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映画日誌’23-34:シモーヌ フランスに最も愛された政治家

trailer:

introduction:

『エディット・ピアフ 愛の讃歌』などのオリビエ・ダアン監督が、女性初の欧州議会議長となったフランスの政治家シモーヌ・ベイユの人生を描いた伝記ドラマ。『パリ、嘘つきな恋』のエルザ・ジルベルスタイン、『スザンヌ、16歳』のレベッカ・マルデールがそれぞれの世代のシモーヌを演じる。公開後10週連続トップ10入りのロングランヒットとなり、240万人を動員し2022年フランス国内映画の年間興行成績NO.1の記録を樹立した。(2021年 フランス)

story:

1974年パリ。カトリック人口が多数を占め男性議員ばかりのフランス国会で、シモーヌ・ヴェイユは圧倒的反対意見をはねのけ、後に彼女の名前を冠してヴェイユ法と呼ばれる中絶法を勝ち取る。1979年には女性初の欧州議会議長に選出され、大半が男性である理事たちの猛反対の中で「女性の権利委員会」を設置。女性のみならず、移民やエイズ患者、刑務所の囚人など弱者の人権のために闘い続けた不屈の意志は、かつて16歳で家族とともに送られたアウシュビッツ収容所を生き抜いた壮絶な体験によって培われたものだった。

review:

現在のフランスは男女平等に関する国際比較では上位国の常連(「ジャンダーギャップ指数2021」では153カ国中16位)であり、女性が生きやすい国というイメージがある。しかし元からそうだったわけではなく、最近も映画『あのこと』や『パリ・タクシー』で描かれたように、20世紀後半まで強固な家父長制度が組まれ、中絶は違法、女性は夫の許可なしに就業できない、銀行口座を開けないような社会だった。

そんな状況を変えるべく、男社会の中で孤軍奮闘した政治家がいた。それが、本作でその壮絶な人生が描かれたシモーヌ・ヴェイユだ。オリヴィエ・ダアン監督が『エディット・ピアフ 愛の讃歌』『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』に続き、世紀の女性を描く3部作の渾身のラストとして完成させた。

シモーヌ・ヴェイユはフランス人に最も敬愛された女性政治家であり、フランスの新聞社による好きな著名人アンケートで2位にランクインするほど圧倒的な人気を誇る。2017年に89歳で亡くなった際には国葬が執り行われ、フランスの偉人を祀る墓所・パンテオンに埋葬すべきという多くの声を受け、マリ―・キュリーらに次いで5人目の女性として合祀されている。

1927年、ユダヤ系の家に生まれたシモーヌは、16歳でナチス・ドイツのアウシュヴィッツ強制収容所に送られている。戦後、フランス屈指のグランゼコールであるパリ政治学院で法学を学んで司法官の道へ。1974年に保健相として女性初の大臣職に就くと、人工妊娠中絶の合法化法案を国民議会で発表。1975年、妊娠中絶を合法化する通称「ヴェイユ法」を勝ち取ったのだ。

作中でも収容所での壮絶な体験が詳細に描かれ、それが彼女の信念を貫く不屈の精神を培ったものだと分かる構成になっているが、個人的には、古い慣習や男社会と闘いヴェイユ法を勝ち取った過程をもっと観たかった気がする・・・ものの、本作を通してフランスの女性が自由を勝ち取ってきた歴史を知り、今自分の身が置かれているジェンダーギャップに関心を持つことは、切実に必要なことではないかと思う。そういう意味で観る価値あり。

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