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みんなで畠山重忠の喪に服そう! ~ドラマ『風よあらしよ』が教えてくれたこと

『鎌倉殿の13人』第36回、「武士の鑑」。
畠山重忠が討たれて、みんなちょっと泣いて、
「さあ次は誰の番?」
ってわくわくしながら来週を待っているんだろうか。

重忠ロスの皆さん。
喪に服すの、1週間じゃ足りなくないですか?

私はここに、
少なくとも今年いっぱいは、愛する畠山重忠の喪に服すことを誓います。
だから何だって話だが、誰にも迷惑かけないからいいのだ。

そう決心した経緯を、ちょっと書きます。
最後までおつきあいいただけたら嬉しいです。

『風よあらしよ』が教えてくれたこと

畠山重忠死すの回を見た直後、同じチャンネルで、
プレミアムドラマ『風よあらしよ』を見た。最終回。

とても良かった。
最後、見ながらずっと泣いていた。

もちろん、ヒロイン伊藤野枝とパートナー大杉栄の非業の死で終わるからだけど、
なぜか、悲しいだけの涙じゃなかった。
なぜか、救われた気がした。

大杉栄と伊藤野枝について、私はいままでちゃんと知ってこなかった。はずかしい。
でも『風よあらしよ』は、難しい「主義」だの「運動」だのを超えて、
もっと単純で純粋なところから、まっすぐ心に入ってくるドラマだった。

純粋に、
〈自由〉についてのドラマだった。
自分の魂を売り渡さない、ということについての。

だから、見ていて救われた。
畠山重忠の死でずだぼろにされた心が、少しだけ癒された。

世界にNOと言う

大杉と野枝のうち、野枝が主人公だ。
大杉のほうが、野枝の
「こんな人生は嫌だ」
「こんな世界に生きていたくはない」
という単純な怒りのパワー
に引きこまれて、覚醒していくように描かれている。
単純だから、その分パワフルだ。

「こんな世界に生きていたくはない」
というのは、じつは直前に見た畠山重忠の台詞
なんだけど、
そのままスライドしたような世界観で驚いた。
いまある世界に"NO"と言う、というね。

この"NO"という側が主人公だから、夢中で見ていられた。

これが、
いまある腐った世界を守るために、
大杉と野枝を、そしてたまたま連行当日そばにいた幼い甥を!
無防備な若い三人を、拷問のすえに虐殺する鬼畜・甘粕大尉
が主人公だったら、みんな引くだろう。

引かないのかな?

最近、もういろいろ、信じられなくなっている。
「そんなに甘粕さんが嫌いですか?(笑)」
とか、言われるんだろうか。

「官憲の体面を守るためには、関東大震災後のパニックの責任をなすりつける対象が必要だったわけです。
無実でも、べつにいいんですよ。
政府を批判した段階で、
甘粕つまり国にとって邪魔な段階で、国賊なので。
殺されて当然でしょう(笑)」
とか、言われるんだろうか。

自分の頭で考えると殺される

ドラマ『風よあらしよ』で、心に残った名台詞。
(たくさんあったうちの一部。)
原作の小説を読んでいないので、原作にあるのかドラマオリジナルなのかわからないのだけど、そのまま挙げます。

(野枝)「私は、正しくないことが、
あたかも正しいことのように行われていることに抗議します」

(大杉)「自分よがりの革命なんて、くそくらえだろう?」

(大杉、甘粕に)
「周りに置くのは、絶対に楯突くことのない人間のみ。
あんたらはしょせん、奴隷だ」

(野枝、甘粕に)
「私たちは、あなたがたのような犬と違って、
自分の頭を使って考えているんです」

これ、全部、
そのままそっくり、
畠山重忠が鎌倉幕府に向かって言っても、自然な台詞だと思った。

野枝と大杉が本当にそう言ったかは知らない。
でも、言ったかもしれない。
エンドロールで本物の大杉栄と伊藤野枝の白黒写真がつぎつぎ映されて、
本当に生きていた人たち、だったんだ、
本当にあったことなんだ、と、痛感した。

二人なら、言ったかもしれない。
きっと言った。

畠山重忠の死を越えて

この3週間、
私の日曜夜は、6時台と、10時台で、対照的だった。
6時からは大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を見ている。
まさに、権力が、気に入らない人間をつぎつぎと殺していく物語。
私がこれを見続けてしまうのは、たぶんかつて殺された自分の魂のかさぶたをくりかえし剥がす自傷行為なんだけど、そんなことはどうでもいい。

その同じチャンネルで、
10時から、NOと言いつづける人たちの物語を見せてもらっていた。
それでわかった。

畠山重忠が討たれて、みんなちょっと泣いて、
「さあ次は誰の番?」
ってわくわくしながら来週を待っているんだろうか。
これって毎週々々、野枝と大杉の死体が井戸に投げこまれるようなものだ。

「こんな世界に生きていたくはない」
と言って、あらがう人の物語を、
一晩の涙だけで終わらせてしまうのは、私は、いやだ。

重忠ロスの皆さん。
喪に服すの、1週間じゃ足りなくないですか?

私はいまだに上総広常ロスだし、梶原景時だって阿野全成だって比企能員だって源頼家だって忘れられないです。
今年の大河は、変ですよ。
ふつうに考えたら鬼畜でしょう、北条氏は。甘粕と同じ。
どう視点をひっくり返すつもりかと思ってずーっと待ってるけど、いまだにひっくり返らない。
あり得ない。

私はここに、
当分、気がすむまで、愛する畠山重忠の喪に服すことを誓う。

だから何だって話だが、誰にも迷惑かけないからいいのだ。
もちろん伊藤野枝と大杉栄の喪にも服す。

重忠はじめ無実の人間をつぎつぎ殺しながら、
「鎌倉を守るため」
とか言いくさる三谷幸喜の論理には、だまされないことを誓う。

かなり本気で、喪中はがきを用意したくなってきた。



※今回のヘッダーも多摩湖です。前回と同じ日に撮影。

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実村 文 (theatre unit sala)
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