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夢をもう一度見ないか 11
この日は路上ライブ。今まで何度か同じところでやってきていたからか、観客がすぐに足を止めてくれるようになった。
【人はどうして夢見始めたんだろう。
ぐっすり眠った方が休めたはずさ。】
新曲の反応も上々、好感触で続いていたが…
茉央:…うっ、ごほっ
突然茉央が咳き込んでしまった。
いろは:茉央っ、大丈夫!?
茉央:あーあかん、変なとこ入っただけやから…
そう言いつつも咳が止まらない茉央
いろは:…とりあえず水っ!
水を渡して、飲ませる。
茉央:…ふぅ、あかん、ごめん。
いろは:いいよ、全然大丈夫だから。体調悪い?
茉央:…ギターだけ参加にする。
いろは:わかった、無理だったら座ってて平気だからね。
茉央:ごめんな…。
その後のライブは1人で何とか乗り切った。
お客さんから茉央は大丈夫かと心配の声が上がる。
いろは:えっと、茉央はちょこっと体調を崩してしまったので!大丈夫です!
とっさに嘘をついてしまった。
茉央:…皆さんごめんなさい、今日はちょっと体調悪くて…また次の時は平気なので…。
観客:無理はしないでな。大丈夫次楽しみしてるから!
茉央:…ありがとうございます。
いろは:…茉央、大丈夫?
茉央:うん、大丈夫。ありがとな。
絶対に大丈夫な状態では無いはずと、何となく感じた。
茉央:さ!帰ってまたやり直しや!
少し空元気のように声を上げる茉央、心配の思いしかなかった。
いろは:本当に大丈夫?
茉央:大丈夫やから!
でも、笑顔の先に踏み込んだら行けないのかもしれない。
いろは:…そっか、でも無理はしないでね。
茉央:わかっとるて、お母さんみたいやな?
いろは:それって褒めてる?
茉央:まぁ…多分?
いろは:多分ってなによ。
茉央:げっ、さっさとかーえろ!
いろは:こら!まて!
走り回れている今は平気なのかもしれない。
思えばこの辺りから茉央は少しずつおかしくなっていた。
店を開ける日も
茉央:…ごめん、ちょっと今日出られへん。
いろは:…大丈夫?
茉央:大丈夫や。
いろは:うん、とりあえずゆっくり休んで。
茉央:ありがとな。
陽子:…私にも感謝してや。
茉央:…よーこもありがと。
陽子:ふん!元気になったらちゃんとお返ししなさいよ!
茉央:せやなぁ。何がええかな。
陽子:寝ながら考えとき!
バイトを少し休むようになったり。
茉央:…。
いろは:…茉央?
茉央:はっ、なんやなんや。
少し思いつめるようになったりしていた。
いろは:…やっぱなんか隠してない?
茉央:…いや、隠しとらんで。
いろは:…そっか。
茉央:…ごめんな、迷惑かけて。
いろは:いいの。私のことより自分の心配。
茉央:おん、ありがと。
私は茉央に何を隠されているのか、とにかく知りたくて仕方なかった。
でも、茉央は知られたくなかった。
関係値は変わらないし、私は茉央を信じている。だから
いろは:…今日は歌えそう?
茉央:おん!今日行ける!
いろは:…ほんとに!?じゃあ準備していこっか!
茉央:任せとき!
こうやって一緒に歌えるだけで、私は幸せなのだ。