追悼 ジミー・コブ
四十九日法要。去る5月24日肺がんの為亡くなった名手ジミー・コブを取り上げ改めて氏の偉大な功績を讃えるとともに献花に代えます。名盤『Kind Of Blue』最後の存命メンバーでしたから、当日はネットニュース上でも大きく取り上げられました。今年初旬に予定されていたバースデー公演への出演もキャンセルになっていましたので、健康状態が心配されていたのは事実。
辛く悲しい話はこのくらいで切り上げまして、楽しく奥深い音楽の話を。
主宰の独断と偏見で3曲ピックアップいたしました。うち2曲がマイルス作、残り1曲が比較的近年のライブ音源より。僭越ながら学生時代、氏の生演奏を耳にできるチャンスに恵まれました。フロントマンはテナーサックス奏者グラント・スチュワート、ジャズバーならではの生音、ゼロ距離観戦。幕間に恐る恐る声を掛けてみたところ、快く写真撮影にも応じて下さいました。
Miles Davis/So What
楽曲解説不要。モードジャズの完成形を見た、前年リリースのスタンダード曲「Moanin'」をパロディ/オマージュに書き綴られたメロディーライン、フロントマン三者三様の楽曲解釈。ことジミー・コブのドラムプレイにのみフォーカスを当てますと徹底した「引き算」思考が窺える。煽り立てない、焚き付けない、迎合しない音楽的姿勢は非常にインテリ的でありニヒル。
クラッシュシンバル一発あれば事足りる。マイルスのソロ入り部分でそれが全て証明されてしまいます。必要最小限度の構成になっているのは①意図的②リハーサルテイクとレコーディングテイクという線引きが曖昧だったゆえ無作為的、皆様の耳にはどう聞こえますでしょうか。わけもわからず譜面を手渡され気が付くと録音が終わっていた。主宰の見立てはこうです。
あるいは③ライブテイクを重ねる中で完成形を模索④音楽に完成などない、マイルスの嗜好としてはむしろこちらの色合いが強いでしょうか。主宰とて一端のジャズドラム経験者です。コンペ入賞経験もなければ、リリース媒体もありませんがしかし自身の音楽に行き詰った際道標としてこのアルバム、またこの楽曲に立ち戻り全てを考え直すことから始めています。
Miles Davis Sextet/Devil May Care
マイルスと聞けば黄金クインテット異論は認めない、というファン層も多いでしょう。主宰は一切目もくれず自分の道をひた走ります。数ある録音の中でも極めて異彩を放つこちらの楽曲から。トランペット奏者がリーダー張るセクステット編成って言ったらサイドマンはアルトとテナーでしょう、いえ違います。テナートロンボーン。
しかもそこにピアニストの姿はなく代わりに起用されたのはまさかのコンガ奏者ウィリー・ボボ。あまりに前衛的なキャスティングに驚かされましたがOKテイクを一聴してみるとなるほど納得、「So What」にも通ずるラフさと確かな緊迫感が同居しています。リズム楽器の二枚岩ということですから、当然厚みが凄い。Paul Chambersの推進力が加わりトランス感を増大。
1962年録音。そこから続く調性を超えたフォーマットに縛られない音世界の入り口に位置した音源ということになるでしょうか。コルトレーンの未発表曲集が近年矢継ぎ早にリリースされ、当楽曲のようにいわばプロトタイプと呼ぶべきアイデアスケッチが記録としてしっかり残されていた事実と出会うことができました。エヴァンスも同様です。
Jimmy Cobb/Amsterdam After Dark
2014年、ニューヨークの老舗Smoke Clubでのライブ録音を取り上げ〆ます。これは主宰がグラントのライブで味わった感覚と同じなのですが、ジミーはとにかく音がデカい。マイキングやミックスダウンの都合という指摘もなくはないですがしかしデカ過ぎる。それでいて太い太過ぎる。言うまでもありませんがレジェンド奏者はしっかりと楽器を鳴らします。誰一人例外なく。
「So What」に話を戻しますと。あの一撃必殺のクラッシュシンバルは偶然の産物でも、編集技術の賜物でもなく、ジミーにとっては通常営業だった。その事実に立ち会えただけでも観に行った価値がありましたね。音楽に優劣は必要ありませんがとはいえ、主宰が再現性を高める音楽より一回性の音楽を選り好みしてしまう一番の理由でもあります。
バーンスタインメルドーという10年来続く不動の2トップはベストカップル賞を差し上げたいくらいです。お互いの手の内を知り尽くした2人を、後ろからニヒルな笑顔で見つめるジミーの構図。音楽にもしっかり出ています。オリジナル版リリースから半世紀を経てもなお変わらないスタイルに合掌。天国セッションがさらに賑わいを増していることでしょう。
2020年7月11日
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