパッドなのでまずはご飯の話をしましょう。この2つが僕の最近のお気に入り料理。
平日は奥さんがやってくれる代わりに週末は僕が必ず料理をしています。
子どもとやる料理も楽しいし、昼からビール飲みながらする料理も最高🍺。このトリッパの煮込みは5時間半くらいかかったりしてます。その時間もまた楽しいもの。
では、ここから本題です。本日のお品書き。今日はこの3つがテーマです。
クックパッドが本当にやりたいこと。
まず1つ目、クックパッドという会社が本当にやりたいこと。
クックパッドって実はレシピの会社じゃないんです。料理の会社なんです。「毎日」の「料理」を「楽しみにする」会社。これをコーポレートミッションとして掲げています。ね、なんだかいいなって僕も思うんです。僕料理好きだし。
ただ、結構現実は厳しくて。
食事は基本的には毎日3食。
1年間は356日
つまり1年間で1,095食のタッチポイントを僕らは作れる。
つまり、1,095回の楽しみがそこから生まれる。
ただ、実際そんな楽しいだけの話ではない。
わかる。新卒の方とか学生さんとかならなおさら。うちの若手も夜ご飯まで会社のキッチンで作って食べてます。
あるある。特に白菜やレタスとか葉物は悪くなりがち。安いからって大きいの買っても結局損しちゃう。
実はこれが一番多いです。もう「何を作るか」が一番苦痛。皆さんはお母さんに「今日何食べたい?」って聞かれたことないですか?
あれは食べたいものを聞いてるんじゃない。作るものを決めてほしいんです。だから「何でもいい」が一番よくない答え。
結局、何だかんだで料理に対して悩みや苦しみを抱えている人がクックパッドには多い。言い換えると「日頃の痛みの解決」がメインとなっています。
でも、ここでちょっと考えてください。「苦しみがない」状態は「楽しい」状態なんでしょうか?苦しみが無いほうがいいに決まっているけどそれは楽しいの?僕たちが掲げている「毎日の料理を楽しみにする」状態に近づいているの?
じゃあ「便利」だったら「楽しい」?
これも違和感ある。利便性だけを求めるならばロボットに任せた方がいい。材料を放り込んだら料理が完成するのはとても楽。それもまた一つの選択肢です。
でも、それって楽しいの?僕は違うと思うんです。
例えば僕は今「ドラゴンクエストウォーク」ってゲームをやってるんですけど、こういうゲームってレベル上げするの面倒くさいじゃないですか。深夜勝手にレベル上げしてくれたらなーとか思うんですけど、実際はそんなことしたら面白くないんです。レベル99からはじめても、結局充実感は得られない。
便利って難しいんですよね。もちろん便利だから楽しいもあるし、便利と楽しみが並列になることもある、場合によっては便利だと楽しくなくなることもある。「楽しみ」を突き詰めていくのはとてもむずかしい。
でも別にどれが正解ではなくてどれもが正解。だからこそ僕はいつもこれを問い続けています。
□ □ VS ユーザーファースト
僕たちが「もっとこうしたら料理が楽しくなる」ということを伝えるために考えたのが、ちょっとした「おせっかい」をすること。
ちょっと印象悪いですよね。おせっかい = やらないでいいこと。つまりそれは時としてユーザーファーストでないことをします。もっとシンプルにできる方法がわかっていながら、あえて少しめんどくさいことをしてもらうことも必要だと思っているから。
とはいえもちろん基本スタンスはユーザーファースト。だっておせっかいって常にやられるとツライです。なので「こうした方が良い」と信じてもらえるような伝え方が大事。決してユーザーファーストを捨てたわけではなく、短期的には少し面倒でも長期的にはユーザーファーストであるという視点を持って臨んでいます。
そこで僕は「優しいデザイン」と「おせっかいなデザイン」という概念を使ってデザインをしています。いくつか実例を上げてみましょう。
まずは優しいデザイン。できたことをきちんと可視化して肯定します。よくカレンダー上に何かをした日を記録していってマスを埋めていくUIってあるじゃないですか。もちろんクックパッドアプリの中でもあります。
これ自体はすごくよいUI。ポジティブな気持ちの時に見ると「これだけやった!」という達成感が得られます。ゲームなんかでも定番ですね。
でも、これ捉え方によっては「10回料理した」ということを可視化すると同時に、残りの「21回料理しなかった」ことを可視化してしまうんです。毎日疲れた状態でなんとか料理をしている方に対してツライ仕打ち。
そこであえて「今まで10回も料理した」という積み上げだけを伝えます。事実は変わらないんですが、料理をしなかったことは必要がなくて、料理をしたということのみを伝えてあげたい。
更に似たような例をお話しましょう。小さなことをきちんと伝えてあげること。
「今まで1,000回レシピが見られたよ」でも、もちろんいいんです。それ自体はすごいこと。でも、これだと1,050回のときはきっと褒めてくれない。それならば小さな単位にして伝えてあげる。「昨日50回も見られたよ」。別にこれが5回でもいい。きちんとできた。人に伝わったということが何より大事。
一方でおせっかいなデザインもあります。
例えば作った料理を自動で保存してくれたらライフログとしてはいいですよね。でもあえてそこで「また作りたい料理を自分で保存」してもらうことがある。手間を増やすんです。これは自ら行動し毎日の達成感を得てほしいから。
あえて能動的な行動をとりそれを積み上げることで、自らの自信と楽しみにつながるんです。これはさっき出したゲームのレベル上げの話に似ています。
また、少し似たような話ですが自分で「選ぶ」という体験を重ねることも大切です。もっと簡単な料理をオススメするというのはよくある手法だと思います。でもそれだと「今」の解決にはなるけど「未来」もまた同じ手間と苦しみが残る。
それならばレシピを見ずに作れる料理を増やせばいい。
これは実際に新規事業である「たべドリ」というアプリでやっているアプローチです。レシピを見ないで料理が作れるようになればそれは楽だし、より幅が広がり楽しい。アンチクックパッドとも言えるサービスです(笑)。
もちろん最初は大変かもしれない。でも「今」でなく「未来」の解決をするために少しだけ余計なおせっかいをしています。それが「料理が楽しい」未来を描くために必要だと信じているから。
理想と現実の葛藤
ずっと料理を続けていくためには優しさだけでなく、時には厳しさも必要になる。それをデザインの力で解決するのも僕たちデザイナーの仕事です。
北風と太陽というお話がありますね。本当ならば僕は「北風と太陽」でいう太陽でありたい。痛みを痛みとして直視しないで、優しい世界だけを見せていたい。でも売上をあげないとそれを支えるサービスを継続することはできないのもまた事実。
毎日の料理に悩んでいる状態だと、求められているのは「今日の痛みの解決」。そしてその方がわかりやすいので売れます。
でも、それは対処療法。根本治療としては「そもそもの痛みを取り除く」方が大事。
でもそれは続けるのは大変。
「毎日運動をするのが健康にいい」など誰もがわかっているはずですが、継続するのは難しいですよね。でもそれだけではいつまでたっても、痛みをごまかすことしかできない。日々の痛みを緩和しつつ、より長期的な目線をもった双方の試みが必要になる。
そこで、期待値に対して上回る体験を提供することが何よりも大事だと考えている。
例えば沖縄旅行に行こうと思ってプランを探してたら、同じ値段でバリまで行けることに気づいた。これっていい体験じゃないですか?シアワセじゃないですか?
もっと振り幅を付けた話をするならば、年末の温泉旅行の計画を立てていたら、行き先がイタリアになってた。英語喋れないから海外旅行は避けていたけど、添乗員さんがいるから、カタコトでも通じるから、ふとしたきっかけでチャレンジしてみたら想像以上の体験が得られた。
こんなことを僕はいつも目指してるんです。
例えば今のクックパッドの期待値はこんな感じ。ハンバーグのレシピが知りたい人には一番人気のレシピを提供する。これは求められているからそれにそのまま答えている。なので人気順というものも有料機能の一つとして提供しているわけです。でもこれだけじゃ面白くない。
たとえば一番人気のハンバーグを探しに来た人が、気づいたらキーマカレーを作っていたとかはちょっと楽しそう。にくじゃがの味付けを調べていたら、子どもが喜ぶポテトサラダを作っていたとか。実は冷蔵庫の中の食材で作りたいと思っていただけで、それがハンバーグでなくても良いことってたくさんあるはずなんです。もちろんいつもではいけど。
「毎日の料理を楽しみにしたい」と日常的に考えることは難しい。でも、僕たちはそれを押し付けるのではなく、日々の行動からそれを自然に体験して楽しくなってもらいたい。そのためには期待値を超える体験をどれだけ提供できるのかが常に大事だと考えています。
そこでどんなコミュニケーションをするかを決めてデザインを考えるのが、クックパッドのデザイナーの仕事でありその組織を作り上げるのが僕の仕事です。
本日の〆
今までお話してきたことは全てこの「未来の物語」に集約されます。ユーザーさんの物語をデザインの力で紡いでいきたい。
みなさんにとって「デザイン」とはなんでしょう?
僕にとってはこの物語を描くことであり更にそれを具現化すること。
僕たちはユーザーの未来の物語を作りそれをデザインしてユーザーに伝えるのが仕事。
デザインは手法であり手段です。
でも、作ったモノを日常的に使ってもらうことで人生を変えることは絶対にできる。デザインにはその力があると信じています。
今日ここに集った皆さんにとっての物語はどんなものでしょう?どうやってそれをデザインしていくのでしょう?今日の僕のお話が、またこのDesignshipという場が少しでもキッカケになれば嬉しいです。
最後に。今クックパッドの中で動いているプロジェクトに「narrative」というものがあります。皆さんは「ナラティブ」という単語をご存知でしょうか?直訳すると「物語」です。
まさしくクックパッドを通して得た体験を物語にしたものをデザインするという発想からできたプロジェクトです。お目見えは来年の予定。
クックパッドが作る新たなデザインの物語を楽しみにしていてください。
ご清聴ありがとうございました。
-------👆ここまで発表内容👆-------
後日談
登壇後皆さんからたくさんのお褒めの言葉を頂いたのですが、正直壇上では必死だったのでイマイチ実感がわかず。後日公開されるアーカイブ動画を見て噛み締めたいと思います。
今回はスピーカーとして、スポンサーとして、2つの役割で参加をさせて頂いたのですが、総じてとても充実感が得られた良いイベントでした。
当日のメンバーの方のホスピタリティや、グラフィックレコーディングを通してのコミュニケーション、登壇者同士のつながり、ブースに来ていただいた方とのコミュニケーション、どれも他のイベントにはない個性的かつ刺激的な体験でした。
登壇後QAセッションがあったり
#Designship2019 の第5,6,7セッションにご登壇いただいたpopIn北村 崇氏 @tah_timing 、クックパッド 宇野 雄氏 @saladdays 、UJI PUBLICITY ウジ トモコ氏 @UJITOMO のQAセッション。「期待値を超えるためのアプローチの仕方」や「憧れるデザイナー像について」などをお話しいただきました。 pic.twitter.com/njd66g84jR
— Designship (@designship_jp) November 23, 2019
アフターパーティーではハルカナさんのVoicyチャンネルで登壇者の人たちでお話をしてみたりして(僕完全に声が酔ってます…🤪)
#Designship2019 のアフタートークをVoicyで収録中!@harukana_8 さんチャンネルでそのうち配信されるよ pic.twitter.com/ghkQQVnPxa
— Yu Uno / Cookpad Inc. (@saladdays) November 24, 2019
本当に楽しい2日間でした。登壇者の皆さん、スタッフの皆さん、スポンサーの皆さん、本当にお疲れさまでした。ぜひまた来年Designship 2020でお会いしましょう!
オマケ
今回の僕の登壇をお聞き頂いて共感を頂いた方、後日こちらのnoteを読んで興味を持って頂いた方。より深くクックパッドのモノづくりの姿勢とデザインを現場最前線のメンバーが語るデザインイベントを12/5(木)に開催します。
締切は11/25(月)となっておりますが、ぜひご都合つく方ご参加ください。美味しい料理を用意してお待ちしています🍳
また毎週クックパッドのデザイナーが持ち回りでnoteからの発信をしています。ぜひこちらフォローしていただけますと幸いです。
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![宇野雄 / note inc. CDO](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/6353952/profile_406f5ea504e0fe39a8ee54836cf20e27.jpg?width=600&crop=1:1,smart)