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夢をもう一度見ないか23
茉央が倒れてから約1週間、未だに目覚めなかった。
母:…いらっしゃい。今日はどう?
いろは:うーん、今日も歌うよ。茉央に聴かせたいし。
母:ふふっ、かくいう私もチューニング終わってるからね。
いろは:めっちゃ準備いいんじゃん。
そういいふたりで歌い始める。でもなんだか今日はいつもと違った。
いろは:…なんか起きそうな気がする。
母:…どうかしらね?
ーー
最近ずっとこの暗い空間におる。
結局誰が誰なのかも分からないまま、とりあえず息をしている…。
茉央:…ホンマに辛い。
ずっと一人でいることは慣れていない訳では無い。ただ、光がないのが辛すぎる。
茉央:…誰でも、誰か…助けて…。
すると、何かが聞こえてくる…。
茉央:…なんや!
『ほら人混みの、誰かが走り出す…』
上の方から光が降りて、手を伸ばしてくれる。
茉央:…届…けっ…!
必死に手を掴むと、一気に引っ張り上がり…光の先へと向かっていく。
ーー
いろは:…決心のきっかけは…、っ!?
母:!?
茉央:…うぅっっ…!!
茉央が、目を覚ました。
母:いろはっ!ナースコール押して!
いろは:あっ、うん!
即座に伝達をし、医者に任せる。
医者:…お二方は部屋から出ましょう、我々が色々と確認しますから、少しお待ちください。
そういって待合室に戻された。
ーー
とりあえず七瀬さんに連絡を入れ、2人で待合室に。
七瀬:マジか!?すぐ行く!!
と連絡が入っていた。
七瀬:…いろはっ!!はっ!
いろは:お母さん、この人が七瀬さん。私の命の恩人だよ。
母:初めまして…奥田いろはの母です。うちの娘がお世話になっております…。
七瀬:…初めまして。西野七瀬です。いろはさんからは大切なことやものを沢山頂きました、お世話だなんてそんな…。
母:…そうなんですか?それなら…よかったです…!
母がここ最近見せた笑顔で1番優しい笑顔だった気がする。
3人で少し談笑を交えていると
医者:…お待たせしました。
医者が帰ってくる。
医者:…いいニュースと、悪いニュースがあります。
いろは:…えっ?
七瀬:…どういうことですか?
医者:とりあえず、良いニュースはかかっていた病気がほぼ完治したこと。薬の投与を続けつつ寝ていたので…それが影響しています。
七瀬:…それで…。
いろは:悪いニュースって…。
医者:…皆さん覚悟を決めて、病室に入ってください。
促された言葉を理解できないまま病室に入る。そこには、目を覚ましていた茉央がいた。
いろは:…茉央っ!!
七瀬:茉央!!
2人して近くによる。
茉央:…なぁちゃん、迷惑かけてごめんな。
七瀬:…ええんよ!全然!よかった!!
いろは:うんうん!
茉央:ところで…。
『なぁちゃんの隣の方は誰…?』
いろは:…えっ?
七瀬:…なっ、じょ、冗談やめてや。いろはちゃんだって。
茉央:…あかん、全然わからん。
いろは:…茉央、嘘だよね…。嘘って…いって…。
茉央:…ごめんなさい。本当にわからない…。
七瀬:…い、いろ…は…。
いろは:…すみません、少し外に行きます。
必死に出てきそうな感情を抑え、屋上に駆け込む。
いろは:…どうして、どうしてっ、なんでこんなことになるんだよ…っ、!!
もう身を投げる、その思いで柵に手をかけたが、後ろから抱きつかれる。
母:いろはっ!落ち着いて!
いろは:無理だよ!!なんで!?なんでこんなことになっちゃうの!?もう死んだ方がマシだよ!!
母:そんなこと言うな!!!
いろは:………っ、うぅっ、うぅぅぅ…
母:…死ぬのが救いというのは否定しないけど、遺された方の身にもなりなさいよ…。
いろは:…ごめんっ、なさい…っ。
母:…うん、いいの…辛い…私も辛いよ…っ、
いろは:なんで、どうしてぇ、まおっ、なんで…。
その日から私は色を失ったような気がした。