『重なる熱』
いつものベンチ。
ふと、小指同士が触れる。
びくっと手を戻す君。
僕は動かない。
気にはなったが、問題はない。
いくらでも待てるから。
今度は僕の手の甲に、
君の手のひらが重なった。
少し震えている。
「大丈夫?」
君は真下を見たまま、頷く。
重なった分だけ、
少し強くなれた気がした。
僕は手首を返して、
君の手のひらを迎え入れる。
そろりと指の付け根を広げると、
君が指をおろしてくれた。
閉じ込めた体温を逃がさないように、
今度は深めに、君を受け入れる。
指の骨の弱々しさ。
血の通った指の腹の温かさ。
預けられたものの、
ひとつひとつが切ない。
今はこれでいい。
これだけでいい。
「お前のペースでいいから。」
そう言ったのは僕だ。
不意に、さっきよりも君の手が、
ほのかに温かさを
増している事に気付く。
透けた血管と
華奢な手首。
垂れた髪の隙間から見える、
薄赤の唇。
「ごめん。」
僕の呟きに、
君がゆっくりとこちらを見上げた。
その速度に合わせて、
我慢できずに、
君の手の甲を自分の口元へさらう。
「綺麗、とっても。
お前は綺麗。」
まっすぐに僕を見つめる君を
焼き付けるためか、
触れ合う部分が熱を帯びてゆく。
夕暮れの風の音が、
遠くに聞こえた。