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プルーンのほっぺ
生のプルーンのはなし。
なぜ生の、と強調するかというと
もっぱら私の知るプルーンは
干してあるか、ペースト状になってるか
だったから。
ペースト状プルーンとは
それすなわち" ミ◯プルーン" のことで、
一方の干したプルーンは、水気の抜けた
大きな梅干しみたいな佇まいをしている。
どちらも味は好きなのだれけど
そのままま食べると、喉に痺れそうな甘み。
だからいつもヨーグルトに混ぜるか
パンと齧るか、していた。
だからこの晩夏、
プルーンの木が茂る庭を訪れたのが
生プルーンとの初対面。
それは
" 娘が3歳を迎える前に、家族で飛行機に乗る "
(なぜって飛行機代が無料だから!)
その夢を叶えた、24年晩夏の旅でのこと。
よく晴れた9月初旬の朝、
神戸から小さな飛行機に乗って、千歳空港へ。
車を借りて、積丹半島まで走らせる。
私の高校は北海道にあって、
その近くにできた、改装された古民家一棟貸しのお宿を目指した。
庭には、たくさんのリンゴとプルーンの木。
ピザ釜から立ち昇る煙のなか
庭の奥へと歩いていくと、ブドウの木があって
白い紙の袋に、まだ若い果実が大切にくるまれていた。
土間の上り框には
庭で収穫された枝豆が山と盛られていて
夫が朝早くに焙煎したコーヒー豆の匂いが
家全体にふんわり漂っている。
そんな宿に2日間、滞在した。
生のプルーンの重量感。
桃よりも、がっしりしてて
薄皮みかんよりも、柔いぐらい。
果肉に弾力のある巨峰を
手のひらほどに大きくしたら、こんなかんじか。
鈴なりになっている木を見上げていると
食べごろの見分け方を、宿の主が教えてくれた。
" あかちゃんのほっぺ、
とはよく言いますが、
本当にそれ位がいいですよ。"
なるほど、と思い、ひとつ実をもいで
軽く流水であらい齧ってみると
うーん…まだ硬く感じる。
見分け方も難しいもんだ、とため息してると
" 食べごろの実を冷蔵庫に入れときました "
という天の声。
喜び勇んで扉をあけると
そこには立派なパープルアイが冷えている。
手に取って驚いたのはその柔らかさ。
ぷに、と指先で感じるどころじゃない、
手のひら一杯に、まさに赤子のほっぺたが
まるごとずっしり落ちてきたような感触。
こんなに柔らかくて大丈夫だろうか、
完熟すぎて甘すぎやしないだろうか…
とおそるおそる、皮ごとひと齧りするや。
プラムみたいなジューシーさで
その大きさ1.5倍ほどもあるのに
全くくどくない甘さと果汁に驚いた。
果肉の、種離れのよさもいい。
" 待って、タネについてるこの実がまだ食べられそうなんだよね… " といった未練とも無縁。
すっきり食べれて、ぱっと終えられる。
ふだんは丸齧りなんてしない夫もかぶりつき、
この旅の土産は迷いなく
向かいの果樹園から送る
プルーン詰め合わせ、に決まりました。
(9月は北海道でのプルーン最盛期。
いくつか他の品種も試したけれど、
パープルアイがいちばん好きだった、とここに記しておく。)