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夢をもう一度見ないか 18

七瀬:…病院。

七瀬さんから病院名を言われた時、正直驚きを隠せなかった。

七瀬:…茉央が待ってる、行ったって…。

…今は、いや、今だけじゃない。
もう、関係ない。

いろは:…わかりました。

覚悟を決めるんだ。

ーー
数日後、七瀬さんから教えてもらった病院へ。

いろは:…五百城茉央さんの面会を予約していた奥田です。

受付:はい、奥田さんね。729号室です。

言われた部屋の前に立つ、
ノックをして声をかけるが返事は無い。

ドアを開けると

茉央:…。

頭に包帯を巻かれ、沢山のチューブで繋がれている茉央がいた。

いろは:…まお。

ショッキングだった、信じられなかった。
すぐに駆け寄り手を握る。しかし。

いろは:…茉央!茉央!

生暖かい感覚はあるが、握った手はまるで生きていないかのような、ゴムのような感覚だった。

いろは:……まお…っ…。

一生懸命に手を握っても、握り返されることは無かった。

いろは:…しなないでよ…絶対に…生きて…っ…。

ベッドに突っ伏しながら手を握り、名前を呼ぶ、意味が無いこともわかっているのに、まだ縋らないと…

??:…大丈夫よ。

不意に後ろから抱きしめられた感覚がした。
…懐かしい声色と、暖かさ。

いろは:…っ…、うぅっ…。

母:いろは、久しぶり。

いろは:うっ、お母さん…っ。

母:うん、大丈夫、大丈夫よ。

優しく背中をさすってくれる。

いろは:…まおぉ、うぅっ、

母:茉央ちゃんは絶対帰ってくるから。安心して。

しばらく、母の胸の中で泣き続けてしまった。

ーー

母:…全然帰ってこないから心配したよ。

いろは:…あぁ言ったから、帰ってくるなんて出来なかった…。

母:…別に気にしなくても良かったのよ、いろはは私たちの娘なのよ。

いろは:…うん、

母との再会、今まで取れなかった時間を埋め合わせるように話を紡いでいく。

いろは:…そういえば、茉央のこと知ってたの?

母:…まあ、元々うちに入院しててね。

いろは:そうだったんだ…。やっぱり…。

病気、してたんだ。重めの。

母:まぁ、素直な子だけど辛いところは絶対見せなかったからなぁ。

いろは:…そっか。

母:でもね、あの子は強い子だなって。

いろは:…どうしてそう思ったの?

母:うーん、一緒にギターやったからかな?

いろは:えっ?

母:…あんま言いたくなかったけど、動画サイトとか見ないのよ。だからいろはがどんなことしてるとか、全然知らなかった。

いろは:まぁ、知ってるよそんなこと。

お母さんはスマホとか、苦手な人だったからなぁ。

母:でもね、見てたのよ茉央ちゃんが。いろはのこと。

いろは:…そうだったの、茉央。

眠っている茉央の顔を見る。穏やかな顔だが、今彼女は戦っている。

いろは:…その後から?

母:うん、ちゃんと調べて、聴くようにした。すごい上手になったわね…。

いろは:…あの後から荒れてきたけどね。

母:想いは乗ってたわよ。

いろは:…そっか。

母:…ごめんね。あの時反対して。

いろは:ううん、私も生意気だったし、もう終わり。

母:…あなたは茉央ちゃんの希望だった、そして今もそうなんだと思う。

いろは:…。

母:…私は諦めきって、今はこうしてるけど、あなたは違う。

いろは:…。

母:…。なんだかしめっぽい話になってきたね。

いろは:…ここでいう?ふふっ。

母:ふふっ、応援してるわよ、いろは。

いろは:…ありがとう。

母:…また明日来るかしら?

いろは:うん、しばらくは毎日行くよ。

母:…そうなのね、先に茉央ちゃんの症状を伝えておくわ。

私は母から茉央がどういう状態なのかを聞いた。でも、不思議と悲壮感は出なかった。

母:…って感じよ。大丈夫かしら。

いろは:うん、茉央なら絶対大丈夫。

「私に夢を諦めさせなかった人だから」

母:…良いコンビね。

いろは:今度は私が助けてあげるって決めてる。

母:…頼もしくなったわね。

いろは:へへっ、お母さんも円熟味が…

母:老けたって?

いろは:…ちがうから…。

母:…いいわよ、えぇ、また明日ね。

いろは:はーい、また明日ね。

母:…ギター持ってきてね、明日。

いろは:…?

母:お願い。

いろは:…わかった。

そう言って今日の面会は終わった。

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