テレカクシ
…私は猛烈な大ピンチに襲われている。
体調悪いとか、家が燃えたとか、画材が盗まれたとか、そういうのじゃなくて…。
〇〇:…ん?瑛紗さんなんか進んでなくない?
瑛紗:んぇっ!?全然そんなことないよ大丈夫そんな気にしないでははは…
〇〇:すごいねよく噛まないね。
瑛紗:んんっ…///
今大学の美術室で一緒に絵を描いてる〇〇という男。入学式の時に私が一目惚れ。でも〇〇くんは…
〇〇:…ん?そんな顔みてどうしたの?
瑛紗:いやぁなんでもないよぉ!
もう無!!無なの!!
普通なんか女の子と二人きりで…ってなると多少は顔変わるものじゃないの??
〇〇:…ふーん?
瑛紗:な、なに。
〇〇:いや?
瑛紗:もう!
なんなんですかこの人!
なんて言うか、考えを見透かされているような…。
瑛紗:…むむぅ…。
〇〇:なんか煮詰まってるね。
瑛紗:むむぅ。〇〇くんはどう?
〇〇:…俺もまぁ煮詰まってる。
意外かも。いつも割とサラサラ描いてるイメージがある。
瑛紗:〇〇くんでも描けない時あるんだね。
〇〇:僕をなんだと思ってるの。
瑛紗:凄い絵描きの人。
〇〇:なんだそれ笑
なんて何気ない会話をしていても顔が緩んでないか、赤くないかが不安になる。私にとっては大ピンチだ。
ーー
今日も何気なく美術室に行く。
何となく〇〇くんに会えるんじゃないかな?って期待をして。
瑛紗:…失礼しまーす…。
〇〇:お、瑛紗さんだ。最近よく来るね。
瑛紗:〇〇くんこそ毎日いる?
〇〇:描くのが好きだから、毎日いちゃうかも。
瑛紗:…他に趣味とかあったりするの?
〇〇:んー、ほとんど絵描きしかしないからなぁ。
瑛紗:…ふむ。
〇〇:趣味らしい趣味は無いね。
瑛紗:…じゃあさ。趣味増やしてみない?
〇〇:…お?え?
なんで突然口走ったのかわからない。
でも何だか、私しか知らない彼を作りたくて…
瑛紗:…やだ?
〇〇:…いや、瑛紗さんがよければ。
瑛紗:よし!いこう!
〇〇:え?今?
瑛紗:うん!
〇〇:…ふふっ、いいね、行こう。
こうして画材を置いて、私たちは外へと向かっていった。
ーー
といっても、私にも特に趣味らしいものは無い。運動系はあんまりだし、読書は画集とかくらい…。
瑛紗:なんか好きなこととかない?
外で歩きながら問いかけてみる。
〇〇:うーん…割とゆったりするのが好きかな。
瑛紗:なるほどぉ…。
すると目に付いたとある建物。
瑛紗:ねぇ、ここでゆったりしよ。
〇〇:お、いいね。
そうして私達はカフェに入る。
小粋な内装、落ち着きつつも軽やかな音楽が流れる店内。
瑛紗:…むむ。
〇〇:瑛紗さんは何飲むの?
瑛紗:…ミルクティー。
〇〇:奇遇だ、同じの。
瑛紗:ふぇっ!?
〇〇:すみませーん。
そうしてサッと注文を済ませてくれる。
あまりこういうのが得意じゃない私にとってはすごく助かる。
瑛紗:…ニコニコ
〇〇:そういえばさ。
はっ、多分表情が緩んでる。いかんいかん。
〇〇:瑛紗さんはなんか趣味ないの?
飲み物が届く。アイスのミルクティー。
瑛紗:うーん、私も趣味らしいものは無いかなぁ。それこそ絵を描いたり…。
〇〇:なんだ、同じなんじゃん笑
ニコッと〇〇くんが笑う。それを見て…
瑛紗:ゴクゴクゴクゴク…
〇〇:喉乾いてた?
はっ!ミルクティーが半分くらい減っちゃってる!
瑛紗:…ゴクッ。
照れ隠しで小さくひと口。
爽やかな茶葉の風味と優しいミルク。
瑛紗:ふぅ…。
〇〇:…ゴク…。
瑛紗:…趣味欲しいなぁって感じもしなかったからなぁ。
〇〇:あぁ、わかる。無理に増やしても…って思っちゃって。
瑛紗:なんか考え方似てるね。
〇〇:…確かに。
なんて他愛もない話をして。
気づけば1時間くらい話していて、とっくの前に空になったグラスには溶けた水と淡くベージュ色が広がる。
〇〇:…カフェ巡りって、いいのかも。
瑛紗:おっ。〇〇くんの新しい趣味ができた?
〇〇:…なんか瑛紗さんも良さそうな顔してるけど。
瑛紗:…バレた?
思ったよりも居心地がいい。
雰囲気も、時間も、ゆったりしていて私に合っている。
心残りはあるものの退店。
〇〇:…瑛紗さん、ありがとう。
瑛紗:急だね。どうしたの。
〇〇:新しい趣味が見つかった。
瑛紗:私も見つかったかも。
〇〇:…あの、またカフェ行こうよ。
突然のお誘い。
瑛紗:行きますぅ!!
〇〇:…食い気味…笑
瑛紗:はっ///
なんやかんやここからカフェに二人で行くことが増えた。
ーー
今日も絵描き疲れてカフェへ。
瑛紗:…今日はコーヒーに挑戦。
〇〇:苦いよ?
瑛紗:いけるからっ。
〇〇:じゃあ僕も。
瑛紗:…無理に合わせなくても
〇〇:いや、瑛紗さんが飲むなら僕も飲むよ。
一体なんなんだ。天然タラシなのか…!?
〇〇:すみませーん。
相変わらず注文は彼が。
2人ともアイスコーヒー。
瑛紗:ありがとね。
〇〇:んー、苦手なもんは補い合いだよ。
瑛紗:…ふぅん。ゴクゴク…
お冷で茶を濁す。水なのに。
瑛紗:あっ、きた。
いよいよコーヒーとのご対面。
…黒い。なんか、黒い。
〇〇:…ゴクッ
〇〇くんがひとくち。
〇〇:…にがっ。
表情はあんま崩れてないけど声が苦そう。
私も恐る恐る1口…
瑛紗:にがぁ…。
挑戦は時に失敗もある。
〇〇:瑛紗さんすごい顔だよ。
瑛紗:それ恥ずかしいやつ…//
〇〇:んー、でも大丈夫だよ?
瑛紗:私がだいじょばない…ゴクッ…
瑛紗:にがぁぁ…
〇:ふふっ…
なんて話してたり。
初めて行ったカフェが行きつけになって、2人でよく来るようになって。
色々とわかったことがある。
瑛紗:…〇〇くんって、結構人のことよく見てるよね。
〇〇:…絵にも繋がるし。人間見てるのは割と楽しいよ。
瑛紗:…ちょっとはわかる。
〇〇:…ちなみに前髪切った?
瑛紗:…すごっ。
よく人のことを見ている。今みたいに小さな変化にも気づいてる。だからか、心を見透かされてるように感じていたのは…。
ーー
そんなこんなでよくふたりでカフェに行ってたりしながら、数ヶ月。
フランクに話せるようにもなったけど、私の想いはどんどん強くなるばかりだった。
瑛紗:…むぅ…。
この想いをどう抑えればいいか、〇〇くんはきっとなんとも思ってないのだろう。
そう思いながら美術室に入ろうとすると、ドアが少し空いていた。なんか少し声も聞こえる。
瑛紗:…んんっ?
中を見ると、〇〇と女性が親しげに話していた。
瑛紗:…。そっか…。
全てを察して、私はゆっくりとその場を離れようとした。その時。
〇〇:…!!
目が合ったような気がして、
私はその場を走り去った。
ーー
あの日以降私は家で絵を描くようになった。
瑛紗:…。だめだ…。
本来落ち着くはずの場所、でもいつも通り描けなくて。
瑛紗:…なんでだよぉ…っ。
〇〇くんがいないから。分かっていた。
でも…あの子には…彼女が…。
瑛紗:…あっ…筆1本ない…。
普段使わない筆、たまたま美術室に忘れたのか。
瑛紗:…はぁ…。
重い足取りで、大学へと向かう。
道中の行きつけだったカフェも、今は見たくないものだった。
ーー
時刻は夜7時を回った頃。
美術室の中に入る。
ドアが開きっぱで、入る時になんでか淡い何かを思った。
瑛紗:…だれもいないか。
安心したような、悲しくなったような。
とにかく筆を探す。
瑛紗:…あれ、ない。
どこに置いたのか。
私が普段座る場所にも、道具を置く場所にもなくて。
瑛紗:…無くしちゃった。っ…。
何も上手くいかなくて、ひとりでへたりこんでしまう。
すると…
??:…探してるのは、これ?
ふと聞き覚えのある声の方をむくと
〇〇:久しぶり。瑛紗さん。
会いたいような、会いたくないような。
そんな感情になってしまう。
瑛紗:…ひさしぶり…じゃなぃ…っ。
〇〇:…大丈夫?
瑛紗:うるさぃ…っ…。
〇〇:…へ?
瑛紗:そんな気軽に話しかけないでよっ!
〇〇:…ご、ごめん?
瑛紗:彼女いるんでしょ…っ…私なんかに構わない方がいいのに…っ…。
〇〇:…へっ?
瑛紗:…?
〇〇:…僕に彼女なんて…いないけど…?
瑛紗:…え?
多分、いっちばん間抜けな顔をしてしまったのかもしれない。
〇〇:…ふふっ、あははっ。なんで、彼女なんて出来るわけないよ。
瑛紗:だって…この前女の人と…。
〇〇:あぁ、あれは大学の職員さん。
瑛紗:え?
〇〇:ここの鍵本格的に僕に預けられたの。
毎日僕がいる訳だし。
瑛紗:………。
〇〇:…瑛紗さん?
瑛紗:…こっちみないでぇ…っ…//
盛大な勘違いをしてしまっていたらしい。
〇〇:…だからあの日から来なかったのね。
瑛紗:…もうやだ…//
今は飲み物も、お冷も何も無い。
隠すものが何も…。ない…。
〇〇:…てか、僕好きな人いるしね。
瑛紗:…えっ!?
衝撃の告白。
やっぱ私なんかじゃダメだったんだ…。
瑛紗:…嫌だ、その話聞きたくない。
〇〇:えぇ。
瑛紗:せめて……せめて…。
大ピンチな私、一発逆転なんて無理なのかもだけど伝えたい。
瑛紗:…私が、…私が!
『〇〇のこと、好きなのに…!』
もう止まらない。照れ隠しなんて。いらない。
瑛紗:…好きだったのに…!
〇〇:…へっ?
瑛紗:…なんか、言いなさいよ…っ…。
〇〇:…こんなとこでもなんだね。
瑛紗:…?
『僕も瑛紗さんのことが好きなんだよ。』
瑛紗:………うそ?
〇〇:ここでつくと思う?
瑛紗:…ほんと?
〇〇:…証明する?
そうして優しく抱きしめてくれる。
〇〇:…すごい恥ずかしい。やっぱ想いを伝えるって。
瑛紗:………ギュッ
〇〇:…答え、教えて?
瑛紗:…ばか、言わなくてもわかるでしょ。
〇〇:…言わなくてもわかるかもだけど、言って欲しいの。
瑛紗:…好きだよ。大好き。絶対離してやんないから…覚悟しといてね…!
〇〇:…望むところだよ。
ーー
今日も私たちはカフェに行く。
デートみたいな感じで、なんか気分が乗る。
〇〇:…今日はご機嫌さんだね。瑛紗。
瑛紗:…〇〇もなんか表情柔らかいよ。
〇〇:そりゃ好きな人と出かけるのは楽しみでしょ。
そんなことを言いながら店内に。
〇〇:すみませーん。いつもので。
そうして運ばれてくる冷たいミルクティー。
〇〇:…やっぱ落ち着くなぁ。
瑛紗:…そだねぇ。
〇〇:そういえばメイク変えた?
瑛紗:やっぱり、よく見てる。
〇〇:凄く似合ってるよ。
瑛紗:…〇〇のために変えてみたから。
〇〇:…ゴクッ
瑛紗:えへへ…ゴクッ
お互いにミルクティーをひとくち。
いつも以上に甘く感じた。
テレカクシ